6
月はスウェーデンにとって大事な行事&祝日が2つあります。ひとつは6日の建国記念日。 もうひとつは夏至祭(6月19日から26日の間で夏至に最も近い土曜日とその前夜なので今年は22、23日)。
緯度の高い北欧では、農耕生活における昼と夜の長さの節目の日は、建国の日よりも重要なようで国民が盛大に祝うのは後者、歴史ある国なのに建国記念日が国民の祝日となったのはつい最近、2005年からなのだそう!

そんなふたつのお祝いの日にちなみ、6月某日、六本木にあるスウェーデン大使館で行われた「Sweden Day 2012」にちょっとしたお手伝いとして潜入してきました。
招待客のみのクローズイベントでしたが、中庭では夏至祭用に設えたマイストング(メイポール)の周りを、民族楽器の調べにのって歌ったり踊ったり、屋台のオープンサンドやミートボール、ホットドッグを頬張る人で賑わいました。

「Sweden Day 2012」中庭に設えたマイストングを中心に輪になって踊る人々

みなが食べているお料理はもちろん、お菓子やデザートが気になっていた私は休憩時間に屋台をチェック。
祝日といえば、前回レポートのプリンセストータ(バーケルセ)が当然登場するのかと思いきや、食べている人の姿はどこにもなくちょっと拍子抜け。今回は野外イベントのため、生ケーキは都合が悪かったのかもしれませんが、後日ストックホルムにあるコンディトリのfacebookにアップされた写真等を見ると、どうやら本国の建国記念日や夏至祭でも、夏到来のしるしである初物苺やベリー類をケーキにするのが定番ご馳走のようです。

建国記念日のスウェーデン国旗をたてた苺ケーキ参考画像
http://chokladfabrikenstockholm.blogg.se/2012/june/grattis-sverige.html#trackback


とはいえ、出店していたスウェーデン料理店リラ・ダーナラさんお手製のひと口菓子セットを見つけたときはおおはしゃぎ。こういった小さなお菓子こそ、スウェーデンの伝統的な美味しさ、楽しさがぎっしり詰まっているのですから。

リラ・ダーナラさんお手製のひと口菓子セット(イベント限定品)


中身写真の右上から時計回りに・・・

Kokostoppar ココストッパル (ココナツピーク)ココナツ好きにはたまらない香ばしさ。
Chokladbollar チョコラードボッラル(チョコレートボール) オートミールやココア入り団子
Lingongrottor med Kanel リンゴングロットル・メド・カネル(リンゴンの洞窟)
Danarahastkakor ダーナレストカーコル (ダーナラヘストジンジャークッキー)

Danarahastkakor

Lingongrottor med Kanel
4種類のひとくち菓子はいずれも
スウェーデンならではの定番

Kokostoppar

Chokladbollar

これら4種類どれもが定番で、スーパー、コンディトリ(お菓子屋さん)で売られているのはもちろん、ホームメイドの味としても親しまれているわけですが、私が面白いなと思ったのはお菓子のネーミング。
そのまんまのチョコレートボールやダーナレストカーコルはさておき、3番目のリンゴングロットルに思わずにっこり。直訳するとリンゴンの洞窟〜グロットルが洞窟で、真ん中にリンゴンベリー(こけももの一種)のジャムを詰めて焼き、窪んだ感じが洞窟なのでしょうか!? バターたっぷりの洞窟は、ほろりやさしく甘酸っぱく後をひく美味しさ。この中身をラズベリー(ハッロン)に変えれば、ハッロングロットルHallongrottorとなり、検索すれば数え切れないほどの画像やレシピが出てきます。

こんな風に、スウェーデンにはくすっと笑ってしまう名前のお菓子がたくさんあります。しかも家電をケーキの名前にしてしまうなんて! 今回はそんなおかしなお菓子のお話です。



々回(2010年)の訪問でのこと。

「スウェーデンにはクリーナーケーキっていうのもあるんだよ。」

掃除機を引っ張り出して見せながら、私にスウェーデン菓子のことを語ってくれたのは、甘いものが大好きなB&Bのご主人ミヒャエルさん。一回目のセムラレポートで、ホットミルクに浸すセムラの食べ方を教えてくれたのも彼、なかなかのスイーツ男子です。
それにしても掃除機をお菓子のネーミングに使うなんて、デザインの国といわれているくせに、何たるセンス・・・!? でも何かストーリーがありそう。面白そう。私は次第にこのお菓子の正体をつきとめたくなってきました。

スウェーデン語で掃除機= Dammsugare ダムスーガレ

右側が掃除機という名前のダムスーガレ。
ヴェテカッテンで購入

写真右の緑色の筒状のものがそれ。えっ、また緑のマジパンじゃないって!? 本当にこの国の人は色マジパンで包むのが好きなよう。
ただプリンセストータと違い、手元のレシピ本によると、ダムスーガレの中身はフレッシュクリームではなく、スポンジケーキやクッキーのクラム、ココア、バター(またはマーガリン)、砂糖を混ぜアラック(プンシュ)というラムベースのスウェーデン式香草リキュールで風味付けたものとなっています。これって・・・なんとなくフランスの勿体無いから再生菓子〜ポム・ド・テールに通じるお菓子では?

