ウェーデン人にとっての憧れの島、ゴットランド。夏の夜、ヴィズビー港前の広場で、白とピンクのリムジンを見かけました。雰囲気からしてウエディングっぽいですね。また別の通りではクラシックなオープンカーを見かけました。島の住民の車でしょうか?

町に明かり灯る頃、ヴィズビー港前に堂々と停車する二台のリムジン。

こんなクラシックカーが停まっていても違和感がないヴィズビーの街。

街中でゴットランド島の自然石や化石を使ってアクセサリーや調度品を作る素敵なクラフト店を見つけました。「30分も海岸を歩けば、あなたもアンモナイト1つくらいは見つけられるかも」とお店の女性。ちょっとだけ歩いて探したけれど、収穫はゼロ。でも、ヴィズビーの海岸で見た石の美しさは忘れられません。

ヴィズビーの海岸。波に打たれ美しい色や模様を見せる石。

宿のサロンにさりげなく飾られた石ころ。化石入りも!?



んな風に人を魅了するゴットランド島には、多くのアーティストが移り住んでいるといいます。チョコレート職人Maria Wande(マリア・ワンド)さんもそのひとり。この島南部のFardhemという村の廃校になった建物を買い、2010年、それまでの安定した仕事と生活に区切りをつけ、スウェーデン本土のウプサラから家族と移住。チョコレート工房&ショップをオープンしたそうです。

観光局で手にいれた地図を頼りにFardhemにたどり着くも、商店らしきものは何もなく・・・。しかし、元学校ということで、それらしき建物と看板はすぐに見つかりました。校庭もそのまま、クリームイエローの壁がかわいらしい校舎がフォードヘム・ホクラード Fardhem Chokladです。

校門のところに手づくりの看板。Oppetはオープンのこと。

学校だった建物も、今はチョコレート工房&ブティックに。

カカオボットの置物。


右側にぐるっとまわり、階段を下った半地下がブティック。チョコレートのためには、温度変化が少ない部屋を選んだのでしょうか。清潔感あるタイル張りの壁に、チョコレートの棚、雑誌での紹介記事など、小さいながらぬくもりある雰囲気の中、Mariaさんのご主人がいろいろ説明してくださいました。

棚にはタブレットや、ドリンキングチョコレート、袋詰めボンボンが並んでいる。

ご主人が接客担当。

この日は7種類のボンボンが。季節によって種類も入れ替わる。秋になれば、サフランパンケーキに添えるSalmbär(野生のベリーの一種)フィリングのボンボンも作るそう。


Mariaさんは、できる限りオーガニックな材料を使って、スウェーデンやゴットランド島らしい味をテーマにしたボンボンを作っています。例えばサフランで風味付けしたマジパンを詰めたハートのダークチョコレートは、ゴットランド島に来て最初に創作した一品。前々回紹介したサフランパンケーキが島の名物であるように、サフランはゴットランド島を象徴するテイストなのでしょうね。食べてみると、アーモンドの濃厚な味わいに、サフランの香りが後ろからふっとやってきます。余韻も長く、チョコレートのビター感で全体がしまります。

紹介された雑誌記事とブラジルAMMAのチョコレート栞が壁に。

仕事の合間に出てきてくれたMariaさんとご主人。

形から想像がつくコーヒーカップのボンボンは、ひと口齧ってびっくり。口の中にカルダモンが花開きます。けれどフィニッシュはあくまでチョコレート。スウェーデン人の好きなカルダモンロールとコーヒーのFIKAを楽しんだ気分です。 ゴットランド島で収穫されたビート(砂糖大根)で、蒸留したビートラム酒 Träkumla Romを使ったガナッシュ入りボンボンは、すっきりした甘さ。サトウキビから作るラム酒とは、ひと味違った風味です。

使っているチョコレートについて尋ねると、ボンボンはカレボー(ベルギー)、タブレットにはアンマ(ブラジル)、フェルクリン(スイス)など。フランスものがない理由を聞くと、新しいことに挑戦するのが好きなので、あえてフランスは選ばなかったとの答え。わかったようなわからないような理由ですが、クルミと杏をあしらった75%ブラジル産カカオのタブレットチョコレートからは、新進気鋭のアンマ社を選んだことも含め、チャレンジ精神溢れる強さが感じられました。

この小さなチョコレートショップの一部の品は、ヴィズビーの取り扱い店でも買うことができます。(詳細はサイトから問い合わせてみてください)

ゴットランド島産ビートラム入りガナッシュのボンボンと、くるみとドライアプリコットをのせた75%タブレット(右)。

選んだボンボン5種。右上のハートが、サフランマジパン入りのスペシャリテ。時計まわりにヴァニラ、リコリスキャラメル、ラズベリー、カルダモンコーヒー。

ひと口齧ると鮮やかなサフラン色のマジパンがあらわれる!

