あんぱん試食会、食事パン試食会、ライ麦パン講習会&試食会・・・。パン好きの欲求を満たすべく数々の試食会や講習会を企画してきたパナデリアが、4月から「石窯パン教室」を開催することになりました!今回の講習会は今までとはちょっぴり違います。何が違うかというと、プロを目指す人や、プロ並みの技術を身につけたいと考えている人たちのための教室だということ(詳しいご案内はこちら→ http://www.panaderia.co.jp/panaderia_news/breadschool/index.html)。
この教室、窯や厨房機器を扱う櫛澤電機製作所さんの協力のもとに実現することになったもの。そして4月の開講時期に先駆けて、先日「お試し講習会」が開かれました。パナデリア初のプロ向け講習会、いったいどんなパンが焼き上がるのでしょうか?


(明るい笑顔が魅力の澤畠さん)(パン作りをサポートしてくださる加藤さん)


講習会当日、横浜市新子安にある櫛澤電機製作所に14名の参加者が集まりました。始めに櫛澤電機の名物社長、みっちゃんこと澤畠光弘さんからひとこと。

「みっちゃんです!今年で59歳になりましたが、気持ちだけはいつも青春してます。皆さん、今日は思い切り楽しんでいってください!」

澤畠さんの満面の笑みを見て参加者もすっかりリラックスムードに。
そしてパン作りを担当するのは加藤 晃さん。加藤さんは和菓子、洋菓子作りを経てパン職人を務めたという経歴の持ち主。現在は中小ベーカリー・経営アドバイザーとして幅広く活躍しています。

「私は元々和菓子職人だったんです。パン作りは47歳から始めました。今は石窯にはまっています。今日はまず皆さんにロールパン生地を作ってもらって、その生地からあんぱん、クリームパン、メロンパン、レーズンパンなどの菓子パンを仕上げていこうと思っています。うまくできるかどうかは・・・皆さんの腕次第かな(笑)」



午前10時、いよいよ講習会がスタート!櫛澤電機の一画にある厨房内でパン作りを学んでいくことになります。そこには真ん中に大きな作業台があり、その周りを大型ミキサーやガスコンロ、簡易ホイロなどの業務用機器が取り囲んでいます。一番奥には、櫛澤電機の顔ともいえる溶岩窯が。富士山から切り出した溶岩を貼り付けてあるこの窯は、耐熱性や蓄熱性に優れているため、パンを窯に入れると一気に熱が伝わるのが特徴。特に直焼き(型に入れないもの)のパンに威力を発揮し、クラストがパリパリと香ばしく、クラムは適度な水分を保ちながら軽く焼き上がります。この質感はなかなか家庭用のオーブンでは再現できないそう。業務用の溶岩窯ならではのパン作り、聞けば聞くほど出来上がりが楽しみです。


(粉の量も半端じゃありません)


「今日は2種類の粉を用意してあります。ひとつは内麦(国産小麦)で江別製粉の「はるゆたか」、そしてもうひとつは外麦(外国産小麦)で日本製粉の「ヨット」です。これらを使って別々のロール生地を作ります。粉によっても全然味が変わってくるので比べてみると面白いですよ」

まずは内麦の「はるゆたか」から。皆で手分けして材料を計量します。なんと、1度に仕込む粉の量は4kg!これが家庭なら、せいぜい500gといったところでしょう。材料を入れるボウルの大きさからして全然違います。いったいどれだけのパンができるのか想像もつかないほど。更にレシピをよく見ると、重量の他に%の表示があります。粉100%、イースト2%、砂糖10%、全卵15%・・・。これは何を意味しているのでしょうか?

「これはベーカーズパーセントといって、パンの配合を考える上でなくてはならないもの。粉の重量を100%としてその他の副材料を粉に対する割合で表します。これを覚えておけば、分量を変える時にとても便利。またひと目でどんなパンなのかわかるようになりますよ。慣れてきたら、自分で配合を考えることだって可能です」

一見わかりにくいようですが、説明されて納得。いつかオリジナルのパンが作れたら・・・そんな夢が膨らみます。


(粉の温度をチェックすることも欠かせません)


(捏ね始めの温度の算出方法について説明する加藤さん)


