ーラナ地方には、前回のTunnbrödよりもっと有名な薄焼きパンがあります。

knäckebröd(クネッケブロード)。
略してクネッケといえば知っている人もいるのでは?

「あのチーズをのっけるクラッカーみたいなやつでしょ?」

そうだけど、それが全てではない。この地方では日々の糧として、毎日食卓にのぼる大事なパンの一種なのです。

Tunnbrödがソフトタイプとハードタイプがあるのに対して、knäckebröd(以下クネッケ)はハードのみ。英語でクリスプブレッドと言われる通り、サクッ、パリンッとクリスピーな食感が特徴。基本的にライ麦の全粒粉、塩、水、酵母の材料で作った生地を薄くのばし、高温のオーブンで焼き上げます。
直径約30〜40 cm、厚さ約1/2〜2 cmで、竿に通してキッチンに吊るして保存するため、真ん中に穴があいているのが特徴です。雪が積もれば風車の製粉所が使えなかった時代、パンは一度にたくさん作って、長期保存できるような工夫をしていたんですね。

昔はネズミに食べられないようにクネッケを竿に通して保存した。knäckebrödの名前はひび割れのパンから来ているとか。

SKEDVI BRÖD社のクネッケは薪窯で職人が一枚一枚焼いていることで有名。材料はライ麦全粒粉、水、イースト、塩だけ。


一枚一枚焼くクネッケはとても手間がかかるので、Tunnbröd同様、今ではほとんどが工業的に作られているそうです。
そのかわり原料もライ麦粉に限らず、小麦粉、大麦粉、オーツ麦など様々な穀物やシード、スパイス等を加えたものなど味のバラエティも増え、形状も小さい丸型や四角など現代の生活に合った様々な種類が登場しています。工夫を凝らしたデザインパッケージのクネッケが並ぶスーパーの棚は、見ているだけで楽しい!
スウェーデンではホテルの朝食やレストランでの食事の際には、大概クネッケが登場します。焼きたてのやわらかいパンが食べられるようになった現代でも、クネッケの味はDNAに組み込まれているのですね。

ダーラナのB&Bの朝食。見えにくいが、コーヒーポット手前の籠に入った3種類のパンのうち左がクネッケ。


そんな、食卓になくてはならないクネッケの大手メーカーのひとつレクサンズクネッケブロードLeksands Knäckebröd の本社ブティックを訪ねました。
牧歌的な風景が広がる道を走るバスからも、大きな工場の建物はすぐにわかります。


レクサンズクネッケブロードのブティック入り口。みんな車で買いに来る。


残念ながら工場は非公開。見学はできませんが、ブティックにはクネッケ試食コーナーがあり、全ての種類をお試しできます。他にクネッケを入れるケースや雑貨、地元の作り手によるアイスクリーム、食材なども売っていました。


全部で17種類のクネッケ試食コーナー。基本のライ麦の他、スペルト小麦やオートミール入り、サワー種、亜麻仁などのシード、ハーブ、スパイス入りやクリスマスクネッケ等季節ものも。

大量に買う人向けの箱入りが並ぶブティック奥の棚。大きなクネッケ型の壁掛けが目を引く。


最も興味をそそられたのはピンローラーなどクネッケ作りに使う伝統道具と材料、生活スタイルの展示。空気を抜くためのピケ道具、乾燥保存するための竿など、昔の質素な生活を垣間見ることができます。


クネッケ作りに使われていた道具の展示。ローラー、穴あけ等、味があります。

機械用のピンローラー。表面にできる模様はこれで決まる。

クネッケに使われる穀類。左からオーツ麦、大麦、ライ麦、小麦。


こで私は地元のミルクを使ったブルーベリーアイスクリームと、クネッケを入れる缶、クネッケを使ったタパスのレシピ本、それと夕食用にクネッケピッツァを買いました。

タパスの本をめくると、普通に食事といっしょに食べるだけでなく、スペイン語のタパスという表現を使い、新しいアペタイザーの提案をされているのがわかります。料理のアイデアに国境はない、SNS時代を反映したアイデアが面白いです。


「Dalatapas」。ダーラナ地方のシェフ、アーティスト、地元食材店が各種クネッケと組み合わせて考えた19種類のタパスレシピが掲載されている。ひと口サイズに割ったクネッケに、ブルーチーズ、にんじん、洋梨、サフラン、チリを入れて炊いたジャムをのせたタパス、チョコレートクリームにバナナを入れたクリームチーズにレモンゼストをトッピングしたデザートタパス等。本文はスウェーデン語のみだが、写真だけみてもアイデアが膨らむ。


