食。元気の沸いてくる言葉です。そして旅先でのお楽しみのひとつが朝食。国が変わるごとにパンや添え物も変化していくのが面白く、見たことのないアイテムを味見するときのわくわく感といったらありません。時に美味発見、稀に声をあげたくなるような体験、いずれにしてもそれがその地へのご挨拶となり、一日が有意義にスタートするのです。

地続きでたくさんの国があるヨーロッパ。朝食に出るパンが変わるのは当たり前ですが、それ以外の副菜やドリンク、食べ方も変わります。北欧(ここでは主にスウェーデンとフィンランド)ではどんなスタイルなのでしょうか? 今回は北欧の朝食ウオッチをしてみましょう。

まずはヘルシンキのデザインホテル、ヘルカ(Hotel Helka)の朝食を。
首都にある中規模ホテルなのでビュッフェの種類も豊富。パンは小さいものから大型まで、白いものからどっしりした黒い伝統パン、クリスピーブレッド、甘いブリオッシュ系(プッラ)、ケーキまで選ぶのに困ってしまうほど。フィンランドのパンの幅広さはこれを見れば一目で納得、制覇するには1泊では足りません! そしておかずコーナーにはハムやソーセージ、ベーコン、チーズのほか、北欧らしくニシンのマリネやカレリアンピーラッカが並びます。生野菜たっぷりなのも旅行者にとってはうれしいこと。ベリーのコンポートとヨーグルトもこの地ならではの味ですね。北欧デザインの食器でいただけば、気分はさらに盛り上がります。

ビュッフェのパン、これはほんの一部。この裏にも大型パンが数種、甘いパンも。

ニシンや魚系とそれに添えるソースもお好みでチョイス。

野菜の中でも、実はきゅうり、パプリカは北欧朝食には必須(だとわかってきます!)。

ビュッフェによくあるミックスフルーツの他に、ベリー系のみのミックスがあるのが北欧らしい。

お粥をライ麦生地で包んだカレリアンピーラッカ(カレヤランピーラッカ)は温かい状態をキープ。フィンランドでは、朝食としてもポピュラー。

Hotel Helka
http://www.helka.fi/en


ちろん都市のホテルには世界各国から宿泊客が集まるので、トースト用の食パンやバゲットなども用意されています。ヘルシンキのホテルリンナ(現在の名前はグロホテル・アート/GLO Hotel Art)にはミニクロワッサンもありました。その一方で北欧らしい食べ物〜お粥もシリアルもおしゃれに数種類並べられていたのが印象的。今日本ではグラノーラが人気を呼んでいますが、素材のオートミールをお粥にして食べる日本人はごく少ないのでは? お粥といえば、私も中華粥くらいしか好んでは食べませんし、年に一度、七草粥くらいしか作る機会もありません。ですから日々の朝食でお粥といってもはて何ぞや?と、一番わかりにくい存在でした。

ホテルリンナのビュッフェ朝食は、北欧スタイルとインターナショナルスタイル両方が混在。

シリアル、お粥のコーナー。手前はコンポート。右のブルーの小袋はインスタントお粥ではと推測。

GLO Hotel Art
http://glohotels.fi/en/hotels/glo-hotel-art


ーランド島の玄関口マリエハムンのホテルの朝食ビュッフェで謎の袋発見! フレバー紅茶、ココアと同じ場所にあったので、何かの飲み物だと思い、早速カップにあけお湯を注いでみました。袋にはわかるフィンランド語&スウェーデン語の単語〜ブルーベリーとりんごの文字があったのですがこれは・・・そうです。フルーツ入りのインスタントオートミール粥だったのです。甘くてどろっとした穀物の風味が、大多数の日本人にとって苦手という食べ物ではありますが、北欧の人にとっては、選択のひとつになければ悲しむ人がいるのでしょうね。

コーヒーはドリップでいれたものが用意され、紅茶はたくさんの種類のティーバッグを選ぶ。左手前はゴールドのデザインパッケージが有名なファッツェル社のココア、その右に置いてあった袋がインスタントブルーベリー&りんごのオートミール粥 〜Minuuttipuuro mustikka-omena。

インスタント粥にお湯を注ぎ混ぜ1分でできあがり。どろっとしてきます。甘いです。

朝食、新発見には当たりだってたくさんあります。

日本にはなくて、でもとっても親しみやすく、虜になってしまった飲み物がスウェーデンのフィールミョルク 〜Filmjolk。サワーミルクと呼ばれることもあるようですが、牛乳を発酵させて作られるものです。味はヨーグルトドリンクのような爽やかさと粘度で、こちらの人たちはそのまま飲むほかに、シリアルにフルーツなどと一緒に召し上がっていました。牛乳パックに似たデザインなので、最初注いだときは牛乳が酸っぱい!?と慌てたのですが、他の宿泊者に聞いて納得しました。乳製品好きにはおすすめです!