お菓子屋さんでどうしても出てしまうケーキの切れ端を屑にして美味しく味付けし、丸めてマジパンで包み、全く別のお菓子に仕上げてしまうマジック。フランスが何故ジャガイモを模ったのかはわかりませんが、昔ルコント(2010年に閉店)のショーケースでポム・ド・テールは決まって肩身の狭い端っこにいたのを覚えています。でもスウェーデンではお菓子屋さんのショーケースで堂々と並んでいるのです(スーパーでも箱入りで売られています)。

老舗ヴェテカッテンのチョコレート菓子ショーケース。ひとつだけ緑なのですぐわかります
昨年10月にオープンしたマグヌス・ヨハンソン氏のお店にも
チョコラード・ファブリッケンのダムスーガレはチョコレート色。買い忘れ後悔!



私は早速一軒目のヴェテカッテンで、多少日持ちがすると聞いて買ってみました。そして帰国後、カットして中身と香りを確認し、そっと食べてみると・・・おいしい。何度も唸るほど、食べきってしまうのが惜しいほど! こんなことなら、他のお店のも食べてみるべきでした。


ヴェテカッテンのダムスーガレ断面(右)。しっとり香るクラム餡にうっとり瞬き。左はサラ・ベルナールという女優名のついた定番マカロン風小菓子

よくよく考えれば、選りすぐった材料と手間をかけたケーキに、再び材料、手間を施すのですから美味しくないわけがありません。
最近日本のパティスリーではポム・ド・テールもフィグもほとんど見かけなくなりましたが、余ったケーキ屑は一体どこへ行くのでしょうか? ひょっとしてダムスーガレはケーキ屋さんのおいしい屑を吸い集めた掃除機ってことかしら(笑)!?

そしてこのお菓子、最初クリーナーヘッドをかたどったものとばかり思っていたのですが、ちょっと無理があるような気もしていました。でもこの写真を見て納得です。

エレクトロラックス社の
掃除機1912年モデル写真

冒頭で紹介した「Sweden Day 2012」は、在日スウェーデン商工会議所がらみのイベントだったため、スウェーデン企業であるエレクトロラックス社の掃除機の歴史写真が展示してあったのです。家庭用掃除機の初期モデルにはキャスターはなく、縦置きシリンダー型だったのですね。この本体からならお菓子のダムスーガレを連想できます。当時注目の家電を名にしてみたのでしょうか!?

掃除機ケーキについては他にも呼び方があり、現地で買ってきたスウェーデン菓子の本「SWEDISH CAKES AND COOKIES」(英語版)には、目次でARRAK ROLLS(アラックロール)、そしてレシピページにはAlso called Vacuum Cleanerと紹介されています。

「SWEDISH CAKES AND COOKIES」には見ているだけで楽しいスウェーデン菓子の作り方がたくさん紹介されていています 同本には写真もいっぱい。もちろんARRAK ROLLS(ダムスーガレ)の姿も



して家電の名前がついたお菓子をもうひとつ。

素敵なコーディネートで素朴な北欧菓子を紹介している土井始子さんの「北欧の美味しいお菓子づくり」

スウェーデン在住のフードコーディネーター・土井始子さんの本の表紙にもなっているのはラディオカーカ(Radiokaka)。つまりトランジスタラジオのようなルックスからついた名前です。前述の「SWEDISH CAKES AND COOKIES」には、There are many names for this cake-Icebox cake, Cookie Cake and Cellar Cake - to name a few.と記されているほど、たくさんの呼び名が存在しますが、このお菓子はケーキ屋さんでは売られていません。なぜならテリーヌ(パウンド)型に、市販のプレーンビスケットと溶かしたチョコレートクリームとを交互に敷きこんで冷蔵庫で冷やし固めた、オーブンを使わない超お手軽家庭菓子だからです。

同じものがドイツではカルターフント(Kalterhund=直訳は冷たい犬!)と呼ばれています。以前知り合いのドイツ人がパーティーで作ったものを食べたことがありますが、昔日本でもちょっとしたブームとなったマリービスケットと生クリームを交互に重ねて作るケーキを思い出しました。素朴なホームメイドのおやつ、世界各地で似たような発想はあるものですね。

暗闇と厳しい寒さの冬が長い北欧では、家の中を楽しむ文化が発達してきました。だからインテリアや食器などの生活デザインが発達したと言われています。考えてみれば、家電をお菓子の名前にしてしまう発想は、そんな生活スタイルからきたのかもしれませんね。素朴なスウェーデン菓子からは、楽しいおしゃべりが聞こえてきそうです。


さて、今回紹介しきれなかったユニークなお菓子は次回紹介しますのでお楽しみに。









旅日記・トップに戻る