計量を終えたら、材料を混ぜ合わせて捏ねの作業に取り掛かります。

「普通、パン屋ではミキサーを使って捏ねますが、今日は初めてですから手で捏ねていきましょう。ただし、冬は乾燥しているし温度も低いので、手捏ねはとても難しい。そこで、失敗しないように、ちょっと工夫してみます・・・」

粉、イースト、砂糖、塩、スキムミルク、全卵、牛乳、水。バター以外の全ての材料を合わせて、捏ね上げた後の生地温度は27〜28℃が理想。まずはリモコンに手を伸ばした加藤さん、暖房を最強にし部屋をできるだけ温めます。次は粉の温度をチェック、18℃とやや低めです。そこで、水温を50℃まで温めるという荒業を披露。この温度、普通ではありえないような高さ。あまり温度が高くなるとイーストが死んでしまうため、これ以上は上げられないぎりぎりの水温なのだそう。

「ミキサーで捏ねる時にはこんなに高い水温には設定しないけれど、今日は特別。きっと、これくらいで捏ね始めれば、最終的に27〜28℃くらいになるんじゃないかな。パン屋は勘を働かせないとね(笑)」


(まずは業務用ミキサーで材料を合わせて・・・)


(生地を作業台の上に移して皆で捏ね始めます)


(皆さん、捏ねる手つきも様になっています)


全ての材料を業務用ミキサーでざっと合わせた時点で生地温度は31.5℃。家庭で作る時には想像もつかないような大きな塊の生地を、皆で等分して手で捏ねていきます。途中、バターを加えて更に捏ね続けます。なんと加藤さんの予言どおり、捏ね終わった頃には27.5℃に!職人の勘を目の当たりにして、思わずため息が漏れます。更に、業務用ミキサーで捏ねる場合のポイントについても教えていただきました。業務用ミキサーの場合、捏ねている間に摩擦熱で温度が上昇するため、捏ね始めより捏ね終わりの温度が高くなります。そこで捏ね始めの温度を低めに設定するのですが、実は捏ね始めの温度を算出する計算式があるのです。よい生地を作るためにはきちんとした温度管理が必要だということがよくわかるシーンでした。


(ある程度グルテンが出てきたところでバターを投入)


こんな風に説明を交えながら、次々と作業が進行していきます。一次発酵を取っている間にも、クリームパン用のカスタードを炊き、メロンパンの皮用クッキー生地を作成。更に、先に作ったロールパン生地と同じものを、今度は外麦「ヨット」を使って作ります。そして、手を動かしながら、加藤さんがその都度アドバイスを行います。例えば、カスタード作りで牛乳を沸かす時に半量の砂糖を入れるわけや、メロンパンの皮をカリカリに仕上げる特別の方法、重曹とベーキングパウダーの使い分け、内麦と外麦の吸水量の違い等々。レシピどおりに作業を進めるだけではなく、何のための作業なのか、何故そうなるのかを意識しながら作る、それが上達への早道なのかもしれません。


(一次発酵を終えた生地。見るからにふかふか!)


(量りを使ってきっちり分割)


始めに捏ねた「はるゆたか」の生地の一次発酵が終わった頃には、ただでさえ大きかった生地が2倍ほどに膨れ上がり、まるで大きなクッションのようなふかふかの状態に。これを50gずつに分割、更にベンチタイムを取り、その後、成形。そのまま丸めてテーブルパン、餃子を作る要領でクリームを挟んでクリームパン、クッキー生地を上に乗せてメロンパン、おまんじゅうのように餡を包んであんぱんに・・・こうしてひとつのロールパン生地が様々に形を変えていきます。卵もバターも入るリッチな生地なので、アイデア次第で様々な菓子パンに利用できそうです。


(もしや餃子?!いえいえ、クリームパンです)


「はるゆたか」で作った大量の生地の成形を終え、ホイロに入れたところでようやく一段落・・・と思ったら、加藤さんは次の仕事にとりかかっていました。

「これから昼食用のバゲットを焼きますよ。粉は鳥越製粉の「フランス」と「プショプション」をブレンドしています。え?作り方?うーん、これはそう簡単には作れないなあ。経験や勘が必要だから。でも、本コースできちんと学べばきっと作れるようになりますよ」

お昼に間に合わせるため、既に準備してあった生地をオーブンへ。温度設定は260℃と通常よりもかなり高め。溶岩窯は蓄熱性が高いため、高温短時間で一気に焼成することが可能なのです。また、業務用のシーターを使って一度に大量の生地を庫内に移すようすには参加者も興味津々。しばらくすると厨房内は香ばしさに包まれます。そしてオーブンから色よく焼けたバゲットが顔を出すと、思わず歓声が上がって・・・。


(大きなシーターに生地を並べて、まとめてオーブンへ)


(そろそろ焼けたかな?生地の様子をチェック)


(こんがり焼けたバゲット。ん〜おいしそう!)


