これまで何種類のスウェーデン菓子を紹介してきたでしょうか? 実際お店で見ても、買ってきた本を見てもまだまだたくさん・・・こんなにお菓子が豊富な国だったとは思いもよりませんでした。その理由はFika(フィーカ)という習慣があるからといいます。毎日10時と3時、「Ska vi fika?」(スカ・ヴィ・フィーカ=お茶<コーヒー>にしない?)の掛け声とともに、コーヒーとお菓子をいただくのだそうです。それは家庭の手作りだったり、カフェのケーキだったり様々。だからお菓子もバラエティ豊かになっていったのでしょうね。

フィーカに欠かせないお菓子といえば、何はさておきKanelbulle(カニエルブッレ。Kanel=シナモン、bulle=甘いパン)〜スウェーデン風のシナモンロールです!

私はフィーカの習慣もカニエルブッレのことも、スウェーデン在住の日本人のブログで知ったのですが、スパイスのカルダモンを生地に練りこむこの甘いパンを何度か自分で作るうちに、すっかりはまってしまい、いつかは現地でカニエルブッレのあるフィーカに混ざりたいなと、密かに計画を立てていました。そして2010年の秋、念願はかないました。今回はその様子をお伝えしましょう。



 カニエルブッレ

て、スウェーデンでカニエルブッレを教えてくださったのはB&Bの奥様。普段お勤めの彼女も家では家族のために月一程度の割合でカニエルブッレを焼くのだそう。「大量に作って冷凍すれば、フィーカのお菓子に困らないわよ!」と、奥様。その慣れた手つきと早さといったら写真を撮る間もないほど。小麦粉が780gほど入る生地をちゃっちゃと手でこねあげてしまいました。

カニエルブッレの材料。小麦粉、砂糖、生イースト、カルダモン、シナモン、塩、バター、牛乳、パールシュガー。麺棒の手前にあるのが北欧ならではのデシリットル計量カップ。これで粉類全てを量ります。生イーストはスーパーでキューブ状50gのものが売られています

発酵させた生地にバター、砂糖、シナモンを振って奥から手前にくるくる巻いていく。プロのようにフィリングの材料を全部混ぜてから塗るなんてことはしません。でもこのほうが、家庭ではロスがなくていいなと思いました

巻いた生地を3cm幅にカットしていく

紙カップに入れ、二回目の発酵後、塗り卵をしてパールシュガーを振りかけオーブンへ

snäckor かたつむり型カニエルブッレの焼き上がり

スーパー等に売っている北欧のパールシュガーは、米粒ほどの小ささでサクサク、リズミカルな食感のアクセントになります。日本でも売っていたらいいのに・・・


まずは人肌に温めた牛乳に生イーストを溶き、砂糖、塩、カルダモンパウダー、溶かしバターを混ぜ、小麦粉を少しずつ加えて混ぜていきます。面白いのは計量の仕方。バターは包装紙の目盛に従ってナイフでスライスし、液体と粉類は全てデシリットル単位のカップと匙で済ませ、スケールは一切使いません。レシピも重量ではなく、容量表記です。ふと昭和の頃、私の実家にはスケールなどなく、gのml換算表を参考にお菓子作りをしていたことを思い出しました。家庭ならこれで十分だし、ベイキングが日常的だからこそ気にしないのでしょう。
生地が耳たぶくらいの固さにまとまったら、1時間ほど発酵させます。十分に膨らんだ生地を、2等分し、麺棒で5mmくらいの薄さに大きくのばし、バターを塗り、グラニュー糖とたっぷりのシナモンを振り、奥から丁寧に巻いていったら、端から3cm幅にカットし、紙カップに入れ、二次発酵をとります。この成型をやっているところで、ご主人ミヒャエルさんが、「ああ、もう待ちきれないよ。それにこれがまた旨いんだ」と言って、生地をつまみ食いにやってくるではありませんか!? ええっ、焼く前の生地を食べちゃって身体は平気なのでしょうか? と、私の心配をよそに、何度も何度もおかわりの手がのびていったのです。後にどこかのサイトでもカニエルブッレの生の生地のつまみ食いのことが書いてあったので、ひょっとしたらスウェーデンでは普通のことかもしれませんが! 30分後、表面に塗り卵をし、パールシュガーを降りかけたら、220度のオーブンで10分ほど焼き、良い香りがし、色がついたらできあがり。ごく普通の都会の核家族なのに、焼きあがったカニエルブッレはおよそ40個。オーブンの大きさも違うけれど、日本のように8個とか、そんなちまちました作業はありえないのでしょうね。シナモンとカルダモンが程よく香る、もっちり甘めのお味でした。


