ウェーデン北部の小さなパン祭りとパンにまつわる体験記。オーセレの薄焼きパン祭り(フェア)Tunnbrödsmässan i Åsele の続編、今回はアヌさんに教わった薄焼きパンと、このフェアを企画したグニラさんによる夕食会のことなど、お話ししたいと思います。

受付けをされていたアヌさんが、会場入り口すぐのスペースで何やら薄焼きパンを焼いています。電気式のふちのない丸いホットプレートを使い、丸く薄くのばした生地をのせると、温まるにつれ表面がポコポコ膨らんで甘い香りが漂ってきます。待つこと1〜2分でしょうか。底にほどよく焼き色がついたか、そっと持ち上げて確認します。やさしく素早く生地を扱う姿は、休日にパンケーキを焼いてくれるお母さんのよう。

みんなのお母さんのような面倒見の良いアヌさん。


そうか、薄焼きパンは何もオーブンで焼くばかりではないのだ! もともと直火で焼く文化がこの地にはあったとアンキさんが言っていたっけ。厚手のフライパンで焼いてもいいけれど、今は電熱式のホットプレートが売っていて、気軽に薄焼きパン作りができます。ワッフルとかたこ焼きとか、そういう粉もの作りと同じ感覚なのでしょうね。

ホットプレートで焼く薄焼きパンのデモ用に並べられた材料。


せっかくなので作り方を教えてもらいました。材料は小麦粉、ライ麦粉、シロップ、発酵乳、重曹、塩、それに香り付けのパン用ミックススパイスです。
あれれ…、酵母で発酵させて膨らますのではなく、重曹で!? しかもすべてを混ぜるだけで生地は出来上がり。あとは適当な大きさに分割し丸めてのばして焼くだけです。

発酵乳に小麦粉など材料を入れていく。

イーストではなく、重曹で膨らませる。

北欧ではシロップをパンやお菓子によく使う。モラセスとは違うブラウンシュガーのような甘味。

材料を全て入れたら混ぜる。


一枚のばして焼くのを体験させていただきました。丸めた生地に手粉をいっぱいつけて、麺棒で丸くのばし、最後は凸凹麺棒で仕上げていきます。きれいな丸にするのは慣れないと難しい。
「生地を均等にのばすことがポイントかしら。」とアヌさん。でもここでは難しいことは気にせずに、手づくりすることが何より楽しい。

粉をたっぷり台にふって、丸めた生地をのばしていく。

プレートにのせて焼く。だんだんと膨らんでくる。凸凹麺棒の跡が形に。


焼くのもお手軽ホットプレートなら、生地作りも短時間でできる。これは思い立ったときにすぐに作って食べることができていい。焼きたてはもちろんふっくらで美味しいけれど、シロップの効果なのか冷めてもすぐに固くはなりません。好きなものをのせたりはさんだり、手巻き寿司感覚で楽しめます。

Steketakkeというホットプレート。ふちがないからクレープもうまく焼けそう。


この方法、気に入ったので帰国後に材料や分量を日本式に直して作ってみました。本当に簡単でブランチにもぴったり。レシピを紹介しますので良かったらお試しください。

材料(直径14p 10枚分):
ケフィア(または無糖のゆるいヨーグルト)250g
ゴールデンシロップ60g
2.4g
小麦粉180g
細挽きライ麦粉180g
重曹小さじ約1/2
ベーキングパウダー小さじ約1/2
オプション:ミックススパイス粉(フェンネル、アニス、キャラウエイ) 2g(小さじ約1)

作り方:
ボウルにケフィア、ゴールデンシロップ、塩をよく混ぜ、予め混ぜておいた残りの粉類を入れカードやゴムベラで混ぜる。ベトベトするがよく混ざったらカードでひとつ65g×10個に分け丸める。打ち粉の上に並べる。
たっぷり打ち粉をした台で綴じ目を下にして麺棒で丸くのばす。大体厚さ5mm弱になったらフォークで数か所穴をあけ、余分な粉をブラシではらって、熱したスキレットか溶岩板、厚手のフライパンにのせる。
弱火で片面2〜2分半ずつ焼き、中まで火を通す。大体厚さ1cm弱にできます。温度が高すぎると火が通る前に焦げてしまうし、弱すぎと時間がかかりすぎて乾燥し、固くなってしまいます。ご家庭の器具でちょうど良い火加減を見つけてください。
焼き上がりを乾燥しないように布をかぶせる。

