セムラというお菓子を知っていたら、その人はお菓子好きである前にスウェーデン(北欧)好きか縁のある人に違いありません。私はストックホルム在住のお菓子ブロガーさんの記事がきっかけでその存在に興味を持ち、ついに今年、セムラを食べるために飛行機に乗ってしまいました。

ところでセムラってどんなお菓子なの?

簡単に説明すると…

カルダモン入りの甘いパン生地にアーモンドクリームと無糖ホイップクリームを絞ってサンドした、日本で的に言うとケーキとパンの間っぽいお菓子。一見シュークリームのような形。

イースターの前くらいまで食べられる期間限定のカーニヴァル菓子。

もともとキリスト教の国ではイースター前の四旬節に肉や卵、乳製品の断食を行っていました。人々は四旬節の始まる前の火曜日に、ここぞとばかり、栄養価の高い動物性の食べ物、脂肪分を食べ収めたそうです。これがファト・チューズデー〜太った火曜日〜謝肉祭(カーニヴァル)の食習慣というわけです。しかし時代が進むにつれ、断食の習慣は薄れ、セムラを食べる習慣だけが残り、今では年明けくらいからイースターのちょっと前まで街角のお菓子屋さんやカフェに並ぶようになりました。

なるほど、フランスのベニエ、ドイツやオーストリアのクラプフェンなど、カーニヴァルといえば揚げ菓子が定番のヨーロッパ大陸で、“揚げ”ではなく“クリーム”で脂肪を表現するなんて乳製品のおいしさが際立つ北欧らしい! あのアイスクリームのおいしさは忘れられない。食べに行くなら今しかない、と急遽チケットを手配し、2月末にストックホルム入りを果たしたのです。

さあ、何はともあれストックホルムのセムラをご覧ください。


トックホルム・アーランダ空港到着後、いきなり現れたセムラは、ロバーツコーヒー(Roberts Coffee)のもの。大きい! 食べたい! けれど夜着だったため写真に収めるだけにし、先を急ぐことに。

ストックホルム空港内にあるロバーツコーヒーのセムラ

Roberts Coffee http://www.robertscoffee.com/ 



いてバスでストックホルム中央駅に着き、駅構内のお店をチェック中見つけたガトー1937 (gateau STOCKHOLM ETABL 1937 )のセムラ。うれしいことに、ノーマルとミニ、ふたつのサイズがあったので、我慢できず小さいのをひとつ買って宿で食べることにしました。(小25クローネ)

gateauでは、ブラックボードに、セムラが
どんな内容なのかが書かれています


宿に入り冷蔵庫を開けると、驚いたことにセムラが入っていました。ここは2010年にもお世話になった簡易キッチン付のB&Bで、セルフブレックファストが毎日冷蔵庫に用意されるのですが、勝手知ったるリピーターに心憎い演出、長旅の疲れも吹き飛びました。

B&Bの冷蔵庫を開けると、朝食用ハム等の
下にセムラの入った箱が!

まずはgateauで買ったミニセムラをいただきます

左:gateau STOCKHOLM ETABL 1937
右:Alimenta Konditori(宿の冷蔵庫にあった箱入り)

セムラの断面はこんな感じ。どこのお店でもノーマルサイズは大体直径8〜10cm、ミニは直径約5〜6cm、日本人にはミニで十分満足の大きさですが、現地サイズもちゃんとチャレンジしたい。

はじめて口にする本場でのセムラ。gateauのミニセムラは小さいけれど、はっきりした味。挟んであるアーモンドペーストの粒粒感と、ちょっとだけイースト臭い生地に練りこまれた粗挽きカルダモンがジンジャーのようにピリッとスパイシー。噛むごとに粒粒のリズムが次の一口へとつなげる。面白い!
一方Alimenta Konditoriのセムラは、脂肪分がすごく濃そうなクリームと、杏仁香の強いなめらかなアーモンドクリームが、腰のもろいカルダモン生地に挟んであり一度に完食するには少々ヘビー。ただこちらはおそらくスーパーなどで売られる量産品なので、味を比べるのはナンセンス。自分では買わないだろうから返って貴重でした。写真のような箱に二個入りでスーパーやデパ地下でもお手軽に買うことが出来るセムラは、日本の桜餅のような身近な存在なのでしょう。

