の連載で以前「フィンランド料理はイギリス料理と同様にまずい」と発言したシラク元フランス大統領の小話、覚えていらっしゃいますか? 確かに‘食’に関してはぼんやりしたイメージのフィンランド・・・。それなのに他のヨーロッパの国にはない(と思われる)、食をテーマにしたユニークな観光ツアーが行われているのです。その名もずばり「Food Sightseeing Helsinki(フード・サイトシーイング・ヘルシンキ)」。ウェブサイトを読んでみると、3〜4時間くらいかけてヘルシンキの町をおよそ3km歩きながら、5軒ほどのお店に立ち寄り、ガイドやお店の方の話しを聞き、テイスティングをするというもの。そのお店は、老舗からトレンド、庶民の味からちょっと洒落たお店まで、ヘルシンキっ子でなければわからないポイントが選ばれているというのです。これはもう参加しない手はないでしょう! ということで、今回は昨年7月に体験したこのフードツアーを紹介します。

ツアーの集合場所はHotel Klaus K(ホテル・クラウス・クルキ)。デザインホテルとして有名ですが、フィンランドの神話カレワラをモダンなデザインに融合させたインテリアが目をひきます。ガイドのクリスさんと挨拶の後、参加者それぞれが簡単な自己紹介をし、ホテルのアペリティフをいただきました。爽やかなクランベリーソーダと、フィンランド名物黒パンにムイック(サケの仲間のわかさぎ大の小魚)の燻製と野菜をのせたオープンサンドで、これから始まるツアーの食欲を引き出します。

ガイドのクリスさん(左)。この日の参加者は6人。外国人だけでなく、ツアー内容に興味のあるフィンランド人も参加が多いそう。

ムイックのオープンサンド。小骨も気にならず、魚好きな日本人にはうけます。ナイフ&フォークで食べます。

クラウスKではイッタラのお皿で供される。

さあ、歩き出しましょう。一行はヘルシンキのメインストリート‘エスプラナーディ通り’を東に進み、港の手前で路地に入り、一軒の店の前で立ち止まりました。

えっ・・・、エロマンガ!?

120年もの歴史を誇るEROMANGA(エロマンガ)。その名は、初代が店名を思いつかず、地球儀を回して指をあてた地が、南太平洋のバヌアツ共和国にあるエロマンガ島だったからだといいます。

ここで笑ってしまうのは日本人だけでしょう。けれどエロマンガは、ある食べ物で「フィンランド全体を征服」してしまったのです。それがリハピーラッカLihapiirakka、日本でいうピロシキのことです。隣国ロシアの影響を受け、フィンランド人を魅了するピロシキは、カフェ開店前の毎朝4時から6時の間作られていて、そのレシピは門外不出。毎日カフェに立つ名物オーナーMrs. Anjaのことなど、エピソードには事欠かない老舗エロマンガ、試食はもちろんリハピーラッカを一人にひとつとコーヒー。大人の手ほどある大きさにのけぞってしまいましたが、食べてみると脂っこくなく薄味で、ひき肉に混ざって具となっているお米の食感に懐かしさがこみあげてきました。

パンやお菓子が並ぶエロマンガの店内。古風なスタイルがどこかあたたかい雰囲気。

これが名物ラハピーラッカ(ピロシキ)。好みでマスタードをつけて食べても・・・関西の豚まんの食べ方に似ている!?

腹を満たしたところで、目と鼻の先のカウッパトリ(Kauppatori:マーケット広場)へ。市場には季節の野菜や生鮮品のほか、手工芸品を売る店や一息つけるカフェ、食事のできる屋台もあります。旬のいちごやヘルネ(えんどう豆)を味見させてもらったり、買ったりしてもOK。ここでのツアー試食は屋台料理。トナカイ肉のミートボールやムイックのフライなど、これぞフィンランド!という庶民の味を堪能しました。

カウッパトリの屋外市場。リットル量り売りのヘルネ(えんどう豆)は夏の名物。なんと生でも食べられます。これがびっくりするほど甘い!

