ルシンキから西へ列車で2時間のトゥルクはフィンランド最古の都市。主要なハンザ同盟都市であり、スウェーデン統治時代の首都として、古くから城や教会が建てられていました。今でも、スウェーデンとフィンランドを結ぶフェリーの発着地であり、スウェーデン文化の影響を残す落ち着いた雰囲気も感じられる町です。スウェーデン語名は、Abo(オーボ)で、標識にふたつの表記を見ることができます。余談ですが Turkuの綴りからガイドブックの日本語表記はトゥルク。ですが現地の発音を聞くとトルコォーと聞こえました。日本人からすればあの国の名前と勘違いしてしまいそうですね。

1300年に建てられたトゥルク大聖堂は、フィンランドで最も由緒ある教会。そして町のシンボル。


そんな古都トゥルクの名物、郷土料理やお菓子は何かな? 歴史のある町、外部と行き来のあったところなら何かがあるはずと、ホテルや観光局の人に聞いてみたのですが、返ってくる答えはみな「特になし」。

「うそでしょ!?」
これには拍子抜けです。
その代り観光局では面白い企画を見つけました。それが「FOOD WALK(フードウォーク)」という、食べ歩きスタンプラリーみたいなチケットです。トゥルクの町の個性ある提携レストランやカフェ5店で、それぞれ決まった一品が食べられるので観光客にはぴったり。店選びの煩わしさもなく、43ユーロという料金も手ごろ(2014年の料金です)。内容もよさそうなので利用することにしました。今回は、この「FOOD WALK」体験を紹介しましょう。

「FOOD WALK」のパンフレット(後ろ)と実際使用したチケット。お店のリストと食べられる品、地図、最初の店で使い始めてから3日以内が期限など、条件が掲載されている。


最初に訪れたのはCAFÉ ART。トゥルクの中心を流れるアウラ川沿いにあり、夏は川沿いにテラス席もあってとってもよい雰囲気。パンフレットにはフィンランドのバリスタチャンピオンに5回も輝いた腕のあるカフェで、コーヒーとホームメイドのスイーツをとあります。早速店内のショーケースを見てみると、あたたかみのあるケーキや菓子パンがずらり。ひっきりなしに入ってくるお客さんをよそに、例によって数分悩みましたが、スタッフの一押し、ブルーベリーチーズケーキをチョイス。カフェラテとともに川沿いテラスで頂くことに。
女性バリスタの入れてくれるカフェラテは、酸みがおだやかで想像よりあっさり。かといって薄くは感じずきな粉のような香ばしさもありました。昔から一人当たりのコーヒー消費量が世界トップ級のフィンランドでは、カフェは大事な食文化のひとつ。最近では量だけでなく、豆のクオリティも淹れ方もレベルがあがってきているのですね。
旬のブルーベリーをふんだんに焼きこんだチーズケーキも口当たり軽くあっさり。タルト台にフィリングを流し込んで焼いてあるから日本人にはお馴染みテイストかも。ああ、それにしてもブルーベリーがこれでもかと入っているのがうらやましい!

CAFE ART: http://www.cafeart.fi/index.html

CAFÉ ARTのテラス席は、アウラ川のほとり、気持ちの良い並木道を渡ったところにある。

かわいいやかんデザインの看板。フィンランドでは昔、やかんに直接粉を入れてコーヒーをわかしていた名残からか、カフェのモチーフにされることが多い。

ショーケースに並んだスイーツたち。ブルーベリーチーズケーキ、キャロットケーキ、チョコレートケーキ…日本のカフェのケーキにも通じる手作り感がいい。

彼女もバリスタチャンピオンなのかは聞かなかったが、とても手際よく丁寧にいれてくれた。

ラテアートもこの通り。

FOOD WALKのメニュー(Coffee and a slice of cake)をテラス席で。



ウラ川に沿った道も港方向へ進むと周辺の雰囲気が変わります。何艘かのボートが河岸に停泊していたり、眺めの良い橋には恋の成就を願う南京鍵がかけられていて(パリ・セーヌ河のポンデザールみたい!)ほほえましい。散策するにはちょうどいいコースなのでしょう。ボートのいくつかは、レストランになっています。その中にFOOD WALKのレストランSVARTE RUDOLFがありました。
ここでいただけるメニューは、SVARTE RUDOLF's warm chicken sandwich with Aura Blue cheese sauce 〜温かい鶏肉のサンドイッチ、アウラブルーチーズのソース。サンドイッチと言っても、出てきたのはローズマリー風味のフォカッチャに、このあたり特産のブルーチーズソースがかかった鶏肉のオープンサンドで、野菜とフルーツたっぷりのサラダが添えられたワンプレート。これに別料金でりんごのサイダー(シードル同様のアルコール)を注文。空いているようなので見晴らしのよい川側席を希望したのですが、FOOD WALK用の席は河岸側だと断られました。日の長い7月末、ボートレストランでの夕食は風も心地よく、河岸側でも十分楽しむことができました。

SVARTE RUDOLF: http://www.svarterudolf.fi/index.html

アウラ川にかかる橋の南京錠はデザインもメッセージもいろいろで観察すると面白い。一体この南京錠はどこで買うのだろう…?