ゴットランド島のKlockgrand B&Bにて温かみのある雰囲気の朝食ビュッフェ。左上の白いボウルはカフェオレ用ではなくシリアル用(笑)! 右下のチューブ入りは、北欧名物たらこペースト。パンに絞っていただきます。 ‘ご飯にたらこ’の日本人には出会えてうれしい海の幸味。

ここの朝食ではまったスウェーデンのアーラ社製フィールミョルク。少しとろっとしたヨーグルトドリンクのような爽やかさとまろやかさがくせになる。これは無糖タイプでした。

夏はテラス席での朝食が最高。フィールミョルクはグラスの側面にとろんとつきます。

社経営のホテルではなく、個人宅に泊まるB&B(ベッド&ブレックファスト)の朝食はどんな感じでしょうか?
オーランド島の森の中にあるソリさんのB&Bでは、伝統的な朝食をいただきました。予約の際、彼女の返信メールには「自慢のお粥を盛り込んだ伝統的な朝食付」とありました。言葉だけではぴんとこない自慢のお粥。ビュッフェでは通り過ぎていたメニューが、目の前にフルサービスで登場しました。なるほど、彼女の説明でお粥の盛り付け方、食べ方がやっとわかりました。
さほど期待せずにひと口含むと、お米の甘さとコンポートの甘酸っぱさ、しゃきっと残るりんごの食感が起きたばかりの胃にやさしく染みこみます。同じ米食なのに、日本の朝食のご飯と味噌汁とは全然違う感覚。だけどじんわりやさしいおいしさです。火を通した穀物にビタミン、たんぱく質。きっと栄養のバランスはいいはず。昔はこうやって朝の活力をつけていたのでしょうね。

お米をやわらかくなるまでミルクでじっくり炊いたお粥。甘酸っぱいりんごのコンポートを具に、好みでお砂糖をかけたりミルクを追加したりして、温かいうちにいただきます。

別の日の朝食セッティング。パン、バター、チーズ、きゅうり、トマト。プラムのコンポートはこの後、お皿に盛りつけられたオートミール粥の具に。

ストックホルムのB&Bでは、セルフブレックファストといって、お部屋の冷蔵庫に用意された朝食を、好きな時間に自分でコーヒーなど入れ、いただくというものでした。簡易キッチン付のコテッジなので、こういうスタイルはありがたく、買ってきたお菓子を食べるのにも好都合。しかも、自分では買わないであろうスウェーデンの袋パン(スーパーなどで売られている)を食べるよい機会にもなりました。面白いことに、それらのパンは、最初からサンドイッチ目的であるかのように、スライスされているのです。となるとパンにバターを塗り、ハム、チーズ、きゅうり、パプリカをのせてセルフサンドイッチで食べよ、ということなのでしょう! やってみるとパンと具財、味の組み合わせやきれいに重ね盛ることに工夫をするのがこれまた楽しい。美味しい。聞けばこれがリンプマッカ (Limpmacka) と呼ばれるスウェーデン人の標準的な朝食の食べ方なのだそうです。

ストックホルムのB&Bのセルフブレックファスト。お部屋の冷蔵庫に前日、オーナーがハムやチーズ、レバーペースト、バターやヨーグルト、牛乳などを用意しておいてくれる。乾燥しないように袋と容器に準備されたパンは予めサンド用にスライスしてある。なんと合理的!
お皿にパンと具財を並べ、手巻き寿司ならぬセルフサンドイッチを。スーパーで確かめたところ、小さなパンでさえスライスされていました。フランスのバゲットと違って、北欧のパンはライ麦粉や糖分、乳、油脂が含まれるため案外固くなりにくいのです。

フィンランド・ヘルシンキ郊外、リータさんのB&B朝食のテーブルにもパンとそれにのせる具がたくさん。チーズは常に塊のまま、スライサーとともにテーブルに置かれます。このスライサー、実はノルウェーの発明品。北欧のホテル朝食ではもちろん、これがなければ北欧の家庭ではない、とでもいえるほどどこへ行っても使われていました。セミハードやハードタイプのチーズを、このスライサーで引くと、口当たりの丁度良い薄さにできる優れものです。その丁度良い薄さのチーズを、バターを塗ったパンにのせ野菜を添えれば、ナイフ&フォークでいただくオープンサンドのできあがり。しっかりシリアル感のある北欧のパンは、ステーキのようなこの食べ方がぴったり。森で摘んだベリー類のヨーグルトスムージーを飲めば朝のビタミン補給も完璧です

フィンランドの朝食。フライパンには玉子焼きが。ご夫婦お二人の普段の朝食はこれよりもう少しシンプルだそう。

ご夫妻が作るのを見よう見まねで作ったセルフオープンサンド。噛み応えのあるしっかりしたライ麦パンにバター、サラダ菜、パプリカ、きゅうり、ハム、チーズを重ねて。

旬のときにはフレッシュを。それ以外の時期は冷凍ストックしたベリーをふんだんに使ったヨーグルトスムージーでビタミンたっぷり、元気な朝をスタート。

うしてみると、北欧の朝食はとってもバランスがよい食事に思えてなりません。そういえばB&Bのオーナーたちは、一日の中で朝食が一番大切だと言っていました。多種の具を揃えるところなど、日本の昔ながらの朝食に通じるものがありますね。
しかし、知り合いに聞いてひとつ気付いたことがあります。フランスやイタリア他の西ヨーロッパ諸国では定番の、ジャムやはちみつが朝食のテーブルに見当たりません! もちろんグローバルスタンダードを要求されるホテルにはありましたが、4軒中3軒のB&Bでは一度も出てきませんでした。その代わり真冬だろうが赤パプリカときゅうりは用意されているという・・・。そこでお世話になった現地の方々に聞いてみました。するとみな口を揃えたような返事がきました。

「北欧(スウェーデン、フィンランド)では朝食のパンにジャムは塗りません。いたとしても少数派だし、塗るとしたら白パンのトーストです。普段のパン(ライ麦やグラハム系など)にジャムの組み合わせで食べることはまずしません」。

朝食のテーブルには、ハム、サーモン、チーズ、たらこペースト、野菜、フルーツはあってもジャムはない。

ドイツなどではライ麦パンにクリームチーズとベリーのジャムが定番なのに、どこの国(エリア)から風習が分かれるのか興味のあるところ。

どうやら北欧の人は、ジャムやはちみつはパンケーキやお菓子、お肉のソースに食すようです。
なんだか「秘密のケンミンSHOW」を見ているようですね。







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