クネッケピッツァは冷凍品。ネーミングそのもので、ハムやバジル、チーズをクネッケにのせて焼いて食べるというもの。食べ方はいたって簡単。冷凍のままオーブンで焼くのですが、宿の共同キッチンには電子レンジしかなく、生地がベトベトになってしまいました。本来の味は楽しめませんでしたが想像は出来ます。家でクネッケを焼き、真似てみたら意外な美味しさ。食パンのピザトーストだって一種のアレンジですからね。


「本当に良い!」とうたったクネッケピッツアのポスター。

3種類あるうち、ハム、チーズ、トマトをチョイス。

箱の裏には具材の説明、ライ麦には21%の食物繊維が含まれるとか、ピッツアマイスターHakimi氏によるレシピ協力などの情報が。

やはりレンジ加熱では、パッケージのような仕上がりにならず、本来の完成味を味わえずとほほ…。


いかがですか。チーズをのっけるクラッカーだと簡単に片づけないで、アイデア次第でワクワクするパンに思えてきませんか!? サクッとした口当たりがスープのお供にピッタリだと私は実感しています。それにフムスなどディップとの相性も抜群。適度な塩気でお酒もすすみます。輸入食材店などで見つけたら一度ぜひ手に取ってみてください。
またクネッケはお家でも簡単に焼くことができます。一枚一枚のばして焼くのは手間ですが、手作りならではの美味しさが病みつきになります。


現地での失敗を思い出し、自作のオートミールクネッケをピッツァ風にアレンジ。チーズがとろけてもクネッケはサクッと香ばしい。


て、もうひとつアイスクリームについての話題です。北欧の人たちはアイスクリームが大好き。ヨーロッパでの年間アイスクリーム消費ランキングでは、ジェラートの国イタリアをおいてフィンランドが第一位。「アイスクリームは日課」だとつぶやいたフィンランド人の冷凍庫には、ファミリーサイズのアイスクリームストックが何種類もありました。意外ですが暑い国より寒い国の方がアイスクリームをいっぱい食べるのですよね。

レクサンズクネッケブロードのブティックで買ったアイスクリームはブルーベリー味。やはりスウェーデンならではのフレーバーをもう少し食べてみたくなりました。


Gårds-Glassのブルーベリーアイスクリーム。北欧らしくベリー系フレーバーがポピュラー。

蓋を開けると、蓋の裏にスプーンがセットされていました。日本で食べるブルーベリー味とは違う。チューイングガムの風味は無かったような…。


レトヴィク Rättvik駅に入っていたレトヴィクスグラス Rättviksglassというアイスクリーム屋さんで、ポルカグリス Polkagrisというフレーバーを見つけたので食べてみました。ポルカグリスはステッキの形をした紅白ストライプの飴です。味はこちらの人が大好きなミントフレーバーで、お菓子のトッピングに使われるのをしばしば見かけます。日本だとミントは緑色にするので、知らないで食べるとギャップにのけぞるかもしれませんが! 紅白がクラッシュされ、アイスクリームはかわいいピンク色になりました。


駅の売店でGlass(アイスクリームの意味)ショップ発見。Öppetとあればオープンの目印。スウェーデンの旗立ては斜めで、それに合わせたデザインなのが面白い。

日本人には想像できないピンクのミントフレーバー。左の黒いのはSaltlakrits 〜塩リコリス(甘草)フレーバー。苦甘塩っぱい薬草風味はなかなか馴染めないけれど、北欧の人は大好き。でも全体的にはフルーツ系やお菓子そのものをフレーバーにしたものが多い。

アイスクリームカップの形をした壁掛けのゴミ箱がかわいい。

ストックホルムにあるポルカグリス専門店。看板のステッキのイラストがそれ。千歳飴のような懐かしさがあります。


ミルクとクリームはオーガニックとのこと。爽やかなミント味で思ったよりさっぱりしているけれど、トルコアイスみたいな粘りがありました。イタリアンジェラートとは違うテクスチャーとミルク感。国によってアイスクリームの基準味が違うのだなと思ったのでした。

レトヴィク駅舎。アイスクリーム屋さんは建物の反対側にある。




レクサンドクネッケブロード Leksands Knäckebröd AB
  https://www.leksands.se/

レトヴィクスグラス Rättviksglass
  http://rattviksglass.se/







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