に食べたいフレッシュフルーツといったら、みなさんは何を思い浮かべますか? さくらんぼから始まって、桃、メロン、スイカ、マンゴー、ぶどう、すもも、ブルーベリー、パッションフルーツ・・・、もうきりが無いほど、いろいろな果物の名前があがりますよね。日本は本当に恵まれた気候の国です(最近の異常気象は恐ろしいですが)。緯度が高く、一瞬で夏が来て去ってしまうスカンジナビアでは、自国で育つ果物はごくごく限られます。市場やスーパーに行けばもちろん日本と同じように様々な果物が並んでいますが、札をよく見るとスペイン、ドイツ等、輸入ものがほとんど。ただベリー類だけは堂々の自国産。夏には市場で一番目立つくらい、様々なベリーが並びます。中でも北欧が誇る特産がブルーベリー。
実は私、ブルーベリーが大好物。今から30年ほど前、日本でチーズケーキが流行った時代がありました。レアでもベイクドでも、クリームチーズのフィリングに、必ずといっていいほど入っていたのがブルーベリー。当時は生のブルーベリーなんて手に入りませんでしたから、買ってきたチーズケーキの中で、ところどころパープルに染みた粒の箇所を、それはもうありがたく舐めながら唸っていたものです。それからアヲハタ・ブルーベリージャムの登場はセンセーショナルでした。自宅でもジャムを使えば、憧れのチーズケーキを作れるようになったのですから! そして現在、八ヶ岳南麓に通うようになってから、ここが近ごろ注目のブルーベリー産地だと知り、品種別の味やもぎたての旨さにどっぶりはまり・・・。もはや夏は、生ブルーベリーなしでは過ごせない身体に。
そんな私が東京在住のスウェーデン人の女性に北欧菓子を教えていただく機会を得たときのこと、旬の国産のブルーベリーを持参してみたところ、一粒取り出しナイフを入れ、「これは中が白いからブッシュのブルーベリーね(アメリカ系の栽培種)。スウェーデンのブルーベリーは中も真っ青なのよ。木の背も膝下ほどで、夏になると森に摘みにいくの。摘んではつまみ食いするから、唇と指先が真っ青になって大笑いよ。日本のものは粒も大きいけれど、焼いたらジャム状になりますか? とにかく作ってみましょう」と語りだしました。森のブルーベリーと栽培のブルーベリー、楽しみ方と味、実際どれだけ違いがあるのでしょうか? 頭の中はもう北欧の森の中。というわけで、短い旬のブルーベリーとそのお菓子を求めて、7月下旬のフィンランドへ行ってきました。

それでは早速、ヘルシンキで見つけたブルーベリーとお菓子を紹介しましょう。ブルーベリーはフィンランド語で、mustikka(ムスティッカ)、スウェーデン語でblåbär(ブールバール)といいます。フィンランドではたいてい二ヶ国語表示なので、このふたつの単語を頭に入れてブルーベリーを見つけましょう。

ヘルシンキの屋外市場に並ぶフレッシュベリー。手前の、皮の青色に白っぽさがあるブルーベリーが栽培種、ラズベリーを挟んで右側の濃いブルーがフィンランドの野生種

こちらはヘルシンキ郊外・小さな町の屋外市場の屋台。フィンランド産のベリー類が豊富! ・・・ですがブッシュのブルーベリーはドイツ産


ヘルシンキの市場やスーパーの果物売り場を覗いてみると、二種類のムスティッカがあることに気づきます。PENSAS−と頭についているムスティッカは、聞けばブッシュ(=日本でお馴染の栽培種)で、ドイツ産等、外国産の札がついています。フィンランドでは、森に自生するムスティッカが豊富にあるため、栽培品種は作らずわざわざ輸入しているのです。面白いですね。自国の野生種より1ユーロ高いけれど、大きくて甘い栽培種を好む人もいるのでしょうか。ちなみに量り売りではなく、1リットルあたりで値段がついているのも北欧ならでは。レシピもグラムではなく、デシリットル表示が主流なので頷けますが!


