回のスウェーデン南部・美味しいもの巡りはパン屋さんです。

はじめに紹介するのは、Olof Viktors bageri och café(オロフ・ヴィクトル・バゲリ&カフェ)。

イスタYstad駅から、前回のチョコレート屋さんとは違う路線のバスに乗り20分弱。畑以外何もない停留所で降りた時はまたもや不安になりましたが、三叉路の道路標識にはいくつかの地名とともに、ちゃんとお店の案内標識があり一安心。示された方向に1km弱、歩き進んでいきました。

バスを降りた道路脇に立つお店の案内標識。スコーネの田舎はだいたいこんな風景。


まったくこちらの食べ物屋さんときたら、有名店だろうが、車がない旅行者には不便な場所にあるのだから参ってしまう。でも地元の人にとっては楽に駐車できて、たくさん買って帰ることができるのだから立地は関係ないのでしょうね。

たかがパンのために、何故時間と体力を使ってまで訪ねたかというと、このOlof Viktors bageri och caféが、スウェーデンのパン・菓子・チョコレート界の重鎮Jan Hedh氏が関わっているからです。Jan Hedh氏は、私の敬愛するオーランド諸島のショコラティエ・Mercedesさんの師匠であり、たくさんのスウェーデン菓子&パンの著書を出版されている方。その中の一冊、スウェーデンのパンについて書かれた本は私の大のお気に入り。本格的でわかりやすく、スパイス入りの薄焼きクネッケが美味しく出来たときの感動といったらありません。

10分ほど歩いたでしょうか。赤い大きな看板が見えてきました。広大な敷地に平屋建ての大きな建物。
レンガ張りの壁にアールの扉の入り口が少々そっけなく感じますが、一歩中に入ればそれが嘘のように、活気ある売場とキッチン、カントリー調の家具が配置されたカフェがありました。パン売場の前はすぐに中庭になっていて、それを囲むように建物が四角くめぐらされているのです。素敵な造り!
何でも2001年に開業する前は農家だったところを、歴史ある建物を活かして、パン焼きのためのレンガの薪窯と、アートギャラリーも併設するお店にしたそうです。

ずっと畑の道路にOlof Viktors bageri och caféの看板が現れ一安心。

お店の入り口。レンガの外壁には、WHITE GUIDEおすすめのカフェのプレートが掛けられている。

ゆったりくつろげそうなカフェスペース。11時のオープン前に撮影。


8月下旬の日曜日午前ですが、売り場にお客さんが途切れることはありません。大きな食事用のパンから、小物、デニッシュ系やおやつパン、ケーキ、アイスクリーム、自家製フルーツジュース、箱入りのクネッケ、ジャム、ミューズリー、チョコレートetc.に加え、地元特産のチーズなども取り扱っていました。とにかく品数がいっぱいあるので、あれこれ見て悩みながら選ぶことに。

朝8時開店からお客さんが絶えることはない。

サワー種中心で、お店の名前を付けた白いViktors Ljusaや、ライ麦ベースの型入れパンの他、週末限定や季節のパンも並ぶ。

生ケーキはスウェーデンらしくキャロットケーキやチョコレートケーキ、レモンパイ、季節のベリー入りなど。

サフラン入りのスコルプルや農家風クッキーなど、FIKAに欠かせない日持ちのする焼き菓子も種類が豊富。袋入りの他、缶入りも。

たくさん並ぶジャムのうち、いくつか試食用がありました。珍しい青トマトジャムも。


正面右手突き当りにあるパンのキッチンも覗くことができます。広々としたスペースの壁面には大きな窯があり、焼きあがったパンは天板棚にどんどん置かれていきます。その中にちょっと変わった形のパンを発見。大きなハサミを広げたザリガニを模したパンです。

奥に黒く見えるのが薪のパン窯か…!?


ウェーデンではザリガニ漁が解禁になる8月8日から9月にザリガニを食べる習慣があります。それもただ食べるのではなく紙エプロン、帽子、デコレーションを施し、歌とお酒、山盛りのザリガニとお料理でテーブルを一杯にし、家族や仲間と一緒にパーティーとして夏の終わりを楽しむのです。

そこに欠かせないのが、香草のディルを練りこんだパン。形にこだわらないものも見かけますが、大きなザリガニ形はパーティーのテーブルを一層盛り上げるでしょうね。気分だけでも味わいたくて、思わず1尾買ってしまいました。思ったよりも大きくて重たい!