食べている途中、前回B&Bのオーナーに聞いた食べ方をふと思い出し、やってみることにしました。セムラを大胆にホットミルクに浸して食べるヘートヴェグHetvagg 。現在のホイップクリーム入りになる前の古い食べ方で、スウェーデン人の間でも好き嫌いが分かれるとか。ちなみにオーナー夫婦の意見も真っ二つ、うれしそうに語るご主人に向かって信じられないという奥様でしたが、私はあり、かな。パン粥のようにやさしい甘さになり温まりました。

朝食に半分をホットミルクに浸して食べるヘートヴェグでいただきました。意外と食べられるのはミルクと相性の良いカルダモンが香るから・・・かな

gateau STOCKHOLM http://www.gateau.se/ 



続いて、ストックホルムで評判の良いセムラを紹介しましょう。

央駅から歩いて行けるヴェテカッテン(VETE-KATTEN)は、ストックホルムの老舗のカフェ・パン屋、菓子屋としてファンも多い有名店。風格のある木の扉を開けると、広々とした店内にはケーキ、ショコラ、パン、サンドイッチetc.が並び、カフェでくつろぐ老若男女がいい雰囲気を醸しています。セムラはショーケースにはもちろん、ワゴンで出来立てがどんどん運ばれ圧巻。さらに珍しく6種類もバリエーションがありました。トラディショナル、ミニ、カルダモンなし、デニッシュ生地、ヴァニラクリーム、そしてグルテンフリーとラクトースフリーも。味だけでなく、アレルギー対応が普通にあるのが素晴らしい。

迷ったけれど、まずはミニセムラ(29クローネ)とコーヒーを注文。控えめな甘さと品のあるクリームが粒々カルダモン生地と一体となりうっとり、気がつけばお皿だけになっていました。やっぱり本場に来て良かったと実感したおいしさ。それもそのはず、後で知ったのですが、こちらのセムラは2011年の新聞による番付でベストセムラに選ばれていたのです。(その直後は販売数が二倍になり、ファト・チューズデーには14000個を売ったそうです。)

老舗を醸し出すヴェテカッテンの入り口

ヴェテカッテンのセムラ6つのヴァリエーションメニュー

ヴェテカッテンのオーソドックスなセムラ。この日も100個は下らないと思われる

ヴェテカッテンのヴァリエーションセムラ3種。真ん中はデニッシュ(こちらではウィーン風の生地と呼ぶ)タイプ


ヴェテカッテンのカフェで。スウェーデンでは、
老舗でもコーヒーはセルフサーヴィスの気軽さ

VETE-KATTEN http://www.vetekatten.se/ 



ョコレートをテーマにしたショコ(XOKO Cafe, Konditori och Bageri) でのお目当ては生地もホイップもアーモンドクリームも全てカカオ入りのチョコレートセムラ(CHOKLADSEMLA )(30クローネ)。カカオで締まりがちな生地を、大きめカットのナッツやほろ苦いクリームの刺激で全体をうまくまとめています。もうちょっと食べたいと思わせる小さめサイズなのも憎い!

