ウェーデン南部のお菓子旅、今回はマルメ Malmöのチョコレートについての話です。

マルメの美味しいものを探しているときに、この町にはチョコレート博物館があることを知りました。

これまでの旅先でも…フランスのビアリッツとストラスブール、ベルギーのブリュッセルとブルージュ、スペインのバルセロナとアストルガ、ドイツのケルン、スイス…そこにチョコレート博物館があると知れば、必ず向かっていました。それが目的でもありました。


だからマルメでも博物館を見ないわけにはいかない! そう意気込んで来たものの、この小さなチョコレート店に併設された博物館への入館は、そう簡単ではありませんでした。なぜなら入館は一日に1〜2回しかない、決まった時間のガイドツアーのみだったからです(このシステムはヨーロッパでは珍しいことではありませんが、滞在時間が限られる旅行者にはちょっと不便ですね)。

私が訪ねた土曜日は11時と13時がその時刻。11時のツアー参加を目指し急いで向かったのですが、到着したのは11時5分過ぎ。受付のスタッフに何とか入れないかお願いしたものの、すでに見学ツアーは始まっており、途中入館は受け付けられない、次の回にと固く断られたのです。



マルメのチョコレート博物館。外見にも歴史を感じる建物。


仕方なく13時までの2時間弱を、街歩きに当てました。今度こそ5分前には受付しないと後がありません。

すぐ近くに市場の賑わいが見えたので向かいました。赤白と緑白ストライプのテントが張られた野外の露店には、季節の野菜や果物、ハーブ、花、生活雑貨などが並びます。その中でもスウェーデン夏の風物詩が国産苺。寒くて果物があまり育たず、ほとんどが輸入ものという国において、国産の苺は夏のとっておきなのだとか。ハートのデザインの箱にたっぷり入った苺は中まで赤く甘酸っぱさにきゅんとします。

博物館の目と鼻の先にある広場で開催されていた市場。

スウェーデン産の苺。パッケージデザインのハートも苺でしょうか?


それからフレッシュハーブのディル。日本では葉の部分しか売っていませんが、北欧では花茎も売り物。キュウリと並んでいるところを見るとピクルス作りにいかがと提案しているのでしょうね。ザリガニを茹でるときにも欠かせません。

きゅうりとディルの花茎。

ハーブ類も山積み、そして袋にどっさり入れて買います。

緑のラグビーボールのようなものはマンゴーでした。こちらでは、アジア産のものよりエジプト産がポピュラーなようです。皮が緑でも中は立派にオレンジイエロー。日本で食べるものよりあっさりしていました。

マンゴーはエジプト産のグリーン皮のものをよく見かけました。

ところ変われば流通も変わる。同じ食材でも使い方にお国柄あり。これだから市場の探検は飽きません。


うこうしているうちに時間は経過。チョコレート博物館に戻りました。すると事態はまた変わっていました。スウェーデン人グループの予約が入り、英語ガイドができないので一緒に入館したら後はフリーで見て欲しいとのこと。一度に二か国語のガイドは出来ないようです。とほほ…。それでも入れないよりまし。同じく外国人で英語希望者二人組と一緒に入館しました。

古い建物の階段を上り2階へ。ガイドが扉の鍵を開けると、そこにはマルメのチョコレートにまつわるヴィンテージコレクションや写真などが展示されていました。仕切りのないワンフロア、広めのマンション1区画分くらいでしょうか。今まで見てきたチョコレート博物館の中では一番規模が小さい、けれど展示品はとてもマニアックで、スウェーデンのチョコレートについての予備知識がないと、展示されたパッケージやブランドの変遷などがわかりません。これはガイドの説明がないのは辛い。実際スウェーデン人グループに向けたガイドの、熱のこもった説明のひとつひとつの長いこと! あのラベルには一体どんなエピソードがあるのだろう。唯一見覚えのあるパッケージデザインを前に、壁に併記されたわずかな英語の説明書きを読み、展示品をじーっと眺めているしかないなんて…。

その見覚えのあるデザインが「アイズココア」。両目をデザインしたファッツェル社のココアは、今でもスーパーの棚の中で目立つ存在。私はホテルの朝食ビュッフェでこのココアを知りました。

パッケージコレクションの数々の中に歴代のココアの目が…。

ホテルの朝食ビュッフェで飲んだアイズココア小分けパッケージ。


2つの正方形で囲まれたパッチリお目目に眉毛、思わず見つめあってしまいそうなデザインは、ひと目で頭に刻まれました。これぞ優秀なデザインということなのでしょう。作者はスウェーデン人デザイナーのオーレ・エクセル。デザインに詳しい人ならご存知でしょう。彼の代表作ともいえるアイズココア(日本ではココアアイズで通っているようですが、博物館の展示ではEYES COCOAでした)の誕生とマゼッティ社の変遷が、展示の一つの目玉となっていました。

例えばスイスのリンツとかなら昔から輸入チョコレートとして日本人にも馴染みがありますが、いきなりマゼッティ社とかファッツェル社のあれこれを見せられてもちんぷんかんぷん。それでも落ち着いて読むと、この博物館の場所が、かつてのマゼッティ社のチョコレート工場だったことがわかりました。マゼッティ社とアイズココアについてざっと説明するとこんな感じです。


