ルト海に浮かぶスウェーデンのゴットランド島。2回目はスイーツから一旦離れ、島の美味しい味を紹介します。前回のサフランパンケーキは、スパイスやお米などの交易品を巧みに盛り込んだ名物ですが、決して食材が乏しいわけではありません。逆に温暖な気候と平坦で肥沃な大地には、滋味あふれる農産物が実ります。そしてそれらは島のみならずスウェーデン本土へと運ばれ、人々の舌をうならせているのです。

前回に続き、まずはゴットランド島の雰囲気を写真でイメージしてみましょう。島といっても東西南北に違った表情を見せます。西海岸にあるヴィズビーを離れ北へおよそ50km、車ごと乗れる渡し船で7、8分、フォーロ(Färo)という離れ島に、奇岩の絶景があるというので行ってみました。

これは帰路、フォーロ側から。道は渡し船によってヴィズビーへと続く。

船というより海上を動く道路のよう。群島には橋をかけるのではなく、このような船の道が今でもある。

フォーロや島北部には、藁葺き屋根の農家建物や風車小屋がところどころ残っている。


ほぼ予備知識なし、あてのないドライブ。それでも視界に入るものが全て新鮮、絶景です。自然と人との暮らしがどんな風にされてきたのか、藁葺き屋根の農家や風車、漁師小屋を見るにつけ、想像力をかきたてられます。

フォーロの奇岩群のひとつ。夕暮れどきは幻想的。ここはちょっとかわいらしいですが・・・。

岩場に咲く可憐な草花。

フォーロの海岸に突如現れる漁師小屋群。18世紀から19世紀初頭に建てられたもので、春と秋の漁業シーズンのために、ボートや道具入れとして使われた。トロール船と埋め立て漁港にとってかわった今でも、人が出てきそうな風情がある。


ットランド島はほぼ平地。そのため様々な農作物が栽培されています。代表はにんじん、ビーツなどの根菜類とアスパラガス、それから小麦やスペルト麦、菜種など。そして忘れてならないのが羊。ゴットランド島は羊の島といわれるほど重要な家畜で、食用にも羊毛用にもなります。宿に掛けてあった絵や、ヴィズビーの城門や港の羊ちゃん像など、町にいながらにして、その存在を感じ取ることができました。広場では、島の子羊肉や加工品を売る出店を見かけましたよ。


島南部の風景。地平線を感じる。両側は畑で、菜種らしき黄色い花が美しい。

宿の朝食ルームの額には羊のいるゴットランドが描かれていた。

ヴィズビーの城門前に鎮座する羊像。この羊像は港でも見られる。

島で飼育された子羊肉と加工品。


さあ、この豊富な島の恵み、食べない手はありません! それでは伝統料理から、有名シェフによる美しい品まで、いくつかのレストランでいただいたゴットランドの美味を紹介しましょう。

まず、ヴィズビー旧市街の中心にあるGamla mastersで選んだのは、島の白アスパラガスに緑アスパラガスのバターをのせ、スウェーデン産生ハムを敷いたもの。しゃきっとした食感に茹でられた白アスパラガスは、緑アスパラガスバターと一緒に口にすると、アスパラガスのほわっとした香りが引き立ち、ドイツ、プファルツ地方のリースリングとともに味わうと、絶妙なマリアージュが楽しめます。そして、パンに添えられたリーキとハーブ入りのホイップバターを塗る手が止まらなくなります。スウェーデンでは、パンと一緒にこのようなアレンジバターやペーストが付いてくることが多く、はじめての味への探究心から、なおさら手の動きを繰り返してしまうのです。

Gamla mastersで選んだ料理。

広場の前、絶好のロケーションにあるBakfickanはシーフード中心のレストラン。ここではお店自慢の魚のスープ、アイオリ添えを注文。鱈、野菜がごろごろ入ったトマトとヴィネガー風味の美味しいスープですが、南仏のブイヤーベースにつきもののアイオリが、北欧スタイルになるとサワークリームのように色白クリーミーで、ずいぶん印象が違うものだと思いました。お店ロゴ入り茶袋に入ったパン、粗塩をトッピングしたバターに木製ナイフなど、ディテールの遊び心にも、つい顔がほころびます。

Bakfickanの魚のスープ。

Bakfickan店内。ビールは地元ゴットランドブルワリーの夏限定Sleepy Bulldog Summer Pale Ale(右)をチョイス。ビター感がありながらエルダーフラワーの白い花香が心地よい。

