暑の厳しかった今年、10月に入りようやく過ごしやすくなり、持ち運びを気にしていたチョコレートにもやっと手がのびる季節となりました。チョコレートラヴァーにとっては、今月(10月)末のサロン・デュ・ショコラ@パリの開催が気になるところです。かつて私も数回、パリのサロン・デュ・ショコラのために渡仏し、最先端のチョコレート事情にどっぷりつかり、興奮し、日本にもこんな催しがあったらいいのに、チョコレートの楽しみがもっと広がるだろうに!と、密かに憧れを抱いたものです。その後、伊勢丹がパリのサロン・デュ・ショコラを日本に誘致すると知ったときはどんなに心弾んだことでしょう。あれから10年、今や1月下旬から2月は興奮月間。フランスを中心に、海外から名だたるショコラティエが来日し、熱いファンが集まる恒例の行事となりましたね。

ところでこのようなチョコレート祭りが、現在パリや日本ばかりではなく、世界各地で行われているのをご存知ですか? 今回は、2010年10月に訪ねたストックホルム・第8回チョコレートフェステバルの様子をご紹介します。

私がスウェーデン・ストックホルムでチョコレートフェスティバルがあることを知ったのは2007年。現地在住日本人のblogでその様子が紹介されているのに影響を受け、一人当たり年間消費量がフランスと同じくらい多いこの国のチョコレート文化や、フランスとの違いを体感したくなり、訪問を計画したのです。

トックホルム・チョコレートフェスティバルが始まったのは2002年。マグヌス・ヨハンソン Magnus Johansson氏が1994年にパリのサロン・デュ・ショコラを訪ねたことがきっかけでした。この北欧レポートで何度も登場するヨハンソン氏〜菓子職人である彼にとって、パリのルーヴル美術館隣接のカルーゼル・ドゥ・ルーヴル見本市会場(ポルト・ド・ヴェルサイユ以前に使われていた会場)での雰囲気は、おそらくものすごい刺激だったのでしょう。数年後には自国でも同様のチョコレートフェスティバルを開催しようと、同じく菓子職人であるトニー・オルソン Tony Olsson氏と共に心に決め、実現したそうです。その反響は大きく、来場者は年々増し、今では3日間でおよそ17000人を集めるイベントに成長しました。そのため会場となる北方民族博物館には、朝から入場待ちをする長蛇の列が・・・。

チョコレートフェスティバルの入り口看板

会場である北方民族博物館に入場するためにできた朝の列。ストックホルム中央駅からトラムで10分ほどの、博物館の多く集まるユールゴーデン島にあります

えっ、会場が博物館って!? 驚くなかれ、ストックホルムのチョコレートフェスティバルはユールゴーデン島にあるルネサンス様式建築の北方民族博物館1階・吹き抜けホールで行われます。パリのカルーゼル・ドゥ・ルーヴル会場にヨハンソン氏が影響を受けたためかはわかりませんが、博物館内で食べ物のイベントなんて、日本ではちょっと考えられないですよね。この博物館には、16世紀から現代までの食卓、衣類、家具、農具、装飾品、玩具などが展示されていて、会期中も見学できるようになっています。甘い香り漂うチョコレート祭りを楽しみつつ、スウェーデンの生活史をもう一度振り返ってみる〜これも主催者の仕掛けなのでしょうか!?

北方民族博物館に入場するや来場者の多さに驚く。正面ステージ奥、スウェーデン統一の王グスタフ・ヴァーサ像が歓迎

物館を含めたこのフェスティバルの入場料は大人120クローネ(当時約1700円)。入ってすぐの正面には、16世紀にスウェーデンを国として統一したグスタフ・ヴァーサ王の巨大な木彫像が見えます。その前が特設ステージとなっており、私の行った初日の14時頃には、‘今年のパティシエ ÅRETS KONDITOR ’コンクール表彰式が行われていました。どうやら国内の若い菓子職人たちが、テーマに沿ったチョコレートのアントルメ、プチガトーなどを製作し競い合うといった趣旨のようです。2010年のテーマは「おとぎ話」。ステージの周りには、人魚姫や眠れる森の美女など、ファンタスティックな作品が並べられていました。それらを見ると日本とはまたひと味違ったフランス菓子の影響が伺えます。