ちなみにB&Bの奥様はパウダー状のカルダモンを使っていましたが、お店で販売のものの多くは粗挽きカルダモンがどかっと練りこんであります。どれくらいかはこの写真で想像してみてください。

Xokoのカルダモンブッレの断面。カニエルブッレはこの生地にシナモンフィリングを塗って巻いたもの

黒胡椒をたっぷり挽いたステーキのごとく、噛めばカリッとカルダモンの爽快な香りがはじけ、同時にシナモンやバターの甘い香りと交わるのです。一度味わえばもう虜・・・何故って、カルダモンもシナモンも、日本人が大好きなカレーの代表的スパイスだからではないでしょうか。


カニエルブッレは家庭で作るだけでなく、カフェやスーパー、コンビニ(ヨーロッパでは珍しく、セブンイレブンがあちこちに存在します)など、いたるところで目にします。例えば駅の売店にはこんなポスターも!

ストックホルム中央駅の売店前ポスター。「コーヒーとカニエルブッレまたはクロワッサンで20クローネ」


カフェ・コンディトリ(お菓子屋さん)Xokoのショーケースには、ぐるぐる毛糸玉のようなかわいいカニエルブッレがありました。

Xokoのショーケース。一番左のパールシュガーがかかったものがカニエルブッレ。真ん中はカルダモンブッレ


カニエルブッレのような甘いパン=ブッレの成型はいろいろあって、この毛糸玉のような形はKnutar(結び目)と呼び、シナモン、シュガーなどのフィリングを塗った生地を二つ折りにしてから短冊に切り、ねじったものを、左手真ん中三本の指にぐるぐる巻きつけ、最後は三本指でできた輪の中心に先端を入れ込んで結び目を作るというものです。初めてこの形を見たときは、一体どう成形するのだろうと考えこみましたが、写真付きで手順が載っているHELLENE JOHANSSON著「SÖTEBRÖD」を見つけて解決・・・おっと、頭では解決しましたってことです! (この書き方では想像するのが難しいですよね)

Xoko ショコのショーケース。同じ生地の長く大きいものはレングデル

Vete kattenヴェテカッテンの焼き菓子コーナー二段目には、長方形レングデルとリング状クランスの大きなタイプが並ぶ


また、三つ折りし長方形にして、エピの様にハサミを入れたものをlängderと呼びます。食べたい分を切り分けていただく大きいタイプも、こんな風に飾り気があると、食指もぐぐっとのびますね! 大きいタイプではこのほかKrans〜クランスと呼ばれるリング状もあります。

世界最古の野外博物館・スカンセンのパン屋では、レトロな雰囲気の中、ちょうどカニエルブッレを焼くところを遠目に見ることができました。

スカンセン内のパン屋にて、カニエルブッレにパールシュガーをふりかけ、(確か薪の)窯に入れるところ。薪で焼いたカニエルブッレなんて滅多にないのに何故買わなかったのか悔やまれます・・・

あら、この形はフィンランドでポピュラーな耳ピンタという意味をもつコルヴァプースティと同じ。
焼いてしまえば茶色いだけのイースト菓子を、これほど楽しく面白く見せてしまうなんて! フランスの菓子パンにはない世界。やっぱりここはデザインの国なんだなと感心。


このようにスウェーデンの人々に愛されるカニエルブッレ、もとをたどれば第一次世界大戦後、小麦粉や砂糖、シナモンなどの材料が安く手に入るようになった1920年頃に作られたのが始まりだそう。その後50年代にブレイクし、1999年、Hembakningsrådet(家庭でのパン焼き推奨機関)が10月4日をカニエルブッレの日に制定するとますますポピュラーになり、今では「今日はカニエルブッレを食べなきゃ」を合言葉のように、こぞってカフェやパン屋へ向かったり、作ったりするのだとか。今年もあと1ヶ月とちょっとで10月4日がやってきます。さあ、いったい一人当たり何個カニエルブッレを食べるのでしょうか? 1回目のテーマで取り上げたセムラ同様、スウェーデン人って、食べ物でお祭りをするのが大好きなようですね!


次回後編では、隣国フィンランドのシナモンロールを紹介します。





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