モーランドに来たからには、ひとつくらいガラス工房を見学したい!

チーズケーキを堪能したB&B Grimsnäs Herrgårdで朝食をとった後、自転車を借りて一番近いガラス工房を訪ねることにしました。

朝食ビュッフェは自家製のパン、自家製オーガニックレモンカード、ハム、チーズの他にシリアル、ベーコンエッグ、ゆで卵、ドリンクなどが並ぶ。スウェーデンでジャム類が並んでいるのは珍しい!

地元スモーランド産牛乳は乳脂肪2.9%と日本よりあっさり(左)。スウェーデンのヨーグルトはゆるめなのでドリンクのようなパッケージ入り(右)


平坦と思っていたこの地方も、自転車をこいでみると意外にアップダウンがあり、わずか3kmほどの距離でも運動した感たっぷり。そして着いたのが1897年創業のSkruf(スクルーフ)社。荒くなった息をパーキングで鎮め、ガラス製品を作っている現場を見学しました。

炉の暑さが伝わってくる作業場で、職人さんひとりひとりが溶けたガラスを細かく手を動かして形作っていく様は、飴細工やチョコレート細工に通じるところがあって面白い。 実際ガラス品の製法には息を吹いて形を作っていくやり方と、型どりして固めるやり方があって、商品や表現の仕方によって使いわけるそうです。(専門的なことはわかりませんが!)

Skrufのガラス工場&直営ブティックのある建物。

工房見学にて。職人さんたちが次々ガラス製品を生み出していく。炉で溶けたガラスに息を吹き込み膨らます。職人さんはみんなTシャツ&短パン姿!

丸く形を整えている。

何度も炉で熱を加えながら複雑な形を作っていく。

ただ眺めるだけのつもりで入った直営ブティックで、ずらり並ぶ製品のなか、何か手に持った感触に心掴まれたグラスがありました。
それが手吹きでのみ作られるBellman(ベルマン)シリーズのビールグラス。価格が安い方のビールグラスに比べ値段が倍くらいはしたのでその理由をたずねたら、型どりで作るグラスと違い、手間と技術を要するBellmanは、Ingegerd Raman(インゲヤード・ローマン)という女性デザイナーの意向で一つ一つがハンドメイド。よく見ると底に軸を切り離した跡が残っており、高さや角度が微妙に違います。
これぞ人の手で作られた形、味わい。手に取ってお気に入りをひとつ持ち帰ることにしました。透明度の高いグラスは鉛を使わないカリクリスタルだから、これで飲むクラフトビールはひと味もふた味も違う…自己満足かもしれませんが、生活を豊かにするのはこういうことなのだと思います。

直営ブティック。透明感の高いカリクリスタルのシンプルなデザインは、日本人の好みにも合うのでは。

購入したBellman(ベルマン)シリーズのビールグラスは、手にしっくり、上から見ても美しく、クラフトビールを注げば絵になる。

Skruf
  http://skrufsglasbruk.se/
日本でも一部製品の扱いあり


に向かったのは、雑貨&カフェのAtelje Vidagård(アテリエ・ヴィダゴー)。B&B Grimsnäs Herrgårdのダイニングを飾ったかわいいキャンドルスタンドはこちらのものと教えてもらいました。スウェーデンらしい焼き菓子も何種類かあったのですが、ここでランチにしようと思い、Köttfårspaj(ショットファスパイ:ミートパイのこと)を注文。トマト味のひき肉にチーズをのせて焼き上げたパイは、親しみやすく懐かしい美味しさ。サラダが添えてあるのがうれしい。

Atelje Vidagårdの店内。本日のセイボリーパイはベーコン&ブロッコリー、またはひき肉。サラダ付きで65クローネ。

スウェーデンスタイルの焼き菓子も何種類か並んでいました。



旨みたっぷりのミートソースがたっぷり詰まったパイ。サラダもたっぷりで満足な一皿。

スウェーデンの伝統的なカフェでは、コーヒー、紅茶はセルフが一般的。それにしてもコーディネートがおしゃれ。

たまたま客は私一人だったので、オーナーのクリスティーナさんと少しお話をしました。彼女は昔、オレフォス(Orrefors)社でガラス絵付師として働いていたそうです。娘さんも同じ。だから今、キャンドルスタンドなど木材にペインティングを施した雑貨や家具を創作されているのですね。

