5月13日、櫛澤電機製作所にてパナデリア石窯パン教室・基本コース2回目の授業が行われました。(第1回のレポートはこちら

集合時間の午前9時、エプロンを締めて厨房に向かうと、そこにはキビキビと作業を進めている講師の加藤さんの姿がありました。どうやら既に一仕事を終えているようす。

「皆さんのお昼のパンを作ってるんですよ。先に作っておかないと間に合わないからね」

昼食に焼きたてのパンを食べる・・・そう考えただけでもワクワクします。受講者のテンションが一気に高まったところで、いよいよ授業スタートです!  今回のテーマは「クロワッサン生地」「デニッシュ生地」「折込みパイ生地」の3種類。まずは、1日の作業手順の説明から。

「最初にクロワッサン用の練り生地とデニッシュ用の練り生地を作ります。それを休ませている間にフィリング用のカスタードを炊いてアップルパイ用のスポンジの焼成。それからクロワッサンとデニッシュの折込み、そして折りパイ生地作り、胡桃フィリングとサワーチェリーフィリングを作って・・・」

え〜、そ、そんなに?!

「そう。手際良くやらないといつまでたっても終わらないよ(笑)」

説明を聞いているだけでも頭が混乱しそう。でも、これをクリアしなければパン屋さんにはなれないのです。何故って、実際にお店ではこういったことが日常的に行われているのですから。早速、皆で手分けして計量から始めます。


ミキサーで攪拌したスポンジ生地。
量が多いから天板に移すのも一苦労




あらかじめ渡されていた配合表を見てみると、例えばクロワッサンなら、日本製粉の国産小麦(内麦)「ジャパネスク」と日清製粉の外国産小麦(外麦)「スーパーカメリア」を合わせて使用すると書いてあります。これには何かわけがあるのでしょうか?

「国産小麦は旨みがあるけれど、これだけで作るとクロワッサン特有のサックリ感が出にくいんです。だから今回は内麦と外麦をブレンドして作ります。試しに内麦のジャパネスク100%のものも作ってみますから、後で比べてみるといいですよ」

粉の違いでどこまで食感が変わってくるのか、焼き上がりが楽しみです。


業務用のパイローラーで薄く伸ばした生地を3つ折に


更にもうひとつ。今回作る3種の生地(クロワッサン生地、デニッシュ生地、折込みパイ生地)、これらは、バターを練り生地で包んで折り込んでいくという作業自体は変わりません。それではいったい何が違うのでしょうか。

「クロワッサンとデニッシュに関しては様々な配合のものがありますが、一般的にはデニッシュの方がリッチな生地。砂糖や卵が多めのリッチな配合です。それから折込みパイ生地はイーストが入っていないもの。お菓子屋で作るパイと同じです。他の2つの生地とは全然食感が変わってくると思いますよ」

1度に何種類もの生地を比べられるというのも、この教室の魅力。更に、クロワッサン生地には低水分で伸びの良い「カルピス低水分バター」を使用するなど、素材選びにも徹底的にこだわります。


デニッシュ用胡桃のフィリング。
スポンジ、胡桃、バター、砂糖・・・
いろんなものを混ぜ合わせます



クロワッサン用の練り生地の計量を終えると、加藤先生はすぐに温度計で粉、卵、牛乳の温度をチェック。卵と牛乳の温度が低かったため、水を少し温めて合わせることにしました。こうすることで、捏ね上がり時に理想的な温度になるように配慮しているのです。実はこれがとても大事な作業。イーストが活動しやすい生地温に調整してあげることで、生地が充分に膨らむことができるというわけなのです。材料の温度調整をしたら、全ての材料をミキサーボウルに入れて捏ね上げた後、冷蔵庫で1時間ほど休ませます。
デニッシュ生地に関しても同様に作って休ませたら、その間にカスタードクリームとスポンジ生地を作成。それから先に冷やしておいたクロワッサン用の練り生地を四角く伸ばしてバターを包み込み、その後いよいよ折込み作業に入ります。


3つ折を3回終えた大きな生地を二等辺三角形にカット


この折込み作業、家庭で作る場合との大きな違いは業務用のパイローラーを使用するということ。とにかく驚かされたのが、その大きさ。全長が2.5m、幅が1m程もあるどっしりとした機械は、存在感も充分!これさえあれば折込み作業だって恐くはありません。生地をローラーにかければ瞬時に好みの厚さに伸ばしてくれるのです。後は機械で伸ばした生地を折りたためばOK。しかし、全て機械任せにすればいいというわけではありません。

「ローラーにかける前に、必ず生地の状態をチェックすること。練り生地の部分とバターの部分が同じ硬さになっていないと、両者が上手に伸びてくれません。それから、絶対にバターを柔らかくしすぎないこと。バターが溶けてしまうと層が綺麗にできませんから。とにかく素早く作業しましょう!」

簡単そうに見える作業でも、実際にやってみるとそんなに楽々とはいかないもの。それでも何度かトライするうちに、受講者たちもコツがつかめてきたようです。そう、慣れてしまえばこんなに力強い味方はないのですから。“家にも1台あったらな・・・”きっと誰もがそう思ったはず?!