Fardhem Choklad
http://www.fardhemchoklad.se/


の島で新しいことに挑戦する移住者をもうひとり。Lauri Pappinen (ラウリ・パピネン)さんは、10数年前にワインを造るためにゴットランド島にやってきました。

少し前まで、ワインぶどう栽培の北限は、ドイツあたりだと思っていましたが、地球温暖化の影響か、今やイギリス南部でもワイン造りが盛んになってきています。そしてそれらは日本にも輸入されているほどです。しかしまさかイギリスよりさらに北のスウェーデンで、本当にワイン用ぶどうを栽培し醸造しているとは、この目で見るまでは信じられませんでした。

島の南西部に位置するHablingboに、ゴットランド島のワイナリー、gute vingard (ギューテ・ヴィンゴード)はあります。併設されたカフェレストランとブティックには、ドレッシングやオイル、ヴィネガーやジャムなど、同社の手がける食品がずらりと並んでいました。しかし、何度見回しても肝心のワインがありません。隣のレストランでは飲めるようですが・・・。右往左往していると、一人の男性が声をかけてきました。

「ワインを買いたいのですが」(私)
「残念ですがここではワインは売ることができないのですよ。町にあるシステムボラゲット Systembolagetで買ってください」

あっ、そうでした! スウェーデンでは飲酒にまつわる負の歴史から、アルコール分3.5%以上の飲料は、国の専売となっており、個人は各地にあるシステムボラゲットでしか買うことができないのです。日本でもフランスでも、ワイナリーを訪ね生産者直で買うのはごく普通の行為なのに、スウェーデンではそれができない・・・自分の勘違いに肩を落としていると、彼はグラスをテーブルに並べ、ワインを注ぎはじめました。 「さあ、香りだけでも試してみてください」

gute vingard ワイナリーのレストランではゴットランド育ちのワインやスピリッツが楽しめる。

オーナーのLauri Pappinenさん

白、ロゼ、赤、デザート(甘口)の4種類のゴットランドワイン。

レストラン用に並んだワイン。国の規制のためワイナリーなのにワインが買えない。

白は、薄いグリーンで火打ち石、りんごや洋梨のような香り。
オレンジがかったロゼからは、ネクタリン、プラム、桃、チェリー、いちごのような香りが展開。
紫がかったダークな赤は、野菜っぽい青さも感じ、なんだかちょっと前の日本のワインを思わせ懐かしい。
イエローのデザートワインはキャラメルやヴァニラ、トーストの香り。
これら4種類のゴットランドワインからは、か細いながら、北の大地の短い夏の力を感じました。

「品種は何ですか?」と聞くと、白ぶどうが、Solaris、黒ぶどうがRondoで、いずれもドイツ系の寒さに強い品種だそう。

「10数kmほど南にうちのぶどう畑があるので、行ってみるといいですよ」

丁寧に案内してくれたこの男性こそ、gute vingardの創始者 Lauri Pappinenさんだったのです。

「ゴットランド島は、特に南西部はスウェーデン本土より温暖。それに夏の日照時間が長い。だからぶどうの栽培が可能なのではないかと考え、ワイン造りに挑戦しました」

海を臨む地に、ワインぶどうの畑は広がっていました。か弱いけれど懸命にのびる木には花が咲き、早いものは小さな実をつけていました。収穫は10月中旬。誰もいない、風の音しかしない砂利の畑を歩きながら熟す光景を目に浮かべたのでした。

その後ヴィズビーのシステムボラゲットで、gute vingard ロゼを手に入れ日本まで大切に持ち帰りました。

海に面したワイン畑。このあたりは風力発電も盛ん。

ぶどうの花。7月中旬に開花とは山梨のメルロに比べて1ヶ月以上遅い。それだけ春が遅いということか。

こちらは結実したところ。

ワインぶどう畑に咲く野生の花々。


gute vingard AB
http://gutevingard.se/om-oss/english-information/


島に魅了された人々が挑戦することによって新たな魅力を生む。そうやってゴットランド島は永遠に人々を惹きつけることでしょう。

蛇足ながら、宿の朝食に出たGOTLANDS-LIMPAという島名のパンが美味しくて、抱えて帰りたいくらいでした。ライ麦、小麦粉、シロップ、サワー種、ビターオレンジ、スパイスで仕込んだほんのり甘い伝統的なパンとのこと。このパンの秘密を探りに、またいつか海を渡ることができたらと、夢を膨らませています。

ヴィズビーのパン屋さんにて、棚に並ぶ食事パンの数々。
GOTLANDS-LIMPAは上段の真ん中に。







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