ーンホルムBornholmのおいしい旅、今回はバスで巡る島の後半です。

Nexø(ネクセ)で燻製塩のできるところを見た後は、10kmほど北のSvaneke(スヴァネケ)へ向かいました。島の玄関口Rønne(レンネ)の反対側に位置するSvanekeは、昔ながらの美しい町並みとアートやクラフトショップの集まるボーンボルム島きっての人気観光地。宿のマダムからも「とにかくシーズン中は人だらけでゆっくりできないわ。」と聞かされていました。それでもこの島に来る前は、宿泊をSvanekeにしたかったほど。いいところに違いないと期待していたのです。


町中央のバスターミナルに着く直前、その兆しを感じました。車窓からブレツェルのロゴと‘BRØD’の文字を掲げたおいしそうな看板が目に飛び込んできたのです!その直後の停留所で本能的に下車。
足早に‘BRØD’看板を目指しました。お店の名前はSvaneke Brød。入り口はおよそ一般のパン屋さんと異なりそっけなく、店内も簡単な棚とレジがあるだけ。オープンキッチン形式の厨房では、サワー種のライ麦パンの型入れ作業が進められ、ローフ型がどんどん積み上げられていきます。一体一日何本のライ麦パンを焼くのでしょうか!?


縦長看板BRØDがバスから見えて…。

これらの型入りライ麦パンは焼き上げてから、翌日の販売用となる。

こちらはカンパーニュのようなパンの成型。

レジ前のテーブルには、このデンマーク式ライ麦パンの試食が出ていました。親切にバターも用意されています。その一切れをパクッ! ライ麦のコクがあってほどよい酸味としっとり感。バターをのせればさらに旨みが…。


レンガのように積まれたライ麦パン。

試食用のライ麦パン断面。シリアルの粒がぎっしり。

聞けばここSvaneke Brødでは、ボーンホルム島産のオーガニック粉を使ってパンを焼いているそう。そしてライ麦パン以外にも、小麦粉パンやクロワッサンなども作っているけれど、この日はライ麦パン以外すでに完売。午後の早い時間だったのになんてこと!

「明日も焼きますからぜひ早い時間に。」

そういわれても不可能なのが旅行者の辛さ。ライ麦パンは大好きだし、できればもっと食べたかったけれど、日本と違って何分の一とかの小分け売りはなし。ずっしり重いローフを旅の間持ち歩くのも難しい。その代わりパンのお供として試食させてもらったシーバクソンのジャムを購入。島の農園で有機栽培されたもので、オレンジ色のほとばしる酸味がバターをのせたライ麦パンにぴったり。シーバクソンとは、北のスーパーフードとして注目されているグミ科の低木。生のまま口にすると強烈に酸っぱくてとてもおいしいとは言えないのですが、抗酸化作用が強くビタミン、ミネラルも豊富、また果実には珍しく油脂を含み、アンチエイジングや免疫力アップに効果が期待できるとして、ジュースやドライパウダー、化粧品などに加工されています。最近は日本でもオーガニック系のお店で目にしますが、レモンのようにお酢代わりにドレッシングにしてもいいし、乳製品とは相性抜群、チョコレート等と合わせてお菓子にするととても美味しいのです。イメージとしてはパッションフルーツに近いかもしれません。美味しいパンは美味しい何かを呼んでくる。こんな風に次から次へとつながっていったのです。


ボーンホルム島で有機栽培されたシーバクソン果実のジャム。
**Photo by Høstet

Svaneke Brød
  https://www.facebook.com/Svaneke-br%C3%B8d-839507942732463/

Høstet(Havtorn Bornholm Aps.)
  http://xn--hstet-vua.dk/


ンの話題ついでにちょっと脱線。
デンマークでライ麦パンといえば、オープンサンドにするための細長いローフが定番。その生地を入れる型にブナの木製のものが作られているとデンマーク人に聞き、オーダーをしていました。八ヶ岳で開催されたライ麦パンワークショップの講師を務めたボーンホルム島在住アーティストからの紹介です。木製の型が果たして伝統的なのかはわかりません。しかし彼曰くブナの木のパン型は、焼き時間が長いライ麦パンにとって金属性の型よりも熱のあたりが柔らかく、よりよいアロマの形成をもたらすとのこと。カステラの木枠、アルザスの陶器クグロフ型など、火の通りとアロマに影響を及ぼす型は、調味料のひとつになるのでは。そう考えただけで木型にわくわく。受け取るのを楽しみにしていました。最終的にはスケジュールが合わず、島での再会は果たせませんでしたが、数か月後に型は無事私の手元に届きました。2p厚さの底なし木枠式は手にずっしり。最初は何重にもオイルを塗ってなじませること、が肝心だそうです。