そして、1994年開業のDonners Brunnでは、ゴットランド島の子羊料理を堪能。あっさりしたもも肉のロースト、ラムソーセージを、クミン、チリ、ミント、ガーリック、赤ワインなどのソースでいただきます。ちょっぴりメキシカンっぽいスパイシーテイストが、海辺の夏夜の気だるさに刺激を与えてくれるのです。サーヴィスの方が選んだ赤ワインは、パンデピスのようなミックススパイスと甘い香りが特徴の南アフリカのシラーズ2010年。クネッケパンに添えられていたトマト風味のクリームチーズのペーストもいいアクセントになっていました。

Donners Brunnの子羊料理。

◆Gamla masters
http://gamlamasters.se/

◆Bakfickan
http://www.bakfickan-visby.nu/

◆Donners Brunn
http://www.donnersbrunn.se/


う一軒、スウェーデンのホワイトガイドにおいて評価の高かったヴィズビーのレストラン、50 KVADRATのお料理を紹介します。店名は2005年にわずか50m2のお店からスタートしたことからつけられました。地元の素材を信頼おける生産者から仕入れ、世界的な要素を取り入れた現代スウェーデン料理は徐々に注目され、お店も拡張、白い石と木のテーブルコーディネートが心地よい空間でしたが、残念ながら今年の4月にお店を売却、閉めてしまったようです。お店最後の夏にいただくことができて、ラッキーだったのかもしれません。

LÖJRÖMKalixlöjrom med broccoli, blomkål, Gotlands ägg & brynt smör ブロッコリー、カリフラワー、ゴットランド島の卵&ロイロム(魚卵)、焦がしバター。器使いがユニーク。色鮮やかな野菜と魚卵のハーモニー。

クネッケは必ず入るパンの盛り合わせ。どのお店もパンの見せ方がおしゃれ。

KANTARELLSmörstekta kantareller med bogrulle & Västerbottensost あんず茸のソテー、ドライビーフ、ヴェステルボッテンチーズ。夏のきのこ、あんず茸を満喫。

LAMMGotländskt lamm med kronärtskocka, oliver, tomat & ruccola 島の子羊をアーティチョークとそのピュレ、にんにく、ドライトマト、オリーブ、ルッコラとともに。ローストとともにソーセージを盛り合わせるのは、こちらの定番なのでしょうか? このソーセージ、クミンなどのスパイスがきいてメルゲーズのような美味しさ。

LAKRITSRödbeta, lakrits & färskostsorbet ビーツのムース、リコリスキャラメルソース、フレッシュチーズシャーベット。ビーツの赤紫色が鮮やか。キャラメルっぽいリコリスソースがアクセントになり意外な美味しさ。


ットランド島では牛もたくさん飼育されています。スーパーにはその島牛ミルクから作られたチーズが数種類陳列されています。日本と違いスウェーデンでは、売り場によっては今も対面販売。私がチーズをじろじろ見ていると、女性スタッフが声をかけてきました。「興味あるチーズを味見してみますか?」 その一言に甘え、ほぼ一通りの島チーズを試食することに! それらはフランスほど個性のある見かけと味ではないものの、ミルキーな甘さと程よいコクがありました。変わったところでは、島産のビートラム酒で風味をつけたもの。これは香り高くとろけ、お酒好きにはもってこい。細かい穴のあいたマイルドそうなチーズに見える黒い点々は・・・? 何とゴットランド島では黒トリュフが採れるのです。秋にはトリュフ料理のメニューを掲げるレストランもあるそうですよ。せっかくなので、トリュフ入りのチーズを少しだけカットしてもらい、買って帰りました。ゴットランド島のトリュフなんて、ここに来なければ食べられないでしょうから。

スーパーのチーズ売り場で島産チーズを扱う一角。一部を除いて試食でき、カット売りもしてくれる。

トリュフ入り島チーズは1kgあたり365クローネ(2013年7月)。道中食べるように買った一切れは18.25クローネ。大体320円くらいでしょうか。日本はチーズが高いので、この値段でもうらやましい。


いかがでしたか。この島に行くまで、これほど土地のものが豊かとは思いもよらなかったので、もう一日長くほしかったです。次回はこの島に魅了された、物づくりと人を紹介します。お楽しみに。







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