アウラ川にはレストランとして営業するボートも多い。

SVARTE RUDOLFのFOOD WALKのメニュー。周囲はやっぱりカップル客。


夕食後のデザートは、アウラ川沿いを再び上流に向かって歩きPINELLAへ。ここはフィンランドで最も古いレストランのひとつで、いにしえの空気感を引き継ぎながらも、時代にあったテイストでもてなす上質なお店です。中と外、どちらでもOKと言われましたが、やっぱりここはぼんやり川を眺められるテラス席へ。FOOD WALKメニュー Pinella's delicious dessert of the dayで出てきたのは、フィンランドの夏らしいベリー尽くしのお皿〜ブルーベリームースとラズベリーソルベ、ヴァニラクリームとクランブル、ベリーのソース。なめらかで果実感あるソルベと細かいクランブルのカリカリが美味しい。歴史的なお店で、旅の一日を締めくくるスイーツがいただけるのは幸せですね!

PINELLA: http://pinella.fi/en/

PINELLAの外観。CAFÉ ARTの対岸、トゥルク大聖堂の目と鼻の先に位置する。

Pinella's delicious dessert of the dayはベリー尽くし。



の日ランチに向かったのはGRILL IT! MARINA。ラディソン・ブルーマリナパレスホテルRadisson Blu Marina Palace Hotelの一階に入っている都会的なレストラン。ここも御多分にもれずアウラ川沿いでテラス席もありです。日差しが気になる暑さだったのですが、テラス席の魅力には勝てません。パラソルを調整してもらい席に着くやとりあえずビールならぬ、サイダー酒を別注文しました。私はワイン党なのですが、緯度の高いフィンランドではぶどうのワインなど作っていません。でもリンゴや洋梨で作るサイダーの生産はポピュラーなようで、どこのお店にもありました。どうせならフィンランド産ドリンクをいただきたい。だからサイダーなわけです。面白いことに、サイダーのゴブレットには氷がゴロゴロ! そういえばボートレストランSVARTE RUDOLFでも氷入りでした。ドリンクに氷を入れる感覚は日本人にはうれしい。冷たくてのど越しいいったらありません。
肝心のメニューはPulled Pork Burger 〜裂き豚肉のバーガーのはずですが、出てきたバーガーは写真の通り豚のグリル。それでも店の売りが炭火焼きグリルだから、味に文句はなし。ゴマ付きバンズはふわっとしていながらひきはさほどなく、にんにくソースやお野菜、柔らかいお肉とのバランスもばっちりでした。ちなみにPulled Pork とはアメリカ南部のBBQの代表的メニューのようです。塊肉を低温のBBQスモーカーでゆっくり5時間以上かけて調理し、それをほぐした物とのこと。

GRILL IT! MARINA: http://www.raflaamo.fi/en/turku/grill-it-marina-turku

GRILL IT! MARINAではPulled Pork Burgerのはずですが‥!? 裂く前のポークでしょうか? フィンランドでは氷入りサイダーがすっかりお気に入り。


最後に訪ねたのはレストランSmör。一軒目CAFÉ ARTの並びにある、歴史地区の建物地下に入ったおしゃれなレストランです。ここも川沿いテラス席ありと、結局「FOOD WALK」すべてがアウラ川沿いのお店とは、観光客にはわかりやすくうれしすぎる配慮ですね。ここでのメニューは Smör's starter of the day contains seasonal ingredients from local producers 〜地元生産者からの季節食材を取り入れたSMOR本日のスターター。本当なら、「FOOD WALK」15%割引特典でメインを別オーダーして食べたいところですが、この日も食べ続けてきたので、クロスのないテラス席でワインを一杯いただくに留めました。
本日のスターターとして供されたのは、ほうれん草のワッフル、ウズラの卵、生ハム、野菜添え。北欧のワッフルはハート5つでクローバーを描くような鋳型で焼くのでかわいい。ほうれん草の緑色が鮮やかで元気がでます。一緒に出されたパン(フォカッチャとサーリストライスレイパ)がフィンランドらしく、これで十分な夕食となりました。

Smör: http://www.smor.fi/en/

歴史ある建物に現代風の看板がスマート。Smör とはスウェーデン語でバターのこと。

フォカッチャとサーリストライスレイパ。黒パン主流のフィンランドでも口当たりの軽いフォカッチャは人気のよう。

Smör's starter of the day contains seasonal ingredients from local producersは、ほうれん草のワッフル。別注文のワインはクレマンダルザス。


Smörを川と反対側から出てみると、目の前にトゥルク市立図書館がそびえていました。そのたたずまいに吸い寄せられ、扉を開き、中に入ってみた途端、大きなため息が出ました。何とも言えない解放感、生き生きした北欧デザインの調度品、仕掛けの数々…図書館は、単なる読書や勉強する場というより、何かをやりたくなる空気で満ち溢れていました。聞けばここはフィンランド国内でも、有数の規模と機能を誇る図書館とのこと。言葉さえわかれば、フード系のコーナーに行ってもっと刺激を受けてみたかった!

5つのお店を訪ね「FOOD WALK」をコンプリートし感じたこと〜伝統も外からきたものも良いものは柔軟に取り入れていく、それがトゥルク。特に名物がないことが名物のトゥルク! なんていったら怒られるでしょうか!?



トゥルク観光局サイト フードウォーク(英語)
 http://www.visitturku.fi/en/turku-food-walk_en






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