デンマークのパン焼き用木製型。


次に町の中心へ移動し、スーパーを覗いてみました。そこには興味をそそる島特産品があることあること! パン関係では、ライ麦パン等ハード系のパンに練り込むシード&ナッツミックスがありました。先の先生もワークショップで使っていたこのミックス、日本では当然見かけません。自分でブレンドすればすむものですが、何種類も揃えるのは大変なこと。こういうのがあると気軽にベイキングできますよね。

ヒマワリの種、亜麻仁、カボチャの種、ゴマ、ヘーゼルナッツ、アーモンド、ボーンホルムの燻製塩がミックスされたパン用シード&ナッツ。


別の棚にはカラフルな平打ちパスタがずらり。赤いのはビーツ、黄色はサフラン、緑はバジル、そしてラムソン、茶色は何とチョコレート! それらパスタに合わせたオリジナルのペスト(ソース)も並び、見ているだけで楽しくなります。何かひとつ買ってみようと選んだのはラムソン。ラムソンとは、ヨーロッパの森で春に出てくる行者にんにくに似た山菜。北欧らしいテイストを感じられそうなので決めました。

実はイタリア以外のパスタに当たったことがなく、こちらも味に関してはさほど期待していませんでした。ところがです、帰国後調理して食べてみて大後悔。何故もっといろいろ買ってこなかったのかと! コシがある麺は歯切れもよく、香り高いペストは後を引く美味しさ。一滴たりとも残すまいと、必死で拭い、食べ終わったお皿をくんくん嗅いで余韻にひたる始末。慌ててPastariget社のサイトを見ると、パスタはボーンホルム島産のデュラム小麦粉と有機卵で作られているとのこと。作り手の熱意は、食べてみれば伝わってくるものですね。

ラムソンのパスタとペスト。ペストのオイルはもちろん菜種オイルです!

Pastariget
  http://www.pastariget.dk/




Svanekeの中心は観光客でいっぱい。ガラス工芸のお店も多く、体験できるアトリエもある。

ブルーベリーの無人販売。もうこの棚ごと持ち帰りたい!

S
vanekeには、アイスクリーム、スイーツのお店もたくさんあります。パッケージデザインの素敵なチョコレート店や、昔ながらのキャンディショップの実演も面白かったですが、感心したのはリコリス専門店のLakrids by Johan Bülow。北欧ではすっかり有名になったこちらのブランドは、ボーンホルムのここSvanekeが出発点だったそうです。おしゃれな店内には様々なリコリス製品が並べられ、ガラス越しに製造の様子も見られるようになっています。残念ながら私が訪問した時には、作業は終わっていましたが、未知の黒い食べ物リコリスの作り方には興味津々。さほど好きではないリコリスですが、ここのは質が良いようで、不思議ともうひとつ…と手がのびます。


Lakrids by Johan Bülowの店内。はがき大のリコリスレシピカードもおしゃれ。

リコリスのスタウト(ビール)もある。

店内の一角ではリコリス作り一部が見学できる。

Lakrids by Johan Bülow
  https://liquorice.nu/




Svaneke Chokoladeriには豊富な種類のチョコレートが並ぶ。

実演が人気のキャンディ屋さんSvaneke Bolcherにて。展示されているのはキャンディ作りの機械。下のローラーが中央に向かって回転し、キャンディの塊がのびていく。

してSvanekeからさらに北上し向かったのは東海岸に面した町Gudhjem(グドィエム)。Svaneke同様、ここも人気の観光地。たくさんの人が下車します。彼らについていけば町の中心にたどり着けるだろうと歩きました。長くて急な坂道を5分くらい下ると港に到着。ここからはChristiansøという20km離れた小さな島への定期便が出ており、カフェや商店も港周辺に多く集まっています。チョコレートショップやキャンディ、キャラメルのお店もあって、デンマーク人がいかに甘党であるかを感じ取ることができます。