市場の屋台。ミートボールやソーセージなど、定番フィンランド料理がずらり。

ツアーのテイスティングメニューは、ホテルでも登場した小魚・ムイックのフライとガーリックマヨネーズ、トナカイ肉のミートボールとリンゴンベリーソース。トナカイ肉は想像より癖がなく食べやすい。

次はヘルシンキで今をときめく創作系レストラン・ルオモ(Luomo)と同じ経営のピュア・ビストロPure Bistroへ。伝統とモダン、西と東の融合といったコンセプトとメニューの説明を受けながら、運ばれてきた品に興奮。一体これは? 目を丸くしながらいただいてみると、すがすがしい香りにまたびっくり! その正体はトウヒ(もみの木の仲間)新芽シロップをグラニテにしたものでした。まるで冬の森を散歩したときのような発見、ああ、もう一度食べたい。

カウッパトリの目の前にあるPure入り口。ミシュランガイドおすすめ店でもある。

ランダムな椅子の並びもしゃれている店内。

試食に登場したスプルースのグラニテ。器がすてき。

ピュア・ビストロから一転、向かったのはフィンランドの田舎風レストラン・サヴォッタ(SAVOTTA)。見学のみでしたが、カントリー調の雰囲気がくつろげそう。

イラストがかわいいサヴォッタの看板と店内テーブル。トナカイやサーモンなどの伝統料理が楽しめる。

サヴォッタの前には町のシンボル、ヘルシンキ大聖堂がそびえ立っています。元老院広場に面した大階段からの眺めは、誰もが一息したくなる場所ですが、その反対側、大聖堂の下にあたる地下礼拝堂に、夏の間だけオープンするカフェがあるのです。その名もずばりカフェ・クリプタ(cafe crypta)。レンガ造りの壁や空間を利用した展示会も行われ、市民の憩いの場になっていました。落ち着いた雰囲気の中、カフェや軽食、ケーキがいただけます。

1852年完成のヘルシンキ大聖堂と、元老院広場と町並みを見下ろす大階段は、まずは訪れるべき観光スポット。

カフェ・クリプタは、セルフサービス。塩味系のキッシュと迷って、結局甘い系のチェリータルトをチョイス。ホームメイドな素朴な味わい。

さらに北上し、作り手の顔が見える食材を取り揃えた、新しいコンセプトのフードマーケット、アントン&アントン(Anton&Anton)へ。オーガニック系を中心に、旬の生鮮品やこだわりの保存食、パン、ケーキ、お惣菜など、あれこれ手にとってみたくなるものばかり。数年前、普通のスーパーマーケットにうんざりした女性(母親)たちが立ち上げたというアントン&アントン。なるほど、食べ物好きには食べてみたいもの、興味をそそるものがたくさん! ツアー参加者には当日のみ割引の特典もありました。

アントン&アントン外観。

店内を案内してくれた陽気な女性スタッフ。

ツアーの試食はヴァニラビーンズたっぷりのいちご入りアイスクリーム(左)と、フィンランド産ブリーチーズのチェリージャムのせ(右)。

はやっぱり甘いもの。というわけで、チョコレート屋さんのチヨコ(Chjoko)が、ツアー最後の訪問店。フィンランドのチョコレートといえば、お土産としても有名なFAZER(ファツェル)の「Geisha」がまず頭に浮かびますが、最近では小さな自家製チョコレート店も増えつつあるようです。色とりどりのボンボンショコラはもちろん、タブレットや生ケーキ、アイスクリーム、カフェもあり、その場で楽しめます。終着点ということもありますが、ガイドのクリスさんも目をきらきらさせながらのハイテンションでおすすめをレクチャー。ええ、ここに入ったら誰だってじっとしているなんてできません!

チヨコの前の通り。アイスクリームの看板イラストがかわいい。

丸いタイプと型抜き、ダークとホワイトなどバランスよく並ぶチョコレート。

ボンボンのほか、タブレットタイプの試食も。

シンプルな北欧デザインの店内。アイスクリーム、ケーキは店内でも食べられる。

思い思いの買い物を済ませ、DIPLOMA(修了書)をいただき、Food Sighseeing Helsinkiはここで終了、解散。ヘルシンキの食を、伝統と今を織り混ぜながら、あらゆる角度から体感でき充実した一日となりました。次のお店へ歩きながら、カラオケ店人気のことや、大戦で被った建物の砲弾跡などの説明でフィンランドの歴史文化に触れられたことも◎。ウェブサイトの案内通り、ガイドブックには掲載されていない場所がほとんどで、ヘルシンキをフィンランド人角度から知ることができました。これだけ試食したにもかかわらず、試食で俄然興味が沸き、ディナーをピュア・ビストロの上のレストラン・ルオモでしてしまった私、ちょっと食べすぎですかね!?

旅の記念に訪問したお店にチェックを入れたDIPLOMAが貰えます。


ガイドは今のところ個人参加の場合、英語、フィンランド語、ロシア語のようですが、食の美味しさは言語の壁を超えて通じます。細かいことを気にしなければ片言でも十分楽しめますよ。


Food Sighseeing Helsinki(フード・サイトシーイング・ヘルシンキ)サイト (英語ページあり)
 http://www.foodsightseeing.com/








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