子供の日、母の日と、5月はケーキでお祝いをする家族も多かったのではないでしょうか。今回はスウェーデンのお祝いケーキにして定番中の定番、プリンセストータについてのお話しです。

ストックホルムでケーキ屋さんに入ると、老舗であれ、今をときめくお店であれ、ショーケースの中でひときわ大きく、その表面を覆う緑やピンクのマジパンが、他のどんな艶やかなデコレーションより存在感をアピールしているケーキがあります。それがアントルメのプリンセストータ(Princesstarta)、もしくは一人分に切り分けられたプリンセスバーケルセ(Princessbakelse)と呼ばれるスウェーデンを代表する生ケーキなのです。

XOKOのショーケース。鮮やかなグリーンとラズベリーがひときわ目立つ真ん中がプリンセストータ

老舗ヴェテカッテンのショーケースでも、ピンクのマジパンで覆われたプリンセスバーケルセは周りのケーキよりひとまわり大きい

日本のIKEAにもピンクの小ぶりな(日本サイズ!?)ドーム型をしたプリンセスケーキがあるので、召し上がったことがある方もいるかと思います。本来は一人分なのでバーケルセと呼ぶところ、単純にわかりやすく'ケーキ'としたのでしょうね。

プリンセストータの内容は、薄く伸したマジパンの下に甘くない生クリーム、片栗粉入りの軽いスポンジ生地、カスタードクリームをもっと軽くしたようなヴァニラクリームたっぷり、スポンジ生地、ラズベリージャム、そして土台となるしっかり目のスポンジ生地と、多少お店により違いはあるようですが、だいたいこんな構成です。歴史的には1930年台に出版された「Prinsessornas Kokbok(プリンセスの料理本)」にレシピが掲載されたのがはじまりといわれています。はじめはGröon tårta(グリーンケーキ)というそっけない名前だったものが、ケーキが大好きだった王女にちなんでプリンセスケーキという名前になったのだそう。

マジパン、しかも色付きと聞くと、ひいてしまう日本人は多いと思います。どんなにアーモンドクリームやマカロンが好きな私でも、正直飾り用のマジパンだけを食べるのは勇気がいります。そういうわけで、日本のIKEAやデパート催事では挑戦したことがあるものの、前回までのスウェーデン滞在中に選んだことはありませんでした。

ところが今回(2月)、セムラを追いかけてケーキ屋に入るごとに、その巨体がとにかく一度食べてごらんなさいと口説いてくるではありませんか! セムラマラソンに忙しかった私ですが、ついに陥落、スウェーデンを離れるぎりぎりの朝、空港へ向かう途中に初回レポートでセムラを紹介したマグヌス・ヨハンソン氏のお店へ立ち寄ってしまいました。



 MAGNUS JOHANSSON
http://magnus-johansson.com/ 



スウェーデンのカリスマシェフ、マグヌス・ヨハンソン氏のお店でも一番数多く陳列されている生ケーキはプリンセスバーケルセ。丸いトータを放射状にカットしたものと、竿状の形がある

ガラスに記されたスタイリッシュな店名ロゴ「MAGNUS JOHANSSON BAGERI&KONDITORI」。BAGERI(バーゲリ)はベーカリー、KONDITORI(コンディトリ)はお菓子屋さんを指す

入り口には営業時間の案内が記されている。平日は朝7時から18時まで、週末は朝8時から16時までと農耕民族的に、朝早く終わるのも早い。スウェーデンのBAGERI&KONDITORIはこれが一般的のよう

MAGNUS JOHANSSON BAGERI&KONDITORIの店内


朝7時のオープン直後、次々陳列される焼きたてパンやお菓子が売り場に良い香りを運んできます。朝食パンを求める近所のお客さんも続々、慌ただしく活気あるスタートの光景がまぶしく気持ちいい。

さてさて、目指すはプリンセスバーケルセ、とショーケースを見入ると・・・なっ、ない!!

