理的歴史的関係から、スウェーデンとフィンランドの食べ物は、例えばセムラやシナモンロール、にしんの酢漬け、ミートボールといった共通のものが多いのですが、もちろんそれぞれの国でしか見られない独自のものもあります。今回はその代表で、フィンランドのソウルフードともいわれるカレリアンピーラッカのお話しです。

カレリアンピーラッカ karjalanpiirakka。とても長い名前ですが、カレリアとは、フィンランド東部のロシアと国境を接する地方で、ピーラッカは平たく言えばパイのこと。陸地よりも湖水が多く、独自の伝統文化の残るカレリアは、作曲家シベリウスをはじめ、多くの芸術家にインスピレーションを与えたそうですが、ここで生まれたカレリアンピーラッカも、フィンランド人を魅了し、今では全国で作られ、食されるようになりました。

さて、そんな国民食カレリアンピーラッカとは、一体どんなものなのでしょう?

簡単に説明すると、ライ麦粉、小麦粉、塩、水だけで捏ねた生地を薄く楕円にのばし、お米のミルク粥をのせて生地の端をつまんで木の葉のような形にしてオーブンで焼き、溶かしバターをたっぷり染み込ませたもの。

えっ、ライ麦生地に米粥!? イタリアのピッツァでさえお米をトッピングにするなんて聞いたことがないし、言ってみれば'焼きそばパン'的な炭水化物プラス炭水化物の組み合わせ。聞いただけではまるでそそられないのですが、その姿かたちはカフェやパン屋で一番目立つといっていいし、見たとたんに、ぐっと興味がわいてくるのだから不思議。

ヘルシンキ郊外のスーパーでパン売り場に並ぶカレリアンピーラッカ

ヘルシンキ空港内ベーカリーカフェのショーケースにも。食べもの好きな人なら、クロワッサンよりも左側の不思議な形をしたほうに興味が向かうはず


15年以上前に、飛行機乗り継ぎ時間を利用してヘルシンキ市内を2時間だけ歩きまわって、唯一食べたのが、カレリアンピーラッカでした。それくらい、何も知らない旅行者にもアピール度が高いのです。当時のアルバムを開くと、名前はわからないけれどとにかく美味しいとメモが挟んであります。ついでに青山の紀ノ国屋で売っているのを後から知ったとも書かれていました()。とにかく、一度見たら忘れない姿のカレリアンピーラッカは、その後フィンランドに行くたびに食べるようになりました。

* 紀ノ国屋インターナショナルの北欧フェア期間限定で、製造販売していました。

ヘルシンキ空港のカフェで見つけたバターエッグのせ版
ちょっと美しくないですが、中身は米粒がはっきり見えるほどのお粥状態
その場で食べる場合は温めて供されます


2010年10月、ヘルシンキの空港内カフェで見つけたのは、潰したゆで卵&バターのせ。オーダーすると温めて提供してくれました。溶けたバターの香りが食欲をかきたてます。ナイフを入れると、中からお米の粒粒が姿をあらわします。卵チャーハンや卵どんぶり、卵かけご飯にオムライス・・・、ご飯にからむ卵の相性を誰よりも知る日本人はこの時点でノックアウト。ひと口ほおばり、ライ麦生地と一緒に噛むと、異国の食べ物なのに懐かしさがこみ上げてきます。エッグイエローが食欲をそそるこの食べ方が、実は最もポピュラーなことは、京都にあるフィンランドパンのお店「キートス」()のご主人から聞いていましたが、空港でその通りに売られているのを見て、食べて納得です。

*キートス http://www5a.biglobe.ne.jp/~kiitos/ を参照ください。



て、好きになってしまうと、次に作り方が知りたくなります。そこで昨年3月、前回ルーネベリタルトを教えてもらったリータ先生にお願いして、手ほどきを受けてきました。さっそく写真でイメージを膨らませてください!