ドイツ生まれでデンマーク育ちの実業家Emil Nissenはマルメにチョコレート菓子メーカーを1888年に創業。その後、社名をイタリア語で「小さな花束」という意味からMazetti(マゼッティ)に改名。1904年にストックホルムで起きたココアパウダーのクレーム解決がきっかけで、包装されたココアに「あなた自身の目で確かめてください」と、風刺画風に描かれた目の説明をプリントし売り出しました。すると品質保証を意味する目のココアはスウェーデン史上初の大ヒット商品に。これが目のロゴマークのはじまりです。その後何度か目のデザインは変更されますが、1956年にそれまでのデザインを一新するためのコンペが行われ、優勝したのが今のアイズココア、オーレ・エクセルの作品だったのです。普遍的でモダンな彼のロゴデザインは以来ココアだけでなく他の商品〜ヴァニラシュガー、ベーキングパウダーや、社のレターヘッド、名刺、社用車などにも使われました。 そして1975年にフィンランドのファッツェル社に買収された後も、ココアのパッケージにオーレ・エクセルのアイズココアは受け継がれていったのです。

60年前に生まれたロゴが、今見ても新鮮なのはすごいこと。てっきりフィンランドのものと思っていたココアにこんな歴史があったなんて…それを知ることができたのもデザインのおかげでしょう。

ピンクとお茶目な唇のパッケージPOMPOMはダーク、ミルク、ナッツチョコレートバーだったそう。


さらに展示はマゼッティ社の歴史と今にいたるまでに触れています。同社は多い時で1500種類もの商品を展開したとか、カカオの調達が困難になった戦時中は様々な工夫をしてミルクパウダーの多いチョコレートを作ったとか、戦後は企業買収で大きくなったとか、エピソードは多数。残念ながらファッツェルに売却された後は、マルメの工場も1992年でクローズ。マゼッティ社のチョコレートを口にすることは今ではかなわなくなりました。

たくさんの商品を生み出したマゼッティの商品パッケージでしょうか…。

しかし今、ここは再びチョコレート工場になりました。2004年に工場跡地の一角にやってきたSusanne Hanssonさんがハンドメイドチョコレートを作り始めたのです。彼女は夫のPeterさんとともに、Emil Mazetti- Nissenの創業年「1888年」を冠したチョコレート店Malmö Chokladfabrikを2006年にオープンしたのです。また、Peterさんは昔のパッケージ等を集め、それを展示することにしました。それがこの博物館なのですね! そして今、彼らはカカオ豆からチョコレートに加工する「Bean to Bar」を手掛けています。

一度はなくなった「小さな花束」〜マゼッティというブランドが、Hanssonファミリーによって新たな蕾をつけはじめました。それは、世界的に動きはじめた「Bean to Bar」の勢いにのって。ちょっとしびれるストーリーだと思いませんか!

HanssonファミリーのはじめたMalmö Chokladfabrikのチョコレートたちの展示。一部試食もあり。横に設置された小さなロースターでカカオ豆からチョコレートが出来るまでのデモが行われるのでしょうか? 他にもチョコレートの型や道具などが展示されている。


学の後、ショップに並ぶMalmö Chokladfabrikのチョコレートを見て食べて、スウェーデン人が愛するチョコレートのキャラクターをたどってみようと思いました。マゼッティの味を想像しながら。

奥の工房で作られる一口チョコレートたちは、食べ慣れているフランス系のビターでシャープなものと比べたら甘くてミルキー、どちらかというとベルギー系、ミルクやホワイトチョコの人気が高いようです。そこにソウルフードともいえるリコリス(甘草)が加えられるとインパクトは大。日本人には好き嫌いが分かれるところです。
ベリーやナッツを加えた北欧らしいフレーバーや、いかにも「Bean to Bar」的な産地別タブレットも数種。オーガニックカカオを使った新ブランドもありました。バターミルキーな余韻が長いキャラメルも。いくつかお土産に買い、博物館&ショップを後にしました。

1階ショップのプラリネチョコレートが並ぶショーケース。中にガナッシュなどの詰め物が入っているわけではなく、表面にトッピングが施されている。

左からココナツ(ミルク)、カルダモン(ミルク)、リコリス(ホワイト)、ジンジャー(ダーク)。どれも食べやすい。

かわいいデザインパッケージのタブレットたち。中にはチュアオなど産地別Bean to Barも。

そういえば2010年のストックホルム・チョコレートフェステバルにも出店していました。パッケージに惹かれて撮影したクリスマス限定スパイス入りタブレット。

クマのロゴを冠したオーガニックチョコレートも展開。こんなコーン型パッケージもスウェーデンではお馴染みです。

リコリスを練りこんだダークとミルクチョコレート。慣れると病みつきに?

ファッジキャラメル、食感も余韻も驚きの美味しさ! 黒いのはもちろんリコリス味。

あっ、建物の裏には、あのアイズココアのゲートが!

建物の奥にアイズココアのゲートが! オーレ・エクセルのファンにはたまらないスポットでしょうね。 


そうか、スペインが中南米からカカオを持ち込んで、スイスがコンチングとミルクチョコを生み出したとするなら、スウェーデンは優れたデザインで市民にチョコレートを浸透させた、そういえるのかもしれません。どこにあってもチョコレート博物館は面白い!



Malmö Chokladfabrikのパッケージデザインと商品ラインナップはつい最近リニューアルされたようです。現地に行かれる方はサイトで確認してみてください。

Malmö Chokladfabrikのサイトとfacebook
 http://malmochokladfabrik.se/
 https://www.facebook.com/chokladfabrik






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