何かの法則なのか、優柔不断の私がはっきりと目的を定め買い物に行くときに限って、いつも決まってあるものが品切れとか、未入荷の日にあたってしまうことが多々・・・ああ、もう後がないのに! 焦ってショーケースの前で右往左往していると、マグヌス・ヨハンソン氏ご本人があらわれました。販売スタッフが事情を説明すると、彼は私に「今仕上げている最中だから、ひとつだけならあと10分で出来ます。待てますか?」と、声をかけてくださったのです。ああ、助かった!

そして、ガラス越しのオープンキッチンに目をやると、セムラ仕上げの向かい側で、プリンセスバーケルセを仕上げているパティシエールの姿がありました。その様子を写真に収めさせていただいたのでご覧ください。

マグヌス・ヨハンソン氏のオープンキッチンで、プリンセストータ、プリンセスバーケルセを仕上げているところ。奥のドーム型はトータ、手前は竿状。一人分にカットしたらそれぞれバーケルセになる

ホイップクリームを塗ってならした上に、薄くのした緑のマジパンをかぶせる

緑のマジパンシートをカードで慎重に密着させる

端を処理したあと、粉砂糖をふるい、カットして台紙にのせ、フィルムをし、朝一番のプリンセスバーケルセのできあがり



朝一番、できたてほやほやのプリンセスバーケルセをいただける幸せったら・・・、でももう時間がありません。カフェで頂くのを断念し、ケーキの入った箱を大事に抱えて空港へ向かいました。保冷剤などない国でのテイクアウトは寒い季節でよかったです。

さて、空港の待合い場所でいただいたプリンセスバーケルセのお味は・・・

マグヌス・ヨハンソン氏のプリンセスバーケルセ(40スウェーデンクローネ)。高さは5cm位あったか・・・ボリュームたっぷり


スプーンでは切れにくい厚さ3mmほどある緑のマジパンだけを食べると、うわっ、甘いっ!と口走ってしまいますが、全体をうまく一緒にいただくと、ふんわり脆いスポンジと甘くないホイップクリーム、空気をいっぱい含んだ軽いヴァニラクリームに赤いフルーツジャムの甘酸っぱさがアクセントのバランスに、誰もが好む味だと想像できます。さすがお祝いの日にふさわしいケーキ、そしてそのコンセプトが日本のショートケーキに通じる!と思えてなりませんでした。

通じるといえば、イタリア・シチリア島の郷土菓子「カッサータ」も緑のマジパンで覆われた生ケーキとして似たような風貌です。

その昔、ヴァイキング時代にシチリアを北欧ノルマン人が支配していたことに関係あるのかないのか・・・わかりません。しかしフィリングの素材を比べると、地中海の温暖な気候のシチリアでは豊富なフルーツの砂糖漬けと羊のミルクが原料のリコッタチーズを使っているのに対し、北欧では質の良い豊富な乳製品と、北の酸っぱいフルーツをジャムにして使っているあたり、いかに地域と食べ物が繋がっているかがわかり面白いです。

そんな豊かさを大切に、赤ちゃん誕生、誕生日、結婚式、母の日、父の日、クリスマスに復活祭etc.と、ことあるごとに登場するマジパン飾りのお祝いケーキ、プリンセストータ、プリンセスバーケルセは、スウェーデン生ケーキのアイドルなのでしょう。

今年2月23日には、ヴィクトリア王太子とダニエル王子の間に生まれたエステル王女の誕生を祝ったプリンセスバーケルセも売られていた模様。

もう少し早くストックホルム入りしていれば! ともあれ、すっかりプリンセストータ&バーケルセのファンになって帰ってきました。
皆さんも、もしスウェーデンに行かれる機会があれば、勇気を出して召し上がってみてください。

Chic KONDITORIのショーウインドウにも、セムラと並んで様々なデコレーションを施したプリンセストータが並んでいる

同じくChic KONDITORIのプリンセストータ。男の子誕生だと青いマジパン、女の子だとピンクのマジパンと、様々な色と細工で仕上げられてほほえましい








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