リータさんの高校時代のレシピノート
ライ麦生地を棒状にのばして分割したところ
RISELLAと書いてあるのが、フィンランドで売っているメーカーのお米。これはお粥やお寿司などにも使える中粒









薄くのばした生地にお粥をひろげてひだを作りながらやさしく包んでいきます


ータさんがはじめに見せてくれたのが手書きのレシピ帳。16、7歳頃学校で習った料理のレシピノートを、今でも大事に使っていることに感激しました。「カレリアンピーラッカは今もこの配合で作るのよ」とリータさん。そうこう言っているうちにお米のミルク粥を作り始めました。材料はお米、水、塩、牛乳のみ。ちなみにお米はスペイン産の丸い中粒です。北欧でお米は栽培していないので、古くには大麦だったそう。その後南の国からやってきた貴重なお米を使ったお粥はクリスマスなどお祝いに欠かせない伝統食となり、大切に受け継がれてきました。十分やわらかくなるまで炊いたお粥は、しっかりと冷まします。

次にお粥を包む生地をライ麦粉、小麦粉、塩、水で作り、小さく分割して楕円形に薄く伸ばていきます。この伸ばす作業、カレリアンピーラッカ用の両端の細くなった特殊な形の麺棒を使うと、あら不思議、くるくる回転しながらのびるのです! 私もやってみましたが、あれれ・・・?回転してくれません。生地はちゃんと薄くなるのですが回転技には熟練が必要のようです。

楕円にのばしたライ麦生地に、冷ました米粥を広げ、左右端から折り返しつまんでパイのように具を包んでいきます。この作業は日本人なら得意かも!? 餃子やシュウマイ作りに通じる可愛さがあってはまってしまいます。具と生地のバランスを掴みながら、どんどん楕円のパイができていきます。カレリア地方では、ひだの数に決まりがあるとかどうとか!? やっぱり粉ものには面白い謂れがつきものですね。

中火のオーブンにいれ、お粥に焼き色がついたら、バター少々を溶かしたお湯にくぐらせ潤いとツヤを与えて完成です。

オーブン皿に載せて焼くところ
これで完成。温かいうちにいただきます。好みでゆで卵バター(ムナボイ)をのせても
焼き上がったら熱いうちにバターを溶かしたお湯に通す

出来上がりをそのまま食べてみると、ほんわり甘い! お砂糖は一切使っていないのに、この甘さったら何!? 噛むほどにじんわり広がる穀物と乳の自然な甘さに、コメ食の日本人は反応せずにはいられません。リータさん曰く、日本人がくると、カレリアンピーラッカをたくさん作るのだとか。とにかくお米が食べられると、喜んでくれるのだそう。

ほんのちょっと時間はかかるけれど、材料もシンプルで意外と簡単だったので、日本でも作ってみようと、専用麺棒をお土産に買いました。(回転するまで訓練しなければ!) それから念のためライ麦粉も。こちらの粉類は、用途別にわかれているようで、とてもわかりやすいパッケージデザイン。ライ麦粉も多くの国では挽きの粗さなど文字だけで分類されるのが普通なので、これは素人、そして旅行者にはうれしい。さすがデザインの国ですね。

両端の細くなった専用の麺棒。町の道具やさんなどで簡単に手に入ります

SUNNUNTAIブランドの細挽きライ麦粉。カレリアンピーラッカのデザインパッケージですぐにわかります。裏のデザインも微笑ましい。2種類のレシピつき


日本人が考えるとパンでもなく、お菓子でもなく、少々つかみどころのないカレリアンピーラッカ。でも見たら気になる。作り方が面白い。食べてみたらまた食べたくなる。そんな不思議名物は、お土産チョコレートにもなっていました。もし、フィンランドへ行かれるときは、食べず嫌いはやめて、一度はチャレンジしてみてください。頭でのイメージが覆されること、請け合いですよ。

ヘルシンキの港に面した屋内市場「オールドマーケットホール」では、カレリアンピーラッカ姿のお土産チョコレートも売っていました





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