藤沢パン・ド・ナノシュの関谷勝美シェフに教わるパナデリア・パン教室、基礎コース2回目のテーマは<ハード系> 。パンが好きな人なら真っ先にチェックしたいバゲットやカンパーニュ。そしてパン作りをする人にとっても、シンプルゆえの難しさに悩みつつも理想を追い続けたいカテゴリーですよね。
今回仕込んだのは・・・
1.フランスパン
2.全粒粉ブレッド
3.カンパーニュ生地
この3つの基本生地を軸に、形や具にアレンジを加え、お店で実際出しているものを含めて合計7種類のパンを教えていただきました。

まずはフランスパン生地の仕込みからスタート。
フランス産をブレンドした2種類の小麦粉、モルト、水で少しミキシングをしたら30分休ませます。ちょっと待って、塩やイーストは? 実はこれ、休ませている間に生地が自然にまとまる作用を利用したオートリーズという方法。短いミキシングで粉の風味を出したいから塩も後入れです。確かにミキシング直後べとべとだった生地が休ませた後ではまとまった感じ。そこに発酵させるためのルヴァン種とイースト、老麺、塩を加え生地作り。酵母に加えて老麺を使うのは風味を良くするためだそう。平たく素材だけみれば粉と水、イースト、塩だけなのに、時間差で生まれる風味の違いを利用するなど複雑味を出すヒントをいただきました。

「このフランスパン生地からは、バゲット、ごませんべい、それから“Oh茅ヶ崎”という名前で売っているたたみいわしのフーガスを作ります」。

えっ、ごませんべい? たたみいわし?
和風のネーミングと素材で、一体どんなパンになるの?

ふわりとデリケートなバゲットの成形をこなす一方、ごまを混ぜたり、チーズを包んだ生地を麺棒で薄く薄く伸ばしていくギャップが面白い。薄くのばすのも生地が反発するから実はとても大変。しかも均一な厚さにしないと焼きむらが出来てしまうし求めるテクスチャーのパンにならないですよ、と関谷シェフ。何事も仕上がりを想像しながら丁寧にやらなければいけませんね。


水あめみたいにべっとりしたモルトは使いやすいように水と1:1で薄めておくと使いやすい。その分、水の量を差し引くことを忘れずに。

捏ねた生地はオートリーズをとります。まだべとっとした状態。

それがこの通りまとまってのびる生地に。

酵母などを入れ本捏ね。



フランスパン本捏ねの後はフロアタイムへ。

本捏ね生地を一部とりわけ、「ごませんべい」用に黒ゴマをまぜる。





バゲットの成形。関谷シェフの優しく丁寧な生地の扱いですらりと細長い棒状に。

シェフのお手本を見ながら各人バゲットを成形し、キャンバスに寝かせベンチタイムへ。

緊張のクープ入れ。



クープを入れたらすぐに窯へ。

焼き上がりを出し、網に並べる。なかなかの出来!?

薄い皮、中は大小不規則な気泡と色はこれぞバゲット。



“Oh茅ヶ崎”フーガスは、プロセスチーズを包み込んで、


真ん中に縦3本切り込みを入れたらチーズと細かくしたたたみいわしをまぶす。

麺棒で薄く長方形っぽくのばし、

焼き上がりにごま油と醤油を塗れば、食指をそそられる香ばしさ。


薄くのばした「ごませんべい」を天板に並べます。

焼き上がりすぐにしょうゆとごま油を塗れば香ばしいかおりが広がる。



焼きあがったフランスパンは、3種類とも同じ生地からとは思えない見た目。フランスパン生地のフレキシビリティを改めて思い知らされました。バゲットは特に高加水ではない、断面も色合いも昔ながらの様相ですが、食べてみると軽さの中に潜んでいるちょっとした旨みのおかげで、知らず知らずに食べ進んでしまいます。このさりげなさが、味を乗せ足していく2種類の平たいパンへと変身させるポイントなのかも。ビールを飲みながらつまめるパンが作りたかったという関谷シェフ。その狙い通り、パリポリっと手でちぎりながら口に運ぶ度に、ああ飲みたい!とつぶやいてしまいました(笑)。それにしても"Oh茅ヶ崎"って、サーファーの関谷シェフでなくても、シラスを連想させてくれるどんぴしゃなネーミングですね。