「せっかくだから焼き立てを食べてみて。さあさあ、どうぞ」

手作りパンの醍醐味はやっぱりこの瞬間!誰もがそう確信したに違いありません。クラストがパリパリっと小気味良い音を奏で、クラムからはほわっと湯気が立ち上ります。そして何より、焼き立ての香ばしさといったら!

(パンに合わせた料理がずらり)(焼きあがったばかりのバゲット。できたてのおいしさは格別!)

(パナデリア三宅もこの日はシェフ?として活躍)


手作りならではの出来たて感を充分に味わったところで、13時半頃ランチタイムとなりました。食堂では、この日は特別にパナデリアの三宅が料理を披露。溶岩窯で焼き上げたパエジャやポテトサラダ、ローストポークバルサミコソース添えやフランス産チーズなど、パンに合わせて作られた品々が並び、ちょっとしたホームパーティーのような雰囲気に。おいしいパンと料理に囲まれての楽しいひとときが過ごせたようです。


(おいしいパンと料理を前に会話も弾みます)


しかし、のんびりとしたムードも束の間、参加者たちには次なる仕事が待ち受けていました。何故なら、昼食前にホイロに入れて二次発酵させた生地が程よい状態に膨らみ、今か今かとオーブンに入れられるのを待っていたから。そう、パンは生きもの。常にパンと会話をしながらパンの都合に合わせて仕事を進めていかなければいけません。パン職人は忙しいのです。


(二次発酵を終えたメロンパン。後は焼くばかり)


(シナモンロール作成中。
生地がいたまないようにすばやく丁寧に)


午前中に成形した「はるゆたか」の生地をオーブンに入れたら、今度は2番目に作った「ヨット」の生地についても分割、ベンチタイム、成形など同様の作業を皆で繰り返します。更に少しアレンジをしてレーズンロールとシナモンロール、チョコカスタードパンの成形も行った後二次発酵、続けて焼成・・・。次から次へと目まぐるしく作業は進み、気がついたときにはおいしそうな香りと共に信じられない量のパンたちが焼き上がっていました。あんぱん、クリームパン、メロンパン、レーズンロール、シナモンロールにチョコカスタードパンと、厨房内はパンの山。いったい何個できたんだろう・・・数え始めましたがとても数え切れる量ではなさそうです。


16時半頃、全ての作業を終了。あんぱんの底からちょっぴり餡がはみ出していたり、メロンパンの皮の一部が剥がれてしまったり、プロと同じようにというわけにはいきませんでしたが、とても“お試し”とは思えないようなできばえ。

「なかなか良くできたんじゃないかな」

と、加藤さんからも合格点をいただきました。そう、今回の講習会を通してパナデリアが何よりも驚かされたのは参加者の皆さんの手際の良さ。手捏ねや成形もリズミカルで、家庭でもかなり作りこんでいるようす。また、指示が与えられるとすばやく作業に取りかかったり、空いた時間を利用してこまめに掃除をしたりと、職人として大切な心得もしっかりと身についているようでした。


(天板一枚分の大きな大きなチョコカスタードパン)


(焼き上がったメロンパン。
所々剥がれていても充分おいしい!)




講習会を終える頃には、焼き上がった端からパンを食べ続けていた参加者の皆さんのお腹はもう限界のようす。散々試食をしつくした後は残ったパンを皆で山分け(本当に、山分けという言葉がぴったり!)しました。大量の生地を仕込み、たくさんのパンに囲まれた一日を過ごした参加者たち。家庭で行うパン作りとは全く異なる、プロならではの現場の雰囲気や仕事の流れなどを実感することができたに違いありません。中には、既に本コースへの参加を希望している人たちも。いつか教室を卒業した人たちの中からプロの職人が誕生したら・・・そんな日を夢見て、これからパナデリアも一緒に歩んでいきたいと思います!