焼きたてにバターを塗って食べるのが最高ですが、ハム、チーズ、レタス、マスタードなどを挟んで食べても美味しいですよ。


慣れた手つきでさっさとのばして焼き上げるアヌさん。焼きたてを味見させてくれた。


ヌさんはオーセレに住むアフガニスタンからの移民にスウェーデン語を教えて自立を促すお仕事もされているとのこと。そんなわけで、会場の一角では彼らの焼いたアフガニスタンのパンBAYATも販売されていました。ゴマがたっぷりかかったわらじのようなパンは、どんな風に食べられているのでしょうか。

アフガニスタンのパンBAYAT。


フェア初日の夜には夕食会が開催されました。オーセレは観光地でもなく小さな町なので、レストランやこれといった食べ物屋さんはなく、私にとってはありがたい食事会。
17時。同じ建物内にあるバンケットホールに、参加者が続々と集まり始めました。ほとんどが地元オーセレの人です。

夕食会の会場


食事はビュッフェ形式。薄焼きパンのトゥーンブロード、バター、大鍋に入ったブイヨン、お肉、野菜、リンゴンベリージャムが一列に並んでいます。

「ここでの伝統的な食べ方を見せてあげるわね。」

一人の女性、グニラさんがお皿を取り、薄焼きパンをブイヨンの入ったお鍋に入れ浸しました。ほどよくしみこんだらお皿に引き上げ、野菜やお肉を盛り付け、バターもリンゴンベリージャムもたっぷり添えればできあがり。

お肉を煮たブイヨンにトゥーンブロードを入れてレードルでちょっと押してしみこませる。

トゥーンブロードをブイヨンから引きあげて、お野菜、お肉を盛って行く。


薄いパンをブイヨンにしみこませて食べるところが、何となく青森のせんべい汁とつながり面白い。乾いた食感のパンがお麩のように出汁を吸って美味しい。そして温まります。寒い地域ならではの粉ものの保存と活かし方に、ちょっと感動です。

全部盛り付けたお皿。シンプルな味つけだけど素材が美味しく温まる。そしてやっぱりリンゴンベリーはお肉に合う!


スウェーデン北部の素朴な肉じゃが料理とビール、参加者たちとのおしゃべり、生演奏と歌で食事会は終盤に。お腹もいっぱいになったところでデザートが登場しました。バニラアイスクリームにリンゴンベリーソース、ワンポイントにシナモンシュガーを塗したトゥーンブロードのラスク添えです。このちょっとしたアイデアが、バニラアイスをご当地風にしてくれる。甘酸っぱいリンゴンベリーとシナモンの風味がきいたパリパリ食感、真似したくなる一品でした。

デザートにもトゥーンブロードをアレンジして。


ちらのお料理とパンを作ったのは、はじめに食べ方を教えてくれたグニラさん。実は彼女こそ、この薄焼きパン祭りを企画し立ち上げたご本人だったのです。

きっかけは前回登場したアンキさんの本「Brödkult」。もともとこの周辺で日常的にパンを焼き販売をしていたグニラさんですが、本に書かれた薄焼きパンの文化に開眼し、行動を起こすこととなりました。伝統的な薄焼きパンの文化や新しいアイデアをもっと広げたい。こうして2015年、アンキさんや数名の仲間と一緒に「Tunnbrödsmässan i Åsele」をスタートさせたのです。小さな町で開催される理由は、そこにあったのですね。

グニラさん。一見物静かに見えるけれどフットワーク軽く何でもこなす。テーブルのクッキーも彼女の手作り。


オーセレの中心から車で数分の、グニラさんのカフェ「Tegelbacksgården i Åsele」を案内してもらいました。スウェーデンらしい赤い壁の建物の中に一歩入れば、明るく木の風合いが温かい雰囲気。
「来シーズンに向けて、外にパン焼き窯を作る計画をしているのですが、申請書類の準備が予想以上に大変で。」
パン祭りの計画実行に続き、50代でアクションを起こすグニラさんの目は輝いていました。何かを始めるのに年なんて関係ないのです!


Tegelbacksgården i Åsele の店内。カーテンの刺繍や小物がかわいい。

オーセレの町はずれにある牧場の光景。木々は少し色づき始めていた。


刺激をいっぱい受けたこのイベント。次回は薄焼きパン、トゥーンブロードを薪窯で焼く体験をレポートします。どうぞお楽しみに。





旅日記・トップに戻る