次にパン屋さん、お菓子屋さんを覗いて見ましょう。

カニストン・レイポモ(KANISTON・LEIPOMO)の入り口で、ブルーベリーのシーズンと書かれたボードが誘う
ムスティッカピーラッカ(MUSTIKKAPIIRAKKA)
ムスティッカヴィエナ(MUSTIKKAVIENER)。フィンランドではスウェーデン語を話す人もいるため、パンの札でさえ二ヶ国語表記に


舗パン屋カニストン・レイポモには、フィンランド産のブルーベリーを使った季節限定のパンがありました。ひとつは伝統的な菓子パン生地をタルトのように形作ったムスティッカピーラッカ。もうひとつはデニッシュ生地のムスティッカヴィエナ(デニッシュはこちらではウィーン風を表すヴィエナといいます)。どちらも魅力的で悩ましい・・・そこでお店の方にどちらが個人的に好きかを聞いてみました。若い彼女の答えは、軽くてリッチなヴィエナ。たまにはデニッシュも良いでしょう。早速いただいてみると、ふわっと軽い口当たりのデニッシュと、炊いたブルーベリー、その下のヴァニラクリーム(?)がはまりすぎる位調和して、恐ろしいテンポで口の中に入っていきました。なんと言ってもブルーベリーの風味が濃い! ちなみにこのお店では、季節ごとに旬のフルーツを変えて菓子パンを作っているそうです。ブルーベリーの前がいちごで、秋にはりんごものが登場するとのこと。少ない種類ながらも、その時期の自然の恵をパンの形でいただけるなんて、市場めぐり同様、目も心も弾みますね。

カニストン・レイポモ KANISTON・LEIPOMO
 http://kannistonleipomo.fi/

カック&レイパ・ケイサリ(Kakku & Leipä Keisari)のショーケースに並ぶフレッシュブルーベリーのヴィエナ。ケーク風に大きく焼いて無造作にのせただけなのに存在感たっぷり

タルトレットに旬を詰めたケーキは、単にケーキという名でもあり、ムスティッカコリ(MUSUTIKKAKORI)〜ブルーベリーバスケットと呼ばれることもある。同じく夏が旬のラズベリーケーキも左に並ぶ


ちらはヘルシンキに何店舗かあるカック&レイパ・ケイサリKakku & Leipä Keisariというケーキ&パン屋。やはり、フレッシュのブルーベリーをのせたヴィエナ(デニッシュ)のような菓子パン類や、ヴァニラクリームを詰めた上に敷き詰め、タルトレットに仕立てた夏ならではのケーキも。

カック&レイパ・ケイサリ Kakku & Leipä Keisari
 http://www.kakkukeisari.fi/index.php/home


ブルーベリーやラズベリーなど、酸味の爽やかなベリー系はチーズや乳製品と相性が良いせいか、チーズクリームのアパレイユに、ベリーをちりばめた菓子パンもあります。カック&レイパ・ケイサリ前の屋外市場には大小さまざまなプッラ(菓子パン)やタルトなど、そういった昔ながらの定番が並んでいました。

ヘルシンキ郊外から売りに来ていた屋外市場のパン屋。食事パンから菓子パン、菓子まで大小さまざまな種類が並ぶ
ラハカ(RAHKA)というフレッシュチーズのアパレイユを焼きこんだケーキや、それにブルーベリーやリンゴンベリーを散らし焼いたケーキ
ブルーベリーを焼きこんだプッラ(左)と、ラハカを焼きこんだブッラ(右)

どれも素朴で昔ながらの味わいが想像できます。特にラハカとの組み合わせは、ベリー色の染み具合が、昔食べた日本のチーズケーキを彷彿させます。このとき買って食べればよかったのですが、複数個入りで手が出ず、次の店でと後回しにしたら見つからなくて後悔。こういうことは旅行中にはつきもの。次回への宿題にします。