今年のパティシエを受賞したRoy Fares氏の作品「アラジン」


ファイナルに出場したパティシエたちの作品。これは眠りの森の美女でしょうか
同じくファイナルの作品。不思議の国のアリスと思われます。
この3つの写真を見て共通なのが、4回目のレポートで紹介したスウェーデン式マカロンの‘ビスクビ’。コンクールの課題になるほどポピュラーなチョコレート菓子だと想像出来ますね
人魚姫と思われるファイナルの作品。アントルメを絵本にはめ込んだプレゼンテーションがユニーク

優勝したのはストックホルムのショコラティエ&パティスリー・ペーオー POのパティシエRoy Fares氏。試しに会場のPOでショコラやカカオビスコッテッィ、フランボワーズ&ショコラのペースト、マカロンを買ってみたのですが、北欧らしいデザインと味覚センスでなかなかのヒット! 時間があったらお店を訪ねてみたかったほどです。(今年2月にセムラを食べに行ったお店です。)

‘今年のパティシエ’受賞の喜びにガッツポーズ〜Roy Fares氏

Roy Fares氏が腕を振るうPOの販売ブース。立っているのは2003年に‘今年のパティシエ’受賞のPer Olsson氏。大き目のボンボンショコラが10数種、ビスコッティ、マカロンやカップケーキもおいしそう

プログラムは他にもピエスモンテコンクール、‘今年のプラリネ賞’、有名ショコラティエによるデモンストレーション、エクアドルのダンスショー、テイスティングセミナー、子供のためのマジパン作り教室など盛りだくさん。スウェーデンのショコラはこうやって洗練されていったのでしょうか。

ステージではコンクールの他、様々なプログラムが繰り広げられます。写真はエクアドルのチョコレートで、チョコレートドリンク作りのデモンストレーション。デモの後にはお楽しみの試食もありました

全て立ち見のため、背の高いスウェーデン人に囲まれると、日本人としては標準より少し大きい私でも、爪先立ちしてやっと覗けるという苦しさはありますが(笑)!

店ブースは50弱。パリのサロン・デュ・ショコラに比べたら、それこそ数分の一の規模ですが、自国の大小ブランドや個人店がメインのうえ、外国勢はヴァローナ、ミシェル・クリュイゼル(フランス)、チョコビック(スペイン)、フェルクリン(スイス)などの大手ばかりでなく、高品質を目指すアメリカの新しい作り手や、最近注目されつつあるロー(非焼成)チョコレート、エクアドルのようなカカオ豆生産国も参加しているところが、ある意味日本より一歩先を行っているのではと感じました。

また、スウェーデンのボンボンショコラには、ガナッシュをギターカットしてコーティングするフランス式と、型に流すベルギー式の両方が見られます。それにデザインの国らしいセンスがちりばめられた、スタイリッシュかつノスタルジックな雰囲気がします。北欧特産のベリー類〜リンゴンベリーやラズベリー、クラウドベリー風味のガナッシュを詰めたものや、日本人には馴染みのない個性派スパイス〜リコリス(甘草)風味のキャラメル入りボンボンショコラは、どのお店でも大変人気があります。

リコリスのボンボンは、甘味料としても使われる甘草の根の粉末を、塩バターキャラメルに混ぜ、チョコレートでコーティングしたものがほとんど。リコリスは日本人には馴染みがなく、ちょっと薬草っぽい香りがとっつきにくいといわれています。ところが食べてびっくり! あの黒くてしょっぱくてアンモニア臭いリコリスグミを連想して避けていたのに、この粉末リコリスは別物なのです。キャラメルやチョコレートと混ざると、アニスのような不思議な甘さに、はまってしまいそう。極端に言えば、まるでタイ料理におけるパクチー(コリアンダー)! 大嫌いからある日突然中毒に逆転したときの不思議さ。事実、日本でもフィンランドからの輸入されるタブレットチョコレートの中では、リコリス入りが人気と聞きますから、食べず嫌いは損ですね。