ザリガニといただくためのザリガニパン。レーズンを目に、全長30cmはありそう。パーティーテーブルでも存在感ある大きさ!

ディルの他にパプリカ、チーズも入っているのか、コクのある焼き上がり。


重たいといえば、もうひとつこちらで買ったのが、ここスコーネ地方やスウェーデン西部発祥の伝統的な黒パン、Kavring(カーヴリング)。ライ麦粉主体ではあるのですが、サワー種にスパイスやダークシロップを練りこんで焼くので黒く、味は甘くてほんのりスパイシー。焼きたてよりも数日置いたほうが美味しくなるパンです。そのため、昔は保存食として、また遠征の兵士や船乗りの大事な栄養源として焼かれていました。

日本にはないパンなので味の想像がつかないと思いますが、フランスで言うパンデピスをもっとパン寄りにしたとでもいいましょうか。数年前にバターをのせたカーヴリングを口にして以来、私はすっかり虜になりました。

低温長時間焼成によるメイラード反応で真っ黒な表面にお店のイニシャルを刻印したカーヴリングは1本売り。10cm×10cm×30cmほど、手にずっしりする感触から重さ1sはありそう。モルトやキャラウエィ、アニス、ビターオレンジ、ほんのりお醤油のような深い香り、昆布のような旨みに酔いしれてしまいます。

こういった甘めのライ麦パンは、決して日常食ではないのですが、もしスウェーデンのパン屋さんで見つけたら、一度はトライすることをおすすめします。

クラムは詰まっているけれど弾力がある。このテクスチャーはライ麦を湯種にしてから仕込むからとか…。


そしてやっぱり食べたくなるのがおやつ系。カルダモンを練りこんだブッラはここにもありました。しかし並んでいたのはたったの1種類。他はデニッシュタイプでした。ストックホルムでみる数多くのカルダモン入りバラエティのブッラがないなんて、やはりスコーネは昔デンマークだったこととも関係があるのでしょうか?

その場でいただいたカルダモンブッラは、ヨーグルトのような甘酸っぱい香りと、表面のグラニュー糖のシャリシャリ、弾力のある生地とカルダモンの爽快さが口に広がり後を引く美味しさ! こんなのが作ってみたいと思わせる一品でした。

中央の毛糸玉みたいなのがカルダモンブッラ。スウェーデン独特の成型がかわいい。

中庭から見たブティック。夏は外にもテーブルが並ぶ。


本当はカフェで具だくさんオープンサンドが食べてみたかったのですが、帰りのバスに間に合いそうもなく、写真にだけ収め、後ろ髪をひかれる思いでお店を出ました。


カフェ棟のショーケース。パンが見えないほど大盛のオープンサンドに食指が動く。

クッキーの抜型を目印にしたトイレ扉。


のパン屋さんはイスタYstad駅から歩いて5分のSöderberg & Sara Stenugnsbageri(ソーダベリ&サラ・スティヌスバゲリ)。商店街の端の静かな場所に位置するカフェと一体になったお店は2010年のオープン。無垢の木とスチール、タイル、手書きボードを取り入れた今どきの内装がおしゃれです。

木製看板は持ち手がついておしゃれ。

壁には店名がなく、伝統的な建物は窓や扉が小さいので、一見外からパン屋だとはわかりづらい。

小物パンと発酵菓子のケース。クロワッサン、シード入りパン、デンマーク風バターケーキ、クッキーなど、スウェーデン伝統のものにデンマークやフランスのスタイルを取り入れた感じ。


伺ったのは平日の朝。そこで私は朝食をとたくらんだのです。

壁に描かれたメニューに朝食〜frukostの文字を見つけ、早速オーダーです。小さな朝食50クローネだとカフェまたはティーとサワー種パンのサンドイッチ、大きな朝食70クローネにするとヨーグルトがプラスされます。家でも毎朝ヨーグルトが欠かせない私は迷わず大きな朝食をオーダーしました。

壁一面に描かれたメニュー。左から朝食、ランチ、グリル、ドリンク。

朝食セットで選べるサワー種パンのサンドイッチ3種。チーズ&グリーンサラダ、チーズ&ハム、サラミ&ブリ―チーズ。


前朝食をテーマにした回にも書きましたが、スウェーデンではトースト(またはハードパン)&バター・ジャムのような朝食はしません。朝からハムやチーズ、卵、野菜などをパンにのせて、または挟んでしっかり食べるのが一般的です。それにミューズリーとヨーグルトがあれば言うことなし。バランスのよい、うれしい内容となります。

