ウェーデンとフィンランドの間、ボスニア湾の入り口に位置するフィンランドの自治領オーランド諸島。ここには黒いパンの他に、黒いソースと白いクリームを添えて食べる伝統のパンケーキがあります。

前回も紹介しましたが、オーランドの名物を描いた切手には、パンケーキも描かれていますし、黒パン同様にポストカードもあります(スウェーデン語)。

オーランド・パンケーキÅlandspannkaka のポストカード。写真を見ると普通イメージするパンケーキとはちょっと違う予感がしますよね


現地で見つけたレシピ本の表紙にも、オーランド・パンケーキはしっかり登場しています。

「Caféliv på Åland Tjugo upplevelser Tjugo recept」 直訳すると、オーランドのカフェライフ 20の経験、20のレシピ。本の表紙。左上あたり、旗のたっているのが、オーランド島パンケーキ


でも、こうして絵や写真を見せたところで、「なんでこれがパンケーキなの?」って、思う方がほとんどではないでしょうか。オーランド・パンケーキは形が四角だったり、カットして盛り付けてあったりで、今、日本で流行っているふわふわパンケーキにも、昔ながらのホットケーキにも、少しも似ていないのだから仕方ありません。

以前、NHKテレビ「グレーテルのかまど」で、ムーミンママのパンケーキと題して、フィンランドのパンケーキを紹介していました。そのときのパンケーキが、生地を型に流し、オーブンで焼き上げるタイプだったのを、ご覧になった方は覚えていらっしゃいますか?
 ↓(番組サイト参照)
 http://www.nhk.or.jp/kamado/story/index28.html

 実はオーランド・パンケーキも、同じくオーブンで焼き上げるタイプなのです。


あ、日本では珍しいオーブン焼きのオーランド・パンケーキを、前回と同じくソリさんに教えていただきましょう。

 生地の材料は、ミルク、セモリナ、砂糖、卵、カルダモン、バター。まずは鍋にミルクを入れ火にかけ、ふつふつしてきたら、カルダモン、セモリナを入れ、素早くかき混ぜながら粥状にし、砂糖、バターを入れ、ぼってりしたところで火からおろし、粗熱をとって卵を混ぜます。バターをたっぷり塗った深めの型に流し、上に小豆大にちぎったバターを数箇所散らしたら、200℃に予熱しておいたオーブンでおよそ40分。表面に美味しそうな焼き色がついたら出来上がり。オーブンの中ではスフレのようにふわっと高く持ち上がっていたのに、焼きあがって冷ますうちにぺしゃんと落ちます。その姿はまるでチーズケーキか、フランのようです。

gammaldags mjölk 昔ながらのミルク。パッケージもレトロで美味しい島のミルク

mannagrynマナグリュンとは、セモリナのこと。コーンミールのようにざらざらの粗挽き硬質小麦。manaの愛称で描かれた女の子のイラストがかわいい

北欧菓子にカルダモンの粗挽きは欠かせない。410g入りは大きなスーパーなら普通に売っている

ミルクを火にかけ、カルダモンを入れる


どろっとした状態の生地を型に流しオーブンへ
セモリナを振り入れたら、だまにならないよう素早くかき混ぜ粥状にする




焼いている間に、ソースとなるプルーンのコンポートを作ります。プルーンと水、シナモンスティック、砂糖を鍋に入れ火にかけやわらかくなるまで約15分煮たら、水溶き片栗粉でとろみをつけできあがり。とてもシンプルだけど、シナモンの香りでプルーンが化けます。

プルーンにシナモンの香りを纏わせるだけで、複雑な味わいに

焼きあがりをオーブンから出して少し置くと、この通り真ん中がへこんでチーズケーキやフランのよう
オーブンの中でぷっくり膨れるパンケーキ





クリームを泡立て、ヴァニラシュガーで香り付けたホイップも用意して、粗熱のとれたパンケーキを取り分け、プルーンソースとホイップを添えていただきます。

見た目は地味だけれど、お皿から漂うカルダモンやシナモンの甘くスパイシーな香りが食欲をそそります。そしてひと口、口にした途端、その食感にハッとさせられました。しっとりもちもちした生地の中で、セモリナの粒粒がカルダモンの粒粒と二重奏するのです。これまでも私は北欧のパンについて、噛んで穀物の粒を感じるところが日本の米食に通じる、と考えていましたから、パンケーキにもそれを発見し、興奮してしまいました。