デンマークのブランドAnthon Bergのタブレットがすらり。リンゴンベリー味など、北欧らしいフレイバーもあり、試食しながら選べる
スペインのチョコビックのブース

日本にも進出している地元ストックホルムのチョコラードファブリケン。洗練されたディスプレイと、出来あがったばかりのアドヴェントカレンダー(右)のデザインに一目ぼれ



スウェーデンブランドのカジュアルなタブレットに、早くもクリスマスフレイバーのチョコレートが登場
スウェーデンのÖlands Choklad。塩入りリコリスキャラメル、ベリーなど、北欧特産のフレイバーボンボンが自慢


スウェーデンでもキュートなカップケーキは人気
ディスプレイがそそられるジュニパーベリー風味のトリュフ
ブルーベリーなど、ベリー系は最も北欧らしいボンボンのフレイバーだそう
マダガスカルにカカオ農園を持つスウェーデンÅkesson'sのタブレット。カカオの力強い香りにピリッと刺激的な野生の胡椒入りは私の大のお気に入り
スウェーデンQuinto。ドミニカ産のカカオを、ビターで粒も残し昔ながらの中米スタイルのディスク状にしているところがユニーク
Quintoではカカオ農家直の生カカオの実も販売していました。買ったら果物として、食べるのでしょうか、それとも発酵させてチョコレートに!?(笑)
カカオ豆から作る小さな作り手、アメリカAskinosieの産地別タブレット。珍しいフィリピン産カカオもあり、有料テイスティングセミナーも開催。「INTERNATIONAL chocolate awards2012」でも受賞作ありの、ちょっと注目のメーカー
パナデリアの絶賛お薦めブランド、エクアドルのPACARIと私が出会ったのはここ。アメリカのニーズでローフードのためのローチョコレート(カカオ豆を48℃以下でしかローストしていない)も作っています。ローのタブレットでは独特のぬめりを感じるけれど、ドライの食用ほおずきを包んだローチョコレートは、フルーティーで癖になるおいしさ
エクアドルのチョコレートブース。PACARI他、エクアドル産チョコレートはエスニックなパッケージ柄も魅力

ョコレートフェスティバルをひとまわりした後、博物館の常設展を見学してみました。お祭りの熱気を感じながら、スウェーデンのクリスマスやイースター、夏至祭の食卓に並んだお菓子の模型を見ていたら、いつかここにチョコレート祭りの模型が展示されるのでは!?と、思えてきました。日本もそろそろオリジナルのチョコレート祭りをやってもいいのでは? 偉そうなことは言えませんが、ちょっぴり悔しかったことは本当です。

北方民族博物館上階にある常設展示コーナーから眺めたチョコレートフェスティバルの様子
第一回でレポートしたカーニヴァルシーズンのお菓子‘セムラ’もスウェーデン生活史の一部。模型が説明つきで展示されています

ストックホルムのチョコレートフェスティバルは、毎年10月の第二週末に行われています。今年は記念すべき10回目が、10月12〜14日に開催されました。今後、この時期にストックホルムに行かれる方はぜひチェックしてみてください。

ストックホルムのチョコレート祭り(Choklad Festival)公式サイト(スウェーデン語)
http://www.nordiskamuseet.se/category.asp?cat=412&catname=WWW.Chokladfestival&topmenu=142

英語の概略)
http://www.nordiskamuseet.se/Publication.asp?publicationid=13406&topmenu=142

サイト内2010年のアーカイブ写真)
http://www.nordiskamuseet.se/Publication.asp?publicationid=13880&cat=488&catName=WWW%2ENyhetsarkiv%5F10&topmenu=0






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