前回に続きユニークな名前に惹かれたスウェーデン菓子をいくつか紹介します。



 Dromtarta

除機ケーキについで、B&Bのご主人・ミヒャエルさんがもうひとつ語ってくれたのがドリームケーキ。
早速パソコンで画像検索を始めると、出てくるわ出てくるわ、チョコレート色のロールケーキが!
スウェーデン語でドリーム(夢)=Dröm 、ケーキ=Tårtaで、Drömtårta(ドロムトータ)。
聞けばスウェーデン版ロールケーキの中でも「夢」とつくのはカカオ入り限定で、その他はRullatårta(ルーラトータ)=ロールケーキそのままの呼び名。好みのジャムを塗って巻いたシンプルなものです。

ミヒャエルさん曰く、薄く焼いた生地にクリームを塗って上手に巻くのは難しいのだとか。
手作りする際のポイントは、同じ。スウェーデンでもロールケーキはポピュラーなのですね。
しかも大好きなカカオ味を夢のケーキと名づけるなんて! 急に親しみがわき、その「夢ロール」とやらを食べてみようと、チョコレート専門店〜チョコラード・ファブリッケンに問い合わせました。
ところがお店では作っていないとの返事。
あのパソコン画像が嘘のように、今回は他のコンディトリ(お菓子屋さん)でも見当たらず・・・ひょっとしてケーキ屋さんの作るお菓子ではないのかも。

実際Drömtårta(ドロムトータ)を目にしたのは、スーパーやデパートの袋菓子コーナーでした。
それは子供の頃、よく母親が買ってきたスーパーのスイスロールの様子に似て、どことなく、素朴でノスタルジック。
でも悲しいかな、日持ちのためにバターではない油脂や副材料の表示を目にしたら買えなくなってしまいました(植物系油脂のクリームが苦手なので)。あ〜ぁ、夢破れたかな・・・。

冷静に考えたら、日本だって10年位前までは、ロールケーキなど、しゃれたケーキ屋にはなくて、スーパーやコンビニで買う(もしくは自分で作る)地味な存在でしたよね。
そこで、買ってきたレシピ本をもとに自分で作ってみました。

HELLENE JOHANSSON著「SöTEBRöD」よりRullatårtaのページと一緒に撮影 (実際は「SWEDISH CAKES AND COOKIES」のレシピで作りました)

卵、砂糖、ココア、片栗粉(ポテトスターチ)、ベーキングパウダーで薄くさっと焼いた生地にグラニュー糖をまぶし、バタークリームを塗り、「の」の字よりひとまわり多く巻いただけの、懐かしくも脆い味わいににっこり。
どうして「夢」という名前がついたか、ミヒャエルさんはじめ知る人はいなかったけれど、「このケーキが生まれた時代、カカオは夢のような美味しさだったからじゃない!?」と、フィンランドでお世話になったある方が推測、実際に自分で作ってみて、この推測に同感しました。
そして北の国では白い小麦粉が貴重なため、代わりにポテトスターチを使ったのかもしれません。
実は、北欧にはポテトスターチを使ったお菓子のレシピが多いのです。


 Sarah Bernhardt

年の大女優の名のついたSarah Bernhardt(サラ・ベルナール)は、スウェーデン風マカロンと呼ばれるBiskvi(ビスクビ)のミニサイズ。
アーモンドと砂糖と卵白の、フランス地方菓子のようなもっちりとしたマカロンの上にガナシュクリームを絞り、帽子っぽくチョコレートでコーティングしたひと口菓子です。
今はパリ風のカラフルなマカロンも売られていますが、伝統的なビスクビは大抵のコンディトリ(お菓子屋さん)でみかけます。
ケーキにピック(店名の紙飾り)をつける習慣のないこの国において、菓子名Sarah Bernhardtの紙札が飾りつけされているのも面白い。
エピソードなどは、わかりませんが、ミュシャが描いたアール・ヌーヴォーのポスターに思いを馳せながら、小さくても存在感のある、濃厚な甘さを楽しみました。(デンマーク発祥のお菓子との噂も・・・)

老舗ヴェテカッテンのチョコレート菓子ショーケース。
左から二番目がサラ・ベルナール

左がヴェテカッテンのサラ・ベルナールの断面

つい最近フィガロジャポン434号にも掲載されたお店 〜POのショーケースには、パリ風、スウェーデン風(ビスクビ)と、両方のマカロンが並ぶ



 Bondkakor

のレポートに何度も登場するコンディトリ〜マグヌス・ヨハンソンで、販売スタッフにいち押しされた焼き菓子がBondkakor(ボンドカコール)。
「英語に直訳するとFarmers' Cookiesです。直訳で意味が通るのかはわかりませんが、スウェーデンでは昔から親しまれている美味しいクッキーなのですよ。アーモンドとシロップを使っているのが特徴です」(販売スタッフ)

Bonde=農家、kakor=クッキーとは、なんだか‘田舎パン'のような大雑把なネーミング。
ところが食べてびっくり。アーモンドの香ばしさと、ざくざくほろほろ、懐の深い甘さとほんのり感じる重曹の苦味。
おおらかで素朴なアメリカンクッキーに憧れ、毎週のように作っていたかつての自分を思い出しつつ、このほっとする余韻ったら・・・。
北欧の製菓材料コーナーで一番目立っていた(目に付いた)茶色いシロップが、あたたかみを醸す肝なのか、彼らのソウルフードを覗いた気持ちになりました。