こちらのサワー種パンのサンドイッチは3種ある具から好みを選ぶスタイル。私はサラミ、ブリーチーズ、レッドキャベツの酢漬け、レタス入りを指さしでチョイス。席について待っていると、朝食は木箱で運ばれてきました。しかも食器がいちいちかわいくテンションはあがりっぱなし。女の子がお家でも真似したくなる演出が詰まっていました。

ロゴ入り木箱をトレーにセットされた朝食。ヨーグルトとミューズリーの容器はWECK。お店の雰囲気を一緒にごちそうになった気分。


見た目だけでなく味もなかなかのもの。歯切れのよいサワー種のパンと具は一体となって、調味も程よく無意識のうちに食べ進んでしまいました。それ以上にヨーグルトに添えられたミューズリーが癖になる香ばしさ。北欧ではミューズリーをパン屋や菓子屋でも売っており、食生活には欠かせないもののようです。パンとミューズリー、どちらかではなく、どちらも食べると考えれば一緒に買えたほうが便利ですよね。北欧での朝食体験をしたことで、私もオリジナルミューズリーを買ったり作ったりするのが好きになりました。

カフェで食べるスウェーデンスタイルの朝食。サンドイッチも美味しいけれど、何よりオリジナルミューズリーの美味しさにはまる。


バゲットやルヴァン、クロワッサンなどのフランス系、サワー種パンのサンドイッチの他、山羊チーズの黒パンサンド、デンマーク風ライ麦ローフ、デンマークのスモーケア(バターたっぷりの発酵菓子)、にんじんケーキなど、スウェーデンの定番の他にデンマーク風のパンやお菓子もちらほら。さすが国境の町にあるパン屋だけのことはあります。

その中からモルトブラウニーをテイクアウト。ブラウニーに目がない私にはもってこい。モルトとチョコレートとのマッチングもミソ。半分ファッジで濃いけれど、甘さはほどよく、醤油を思わせるモルト香が印象的なブラウニー。またひとつ複雑な美味しさに出会いました。

お菓子のショーケース。見せ方がかわいい。

購入したモルトブラウニーとゴマを塗したバターリッチな小さいパン、ショップカード。


日本では、あまりに情報が少ないスウェーデンのパン屋やカフェ。このお店Söderberg & Sara Stenugnsbageriについても、現地観光局サイトにあるリストを見てふらっと行ってみたのですが、後にすごいことがわかりました。2016年5月に発表されたWHITE GUIDE(スウェーデン版ミシュランのような存在)で、スウェーデン国内カフェ部門で第2位の評価を得ていたのです。さらに一軒目のOlof Viktors bageri och cafeは第7位。私が訪ねたのが2015年8月ですから、すでに同等のクオリティーはあったわけです。スコーネ地方の食、侮れません。

ところで前回今回と起点になったイスタ Ystad、この町についてはほぼ日本のガイドブックには掲載がありません。そこに何故行ったかといえば、海の向こうのボーンホルム島へ向かうため、フェリーに乗るためでした。しかし着いてみれば古い町並みを歩くのが楽しく、十分魅力ある街ではないですか。ここに紹介したパン&カフェ巡りの他、ちょっと足を延ばせばワイン産地を訪ねることもできるようです。スコーネ地方の奥の深さに触れ、また美味しいもの探訪がしたくなりました。いつかきっと…。

イスタの町の中心、旧市庁舎前の広場。奥に見えるのは教会の塔。

商店街で見つけた、とあるお店のショーウィンドウ。以前紹介したスコーネの名物菓子スペッテカーカや、はちみつ、マスタード、菜種油など、この地方の特産品が並ぶ。まだまだ知らない美味しいものがあるかもしれない!


さあ、イスタからデンマークのボーンホルム島へ。次回は島での体験を紹介しましょう。




Olof Viktors bageri och caféのサイトとfacebook
  http://www.olofviktors.se/
  https://www.facebook.com/Olof-Viktors-307429222601975/?fref=ts

Soderberg & Sara Stenugnsbageriのサイトとfacebook
  http://www.soderbergsara.se/
  https://www.facebook.com/soderbergsara/







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