ショコの入り口ボードには、朝食メニューの案内がかかれていました。スウェーデンでは菓子屋のカフェでも朝食が食べられるところが多い。つまり朝早くから営業しているのです

ショコのセムラは3種類〜オーソドックス、
そのミニサイズ、チョコレート

ショコのセムラ断面。全てにショコラ入り

XOKO Cafe, Konditori och Bageri http://www.xoko.se/ 



ェフがふたりとも「今年のパティシエ」に選ばれた経歴のあるポック(POCK CHOKLAD & KONDITORI) はメインストリートから一本入った静かな通りにあります。ウエルカムボードのセムラに導かれ、お店に入るとピンクと白とブルーのインテリアがいかにも北欧っぽくてかわいい。ショウウインドウのセムラをさして、これ食べます!と注文すると、「それはイミテーションだから食べられないですよ。今から仕上げるので5分待てますか?」とRoy Faresシェフ。日本に負けないほどよく出来たイミテーションに思わず苦笑いし、席について数分、クリーム絞りたてほやほやのセムラが運ばれてきました。きめ細かくしっとりふんわりの生地にアーモンドクリームとホイップクリームがたっぷり〜やっぱり絞りたては最高。断面を見ると、アーモンドクリームの下にかすかに黄色く見えるのはカスタードクリームでしょうか?お店には確認し忘れましたが、全体に甘さもほどよくケーキを食べた満足感があります。(ノーマルサイズ30クローネ)

静かな通りに並ぶポックの茶色い看板

ポックの手書きウエルカムボードはやっぱりセムラ。SEMOLはSEMLAの複数形

ポックのショウウインドウには本物そっくりな
イミテーションのセムラが並ぶ

(ポック)カフェで絞りたてほやほやのセムラとカプチーノ

ポックのセムラ断面

POCK CHOKLAD & KONDITORI http://pock.nu/ 



本でもチョコレートやクッキー販売を展開しているチョコラードファブリケン(CHOKLADFABRIKEN)ですが、ストックホルム本店にはケーキもカフェもあります。そのケーキ全てがチョコレートを絡めたものというのだから興奮せずにはいられません。セムラも然り、ここではチョコレート味のみ(やや小ぶり34クローネ)。ただ、XOKOのチョコレートセムラと違い、チョコレートが使われているのはホイップクリームだけ。ノーマルな粒粒カルダモン生地にアーモンドクリーム、アマレットで風味付けといった内容で、ロゼワインにたとえると、白(ノーマル)に近いやさしく食べやすい味でした。

チョコラードファブリケンのカフェでチョコレートセムラ。奥はブラウニー。スウェーデンらしい清楚なテーブルコーディネートにケーキが映える


CHOKLADFABRIKEN http://www.chokladfabriken.com/ 



トックホルムで食べたセムラはここまでですが、別のケーキを買いに行ったマグヌス・ヨハンソン(MAGNUS JOHANSSON Bageri&Konditori) のオープンキッチンで、タイミング良くセムラの仕上げ作業を見ることができました。(スウェーデンでも今やこの職業を選ぶのは女性ばかりのよう・・・!?)

まずは丸いカルダモン生地の上部をハサミでくり抜いて・・・だから三角の帽子になるのですね。
中央にアーモンドクリーム(ペースト)を絞ります。 その上にホイップクリームをきれいに絞り、三角の生地蓋をし、最後に粉砂糖をふりかけます。

マグヌス・ヨハンソンのセムラ。見せ方がすてき


セムラの組み立て(1):
ハサミでカルダモンバンズの頭を三角にくり抜く

セムラの組み立て(3):
(2)の上にホイップクリームを星型で絞る

セムラの組み立て(2):
くぼみにアーモンドペースト(クリーム)を絞る

セムラの組み立て(4):
くり抜いた三角頭を被せ粉砂糖をふり完成。

MAGNUS JOHANSSON Bageri&Konditori http://magnus-johansson.com/ 




いかがでしたか?
断食前の限定菓子だったセムラが、ストックホルムのいたるところで売られ食べられ、お店が味を競うようになると、新聞や雑誌でランキングが発表され、またそのセムラを食べに人が集まる。スウェーデン人が年間に食べるセムラは平均5個とか。(私はこの旅で平均以上を達成。)その熱狂ぶりは、1月中、ガレット・デ・ロワを食べ続けるフランスに通じるものがあると思いました。

BAGERI STINASの入り口の貼り紙。「ラストチャンス! STINASのセムラ」といった意味でしょうか







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