2つめの生地はカンパーニュ。
小麦粉に30%ほどライ麦粉を配合し、ルヴァン種とイースト併用の生地を、低い温度で軽く捏ね上げます。理由はふわふわにしたくないから。今回はプレーンなもの、ベリーフロマージュ、ノアレザンの3種類を実習。プレーンではバゲットタイプの棒成形と丸成形を、具入りでは、食べ手の心を掴む組み合わせの妙を学びました。

ミキシングは軽めに。


捏ね上げ温度をチェック。カンパーニュは低めにあげるのがポイント。


3種を作るために生地を分割し、具を混ぜ込んでいく。ドライイチゴとドライパイン芯の角切りを入れてベリーフロマージュ用に。

なんとブルーチーズを混ぜ込む! ノアレザンの適度な隠し味になるそう。

下処理をしたくるみとレーズンをまぜフロアタイムへ。

カンパーニュ生地の棒成形。関谷シェフのやさしい手つきをじっくり観察。

シェフのヘルプを受けながら・・・うーん、生地に負担をかけないで張りのある形にするのは難しい!

ノアレザンをきれいに丸めて。

ベリーフロマージュは、クリームチーズフィリングを塗って巻いていきます。

カンパーニュを焼く直前のクープ入れ。形によって十字や縦、斜めなど表情に違いが出ます。

焼きあがったカンパーニュたちとそれぞれのスライス。





はちみつやお砂糖など、糖分をちょっと加えた関谷シェフのカンパーニュは、ライ麦の酸味も抑えられ、塩けと甘味、適度な木目のタッチが日本人には馴染みやすい。石窯による高温短時間焼成で、皮は香ばしく中身はしっとり、メリハリも出ていい焼き上がりです。甘党には甘酸っぱくクリーミーなベリーフロマージュを。お酒飲みには、肉眼では見えないスパイシーなブルーチーズの旨みがそそるノアレザンがおすすめ。各方面への幅の広げ方、さすがです。


3つ目の生地は全粒粉ブレッド。
基本の小麦粉ベルムーランに国産の全粒粉を混ぜ、風味や食べやすくするための糖類、粉乳、油脂と、深みを出すためにイーストのほか老麺も加えて生地を作ります。そして焼いたのが石窯パン教室の醍醐味〜1kg分割の大きな田舎風全粒パン。一人ずつ木の枝のようなクープを入れ、堂々とした風格のパンが焼きあがりました!

全粒粉ブレッド生地のもちっとした捏ねあがり。

クッションのような生地、発酵状態を均一にするためのパンチは、引きを強くしたくないのでやさしく1回だけ。

1kgに丸めた全粒粉ブレッド生地は、麺棒で表面を平らにしてホイロへ。

粉をふって、木の枝風にクープを入れる。かみそりナイフの角度がポイント

30分でこんがりいい色に焼きあがりました!

気泡は粗めですが、皮は香ばしく、中はふんわりソフトで食べやすい。サンドイッチにしたくなります。


ナノシュのお店では、この全粒粉生地は現在食パン型に入れ焼いているそうです。確かに材料は食パン生地に似ていますが、以前丸形成形で売り出したところまるで売れなかったのが、食パン形にしたところ出るようになったとか。お客さんにとっては見たことのないパンは、食べてみるまで好みの味かどうかはわからず手が出しにくい。まずは馴染みのある見た目に変換してみることも、食べ手に近づくためには大事なこと。
「でも丸形が食べたいと言われたら予約は受けます」。
地元に愛されるパン屋さんの秘密は味だけではない。忙しくても可能な限りお客さんに寄り添う柔軟な姿勢も忘れていません。
「うちは食パン一切れからでも希望があればお売りしますよ。そういう一人暮らしの方が、結構いるのです」。
ネジ1本からでも売るどこかのホームセンターのようですが、一斤買って日に日に鮮度が落ちるパンよりも、毎日ベストな状態のパンを食べて欲しいというパン職人としての思いなのだそう。そんなパンと人への愛情が今回の講習会にもあらわれていました。ありがとうございます!

毎回おいしいと評判のパナデリア特製ランチ。変化に富んだお野菜のプレートは焼きあがったカンパーニュと一緒にいただきました。

月に一度のナノッシュデーのために作成した11月限定エコバッグをお土産にいただだきました。かわいい絵柄はなんと奥様の描いたもの!



次回(12月)はクリスマスらしくシュトレンと飾りパン、それとクロワッサン生地を学びます。次回の報告もお楽しみに。






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