オレフォスといえばノーベル賞の晩餐会で使用されるワイングラスで有名です。ゴールドやグリーンのステムが美しい「ノーベル」シリーズのグラスは、テレビ等の映像で目にしたことがあるのでは!? 実は私もこのグラスに惚れ込んで、90年代のストックホルム訪問で持ち帰った思い出があります。

余談ですが、実際の晩餐会が開催される市庁舎の地下には「ノーベル・ディナー」を楽しめるレストランがあるのです。店名はStadshuskällaren(スタッドヒュースシェラレン)。ヨーロッパではよく市庁舎の地下に居酒屋がありますが、そんなネーミングとは逆にここは高級店。一番の目玉は晩餐会当日と同じメニュー、しかも食器類まで同じなのですから興奮もの。若かりし頃の私もこちらで食事をし、オレフォスのワイングラス片手に大江健三郎さん(1994年ノーベル文学賞)も体感したであろう雰囲気を楽しんだのでした。

2013年、オレフォスは破たんし、スウェーデン有数のガラスブランド、コスタボダ(Kosta Boda)と合併したと聞きました。英国ウエッジウッドやイタリアのジノリなど、世界的な伝統工芸メーカーの倒産が相次いだ頃、スウェーデンでも同じことが起こっていたのですね。幸いブランドは引き継がれましたが、仕事を失った職人さんたちは多かったことと思います。別の道を切り開いたクリスティーナさんは、スモーランドに留まり、オーダーメイドで子供用の木製絵付けファニチャーの制作をされ、さらに手作りのお菓子やセイボリーでカフェを切り盛りされています。

窓辺のブルーのガラス花瓶が、外光に透けてステキ。

2階にはハンドメイド中心の雑貨が並ぶ。B&Bと同じ小鳥のモチーフがかわいいキャンドルスタンドも。

「夫のおじいちゃんはアメリカ移民組だったけれど、夫はここスモーランドに戻りたくなり帰ってきたの。」

多くのスモーランド住民が過去にアメリカへ渡ったお話しは前回書いたけれど、今は出戻りも珍しくないのかしら? 興味はつきなかったけれど気づけば外は土砂降り。朝はあんなに気持ち良い空だったのに。
ひと段落したクリスティーナさんは、困った顔をした私をみかねて自転車ごとB&Bまで車で送ってくれました。スモーランド、本当に人情味溢れるところです。

Atelje Vidagårdへ向かう途中見つけた看板。この村からもアメリカへ移民していったことが書かれている…と思われます。

Atelje Vidagård(英語ページあり)
  http://www.ateljevidagard.com/en

Stadshuskällaren(英語ページあり)
  http://www.stadshuskallarensthlm.se/en/


B
&Bに戻ってみると、レストランでは何か貸し切りパーティーが開催されている様子。駅まで送ってもらう約束をしているけれどちょっと声をかけにくい雰囲気。雨も降り続いていたので、2階でしばらく待っていました。もっとサイクリングできれば良かったのですが…。

1時間ほどしてお客さんたちが帰っていった後のこと。オーナー夫妻が私をレストランに手招き、あるものを出してくれました。なんとパーティーのために作ったケーキの残りを食べさせてくださったのです。残り物でも私にとってはサプライズ! 大きく四角に作ったケーキは、スポンジ生地にラズベリーのホイップクリームを合わせたもの。チョコレートソースとお庭のミントを飾って、夏らしいデコレーション。スポンジとクリームとフルーツのハーモニーは、日本人の私にとってはショートケーキ。甘酸っぱくもクリーミー、ふわっと口をくすぐる味わいは懐かしくてたまらない。最後まで喜ばせてもらったオーナー夫妻には感謝の気持ちでいっぱいです。



天板いっぱいに大きく焼いたと思われるケーキ。ラズベリーやミントなど、季節を盛り込んだ温かみのある彩りに和みます。スポンジとホイップクリーム、フルーツを重ねただけのケーキは、日本のショートケーキに通じる親しみやすさがあります。



気づけば雨はすっかり上がっていました。車は森林地帯を走り抜け、Lessebo駅へと向かいました。

スウェーデンのガラス産業は、この豊富な木材が燃料にできるからスモーランドで発展したそうです。
次回は、スウェーデン最古のガラス工場のあるコスタでの、ユニークな体験をお話ししましょう。

Grimsnäs Herrgård
  http://www.grimsnas.se/





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