に向かったのが、紀ノ国屋がかつてフィンランドパンの研修に入ったという1852年創業の老舗、エクベルグ。一見地味だけれど、広々とした造り、使い込まれたインテリアやショーケースのお菓子たちに、老舗のオーラをビシビシ感じます。なのに店員さんたちの笑顔に気品はあっても気取りはありません。ここには、クリームを使った現代風のケーキにブルーベリーものはなく、ムスティッカピーラッカというスクエア形に焼きこんだ季節限定の典型的なフィンランド式ブルーベリーパイがありました。火入れすることで、とろりとジャム状に、甘みと酸味のハーモニーが一層深みを増すこの形は、永遠の‘美味しい!’なのでしょう。

エクベルグの焼き物ショーケースには、温かみと懐かしさを感じます。左上の粉糖がけの四角がムスティッカピーラッカ。参考までに右上の丸型はルバーブを焼きこんだプッラ。これも北国ならではの夏の酸味

カフェ・エクベルグ Café Ekberg (英語あり)
 http://www.cafeekberg.fi/



食品のセレクトショック Anton&Anton の菓子ケースには、「Frambois」や「PETITPAS」といったフランス風パティスリーのブルーベリータルトが並ぶ

また今どきのお店として訪ねたディーン&デルーカ的ヘルシンキの食品セレクトショップ、アントン&アントンのショーケースの中にフレッシュブルーベリーのケーキを見つけました。フランス風のお菓子&パンを売りにする2つのお店〜「フランボワ Frambois」と「プティパ PETIT PAS」が製造した2種類のタルトです。ひとつは野生種、もう片方は栽培種、それぞれ作り手の選択が気になるところですが、いずれにしてもアーモンドクリームを焼きこんだフランス式タルトではなく、フレッシュなクリーム系フィリングとあわせているところに、フィンランド人の意地を感じます!・・

アントン&アントン Anton&Anton 店舗情報(英語ページ)
 http://www.antonanton.fi/en/Stores/Kruununhaka


ルーベリーを使ったパンやお菓子は、夏だけのものではありません。冷凍やコンポートで保存したブルーベリーを使えば、一年中楽しめるのです。そこでヘルシンキの冬のショーケースを紹介しましょう。

冬に訪れたカック&レイパ・ケイサリのショーケース。ジャムを詰めたムスティッカプッラ(右)。ちなみに左はりんごのデニッシュ

同店の冷蔵ケース上のブルーベリーを焼きこんだシンプルなケーキも、あちこちの店で見られる定番中の定番

カックガレリアのMustikkatartaletti(下)。これは輸入ブルーベリーで作っているのか、解凍かわかりませんが・・・


2店目にも紹介したカック&レイパ・ケイサリでは、ジャム状のブルーベリーを焼きこんだプッラ、それにフィンランドでは定番の焼きこみケーキがありました。このときはカーニヴァル菓子〜ラスキアイスプッラを探しての旅でした。肝心のそれが時期終了でどこにもなかったのに!

最後はヘルシンキに数店展開する1999年創業のカックガレリア。観光&ショッピングスポットである'デザインフォーラム'敷地内に併設されたお店には、なんと今回夏の定番と思われたブルーベリータルトがありました。食べなかったのでわかりませんが、写真からは生っぽい雰囲気も伝わります。3月のことです。ブルーベリーは輸入品なのでしょうか? いずれにしても、ブルーベリーはフィンランド人の生活になくてはならない友、常に何らかの形で、ショーケースで青く輝いているのでしょうね。

カックガレリア KakkuGalleria
 http://www.kakkugalleria.com/site/


今回はヘルシンキを町歩きするように、ブルーベリーとお菓子、菓子パンとそのお店を紹介しました。こうして振り返ると、ブルーベリーは派手な色彩ではないのに、どのお店のものもほとんど飾りけがないことに気づきました。フィンランド人はブルーベリーのありのままが好きなのでしょうね。次回はフィンランドの森で、実際ブルーベリー摘みをして作ったお菓子など、生活に取り入れられているブルーベリーを紹介しましょう。それではまた次回に!






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