マグヌス・ヨハンソンで4,5種類あったクッキーの中で一押しされたボンドカコール



 Jitterbuggar

がスウェーデンの焼き菓子に興味をもったきっかけは、とあるイベントでスウェーデン在住のフードコーディネーター・土井始子さんの主催するKRANSEN(クランセン)のクッキー詰め合わせを食べてからでした。
今まで見たことがないような表情のお菓子たちに、どれから食べようか、ひとつひとつに心躍らせたものです。
そのうち一番印象に残ったのが、巻かれた白い生地からチョコレートが噴火したような格好のもの。
とにかく口当たりが軽いし、食べ進むごとに二つの生地のハーモニーが楽しくて!
袋には個々の菓子名表示はなかったのですが、その後、チョコレートジルバというスウェーデン菓子であることわかりました。
ジルバ=Jitterbuggar(ジッタールブガー)といえば、男女がペアでくるくる回転するダンス。
バタークッキー生地とカカオメレンゲの渦巻きが、それを表現しているのでしょうか!? 

クランセンのクッキー詰め合わせ(左)とチョコレートジルバ



 Vaniljhjartan

井さんの本「北欧のおいしいお菓子づくり」の中にはレシピこそ掲載はなかったものの、ハートの焼き型が気になる伝統菓子が紹介されていました。
Vaniljhjörtan(ヴァニーリヤッタン)、Vanilj=ヴァニラ、hjörtan=ハートで、ずばりヴァニラのハート。
あまりにキュートで甘い香りのする名前に、現地で絶対食べてみなければと思いが募りました。
実は2010年にこのお菓子を目の前にしながら、チョコレートとパンのことで頭が一杯になって買いそびれてしまった悔しさもあり・・・セムラと同じくらい、私のマスト食菓子になっていました。
そんな思いが通じたのか、セムラに続き、ミヒャエルさんがお部屋にヴァニーリヤッタンを差し入れてくださったのです。
自分でも買って帰ってきたタイミングだったため嬉しさは2倍。
小麦粉とポテトスターチ、砂糖、バター(もしくはマーガリン)を混ぜて薄くのばしてハート型に敷き、ヴァニラカスタードクリームを詰め、生地蓋をして焼いたハート。
ナイフで切ってみるとクリームパンのように空洞が出来ていました。
かわいく、もろく、そして甘く、誰もが好きなヴァニラクリーム。
想像通り、心癒されるスイーツでした。

2010年スカンセン内のベーカリーにて。粉砂糖で仕上げられたばかりのヴァニーリヤッタン。目の前にありながら買い逃したのがこれ 2012年ヴェテカッテンで購入したヴァニーリヤッタン
まるでオーボンヴュータンにいるかのよう〜目移りするヴェテカッテンの焼き菓子コーナー。中央よりやや奥の真っ白いハートがそれ ヴェテカッテン(右)とミヒャエルさん差し入れ(左)のヴァニーリヤッタン断面。切れるナイフがなく、何度やってもほろほろ崩れ・・・

このヴァニーリヤッタンには専用の型があります。
ハートはポピュラーだから日本で手に入るもので代用できそうですが、作ったことのある人によれば、微妙なカーブや深さ、ふちなど特徴があるのだとか・・・。
せっかくなのでお土産に買い求めることにしました。
手に入れたのはヴェテカッテンから歩いてすぐの調理道具専門店Cordon-Bleu(コルドンブルー)。
かっぱ橋専門店ほどのスケールはないけれど、この国らしい道具を手にとって眺めたり、使い方を聞いたりするのも楽しいものですよ。

 Cordon-Bleu
http://shop.cordon-bleu.se/ 

アルミ製のヴァニーリヤッタン型。左はスウェーデン製のアーモンドグラインダー。今はパウダーを買ってしまう人が多いけれど、おばあちゃん達はその都度アーモンド粒を挽いてお菓子を作るのだとか。香りが断然違うのです



後に、ケーキ型についてのトリビアを。

2010年、ミヒャエルさんのB&Bで、私は奥様にスウェーデン名物シナモンロールを習ったのですが、その際、発酵時間を利用してもう一品、最もポピュラーなケーキを教えていただきました。
それがSockerkaka(ソッケルカーカ)=直訳するとシュガーケーキとなります。
小麦粉、砂糖、卵、バター、牛乳、ヴァニラシュガー、ベーキングパウダーと、シンプルな材料で、ささっと生地を作り上げ、用意された焼き型を見るとクグロフ!
クグロフ(仏)、クーゲルプフプ、グーゲルフプフ(独)etc. 国により様々な名前で呼ばれるこの型のロマンとお菓子が大好きな私は、スウェーデンでの呼び名が知りたくてとっさに質問したのです。

「このケーキ型の名前は何ですか?」

「えっ? Kakform(カックフォールム=ケーキ型)よ」

結局、クグロフの名前を各国で例えて聞きなおしても特別な名前などない様子。
それどころか、たくさんあるお菓子の型を取り出して、あれもこれも全てKakformと呼ぶのだといいます。
そう言われれば焼きあがったケーキの名前もSockerkaka〜単なる‘お砂糖ケーキ’。でもこの国では、Sockerkakaが基本の基本となる大事なお菓子の名前なのですよね!

バターを塗った型にココナツファインを塗してSockerkakaの準備

フィンランドでお世話になったB&Bにもクグロフ・・・いえ、‘ケーキ型’がたくさん。フィンランドにも特別な名前はなし

スウェーデンの影響が濃いフィンランド、クグロフの形をしたシンプルな焼き菓子の名はヴァニラケーキ









旅日記・トップに戻る