坂道にあるパン&菓子屋さんで買ったケシの実たっぷりのデニッシュ〜ティビアキス。

港から一本裏通りにあるキャラメル屋さんKaramel Kompagnietに入ってみました。黄色い壁の建物のホテルの一角にあって、アイアンの扉が洒落ています。正面には多彩なフレーバーのキャラメル、ノスタルジックなパッケージのディスプレー、奥にはガラス張りの厨房があり、キャラメル作りの様子を見学できるようになっています。しかしながらこの日はすでに実演終了。またもや見ることができませんでした。キャラメルを練る大きな機械が動くところを想像してため息。一番人気だというジンジャーレモンを買ってお店を後にしました。

Karamel Kompagnietの外観。入り口はとても小さい。

温もりを感じる店内キャラメルのディスプレー。ここのキャラメルは日本にも輸入されたことがあるので、食べたことのある方もいるかもしれません。


キャラメル製造室をガラス越しに見学できる。

Karamel Kompagniet
  http://www.karamelkompagniet.dk/



歩きまわったら小腹が空いてきました。夕食には早いけれど、坂道に気になるパンケーキ店があったので入ってみることに。おばあちゃんのイラストが目印のPandekage husetです。メニューを見るとスイーツ系だけでなく、食事系パンケーキもあって種類も豊富。テラス席で食べている人のお皿を見たら野菜がどっさり。もう焼きあがるのが待ち遠しくて仕方ありません。

パンケーキのメニュー。

Pandekage husetのパンケーキは、フライパンでオーダーごとに焼いていきます。その光景に、休日のブランチにパンケーキを焼くのが大好きだった自分を重ねてしまいました。日本のパンケーキより薄くて、クレープほどは薄くない。それにさっくりではないけれど、もっちりしていてなかなかGood。オムレツみたいに具がたっぷり挟んであって、食べ応えもばっちり。マジョラムの香りがきいた野菜の角切り煮込みが、パンケーキをいっそう美味しく食べさせてくれました。


パンケーキはフライパンで一枚ずつ焼く。

オムレツとよばれる食事系パンケーキ。お皿からはみ出るほどの具は野菜サラダとドレッシング。野菜煮込みは中に隠れている。

Pandekage huset
  http://www.pandekagehusetgudhjem.dk/9-welcome....html



の北欧は日が長い。夕方5時を過ぎても空が青く、まだどこかに立ち寄れる気がして、島特有の様式で有名な教会Østerlars Kirkeの前で途中下車しました。当然、扉はクローズの時間で内部見学はできませんでしたが、白壁にとんがり屋根の円形が田園地帯にぽつんと佇む姿は、いつまでも眺めていたいほど美しかった。

Gudhjemから5kmほど内陸にあるØsterlars Kirke


最後に飲み物の紹介です。島行きのフェリーのカフェで飲み、その美味しさに帰りも買ってしまったというBORNHOLMS MOSTERIのジュース。市販のジュースは普段飲まないのですが、パッケージと種類にそそられ購入。そして口にしてびっくり。それまでの概念を覆す美味しさで、あっという間に飲み干してしまいました。余計なものを加えず、有機栽培された材料で新鮮味を損なわず加工、それらは社会的弱者、障害者によって製造されているそうです。ルバーブジュースもエルダーフラワーも、もう一度飲みたいほどすっきりした味わい。ちょっと探ってみると、前回も紹介したミシュラン星付きレストランKadeau(カド―)が商品開発に関わっているとのこと。北欧のガストロノミックなレストランでよく聞くジュースペアリング(ワインペアリングのジュース版)に、ぐっと興味がわいてきました!

BORNHOLMS MOSTERIのルバーブジュース。自然な甘さと爽やかな酸味で食事にも合いそう。

BORNHOLMS MOSTERI
  http://www.bornholmsmosteri.dk/



ボーンホルム島のおいしい旅はこれで終わりです。ミシュランのスターシェフたちが、この島の食材をこぞって使いたがる理由が、実際訪れて体験すれば手に取るようにわかります。ここで紹介しきれなかったもの、訪問を逃した場所もたくさん。もしコペンハーゲンまで行くのであれば、ボーンホルム島にもぜひ足をのばしてみてください。


ボーンホルム島の案内サイト
  http://bornholm.info/en




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