オーランド・パンケーキには、シナモン風味のプルーンソースとホイップクリームが定番

一人分の盛り付け。ソースやクリームの量はお好みで

「マナグリュン(セモリナ)で作ったお粥はフィンランドでは、子供の好物なのよ。だからほら、パッケージを見て。女の子のイラストでしょ!」とソリさん。

ちなみにここで使ったセモリナは、日本で一般に売られているセモリナの粉状とは違い、ざらざらな粗挽き状のもの。ヨーロッパでは団子やスープ、お菓子にしたりとポピュラーなのですが、日本ではパスタやピッツァに使う細挽きの粉をセモリナと呼ぶので混乱しますよね。この粗さだから、お粥にもなるし、噛んだときに明らかに粒を感じるのです。

「セモリナの代わりに、お米と小麦粉で生地を作ってもいいし、コーンミールを入れてもいいのよ」。

ソリさんのアドヴァイスで、ますますピンときました。このパンケーキは粒粒が肝なのです! そして、どの粒粒穀物も炊いてから焼き上げる〜まるで、余ったお粥を焼いてみたら出来ちゃったかのよう。そういえば、プルーンとの組み合わせもあってか、フランス・ブルターニュ地方の郷土菓子ファー・ブルトンにも通じる味わい。さすが、直訳‘ブルターニュのお粥’だけのことはあります。世界はつながっているのですね!

「19世紀のはじめ頃、船乗りたちがアフリカから持ち込んだスパイスやフルーツを使って焼いたのが、オーランド・パンケーキのはじまりといわれているの。外からもたらされた素材で贅沢に作られたパンケーキは、祝いの席やパーティーに、行事があるごとに、昔も今も欠かせない食べ物なのよ」。

なるほど、船乗りたちの軌跡を想像するだけで、おいしい地図が描けそうです。

こうして、オーランド諸島に根付いたパンケーキは、家庭で作られるだけでなく、カフェやレストランでも人気だそうです。

滞在中、訪れたクリスマスマーケットでは、ソースとホイップがセットになったオーランド・パンケーキが売られていましたし、レストランのクリスマスビュッフェではデザートに、お米入りのオーランド・パンケーキが登場しました。お米の粒粒が存在感を放ちつつ、カルダモン生地に馴染んで美味しい! お米の魅力再発見です。

クリスマスマーケットで売られていたオーランド・パンケーキ。ソースとクリームもセットになっています

フィンランドの有名シェフ、ミカエル・ビョークルンド氏のレストラン・スマークブーSmakbynのクリスマスビュッフェには、お米入りのオーランド・パンケーキがありました。写真一番奥のプルーンとクリームがのったものがそれ

本で今ブームのパンケーキとは似ても似つかないけれど、一度食べたらいろんな刺激を呼び起こすオーランド・パンケーキを、みなさんにもぜひ体験していただきたく、最後にレシピを紹介します。まずは食べてみないと伝わらないですからね! 作り方はいたってシンプルなのですが、セモリナだけが入手困難かもしれません…。ちなみに私はトルコ産セモリナをネットで取り寄せて使いました。実際はもっと粗い粒でしたが、粒を感じることはできます。

トルコ産のセモリナ。トルコでもセモリナを使ってお菓子を作るそう



オーランド・パンケーキ (直径約18cm深めの型)

パンケーキ生地
 牛乳500g
 セモリナ 粗挽き90g
 グラニュー糖30g
 バター50g
 塩2g
 カルダモン粗挽き4g(殻から黒い粒を取り出し、つぶして使う)
 卵3個
 型に塗るバター、上に散らすバター 適量
プルーンソース
 プルーン250g
 水500ml
 グラニュー糖大さじ1位(好みの甘さに)
 シナモンスティック4本
 水溶き片栗粉
  orコーンスターチ
少々(ソースのようなとろみが付く程度)
ホイップクリーム
 生クリーム適量、ヴァニラシュガー少々


作り方:
1)生地を作る。鍋に牛乳をあたため、ふつふつしてきたら、セモリナ、カルダモンを入れホイッパーで素早く混ぜる。焦がさないような火加減で、塩、グラニュー糖、バターを加え混ぜ続け、とろとろもったりしてきたら火をとめる。
2)卵を1つずつ加え、熱で固まらないように素早くホイッパーで混ぜる。
3)バターをたっぷり塗った深めの型に2)を流し、表面にバターを数箇所散らす。
4)200℃に余熱したオーブンで約30〜40分。ぷくっと膨らんで表面に焼き色が付いた状態。
5)焼いている間にプルーンソースを作る。鍋に水、プルーン、グラニュー糖、シナモンスティックを入れ火にかけ、やわらかくなるまで約15分煮る。水溶き片栗粉でとろみをつける。
6)生クリームを泡立て、ヴァニラシュガーで風味付ける。
7)焼きあがったパンケーキを人数分にカットしお皿に盛り、温かいプルーンソースと冷たいホイップクリームを添えていただく。



いかがでしょうか? 北欧の人っぽく旗を飾って盛り付ければ、雰囲気upですね。

トルコ産のセモリナを使い日本で作ったオーランド・パンケーキ






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