クロワッサン生地の3つ折を2回行ったら、続いてデニッシュ生地の折込み、折込みパイ生地の作成、サワーチェリーのフィリング、クロワッサン生地とデニッシュ生地の3回目の折込み、折込みパイ生地の折込み、胡桃フィリングの作成・・・。とにかく次々と作業が押し寄せてきます。そんな中印象的だったのが、加藤先生はどんな時でも全ての作業を念頭に入れながら作業しているということ。「折込みパイ生地のミキシングはそろそろいい頃ですね」とか「もうすぐ冷やしておいたデニッシュ生地の3回目の折込ができますよ」などと、手を動かしている最中にも、頭では次の、そのまた次の作業のことを考える・・・そうすることで効率良く進めていくことができるのでしょう。
3つ折り3回を終えたクロワッサン生地とデニッシュ生地をカットして成形、ホイロに入れたところでようやくひと段落。


たっぷりレーズンを乗せてロール状に


パイ生地とリンゴのコンポートの間にスポンジを。
こうすればパイがサクサクのまま!



そして14時半、加藤先生が用意してくれたパンを囲んでのランチタイムとなりました。

「焼き立てだと、まだ味が馴染んでいないんだけどね」

ということですが・・・いえいえ、それでも十分おいしい!焼き立てならではのカリカリッと香ばしいクラストやほわほわのクラムに、思わず頬が緩みます。


ショーソン作成中。
長方形に伸ばしてロール状に巻いた生地を
薄くカットし、麺棒で楕円形に伸ばします



1時間ほどで昼食を終えて厨房に戻ると、ホイロの中のパン生地たちが程よい具合に膨らんで、今か今かと待ち構えていました。ここで、いよいよオーブンへ!
“パン作りって楽しい!”と思うのはやっぱりこの瞬間。厨房中が香ばしさに包まれ、次から次へとパンが焼きあがる光景は何度見ても飽きないもの。そして焼きあがったパンをその場で食べる楽しみ・・・これがあるからパン作りはやめられません。特に出来たてのクロワッサンやデニッシュ、パイのおいしさといったら!昼食にさんざんパンをいただいていたにもかかわらず、ついつい手が伸びてしまいます。


胡桃のデニッシュにアイシングをかけて仕上げます


カルピス低水分バターを使ったクロワッサンは上品なバターの風味とさらりとした口当り。石窯でサックリ焼き上げられ、油っぽさも感じられないのでいくらでも食べられそうです。また、クロワッサン生地ならチーズ、ソーセージ、ベーコン&玉ねぎを巻いたもの、デニッシュならカスタード&フレッシュフルーツ、カスタード&チェリーのコンポート、くるみフィリング、そして折込みパイ生地ならショーソンやアップルパイなど、ひとつの生地が様々に形を変えて焼き上がるさまに歓声が上がります。アイデア次第でいくらでもアレンジが可能だというのもこれらの生地の魅力。
更に粉の違いについての発見もありました。ジャパネスク+スーパーカメリアで作った生地は、サクサクッと焼き上がっていてクロワッサンらしいもの。これに対してジャパネスク100%で作った生地は、少し時間がたつと焼き立てのサックリ感がなくなって普通のパンっぽいものに。ただし、ジャパネスク100%のものは生地の旨みがあっておいしい、というのが共通した意見でした。どちらを選ぶかは作り手次第。粉の選択やブレンド方法などもできるようになると、ますますパン作りの楽しみが広がりそうです。


思い思いにフルーツをトッピングして完成!


当日は朝から雨がちらつくあいにくのお天気。でも、たとえ雨だろうが嵐だろうがパン作りの楽しみは変わりません。大好きなパンの焼き上がりを想像していたら、それだけでも気分は晴れやかになるもの。皆さん、朝から意気揚揚と作業に取り組んでいる姿が印象的でした。“おいしいパンを作りたい”そんなパンへの愛情がますます強まったに違いありません!


実習後の勉強会では熱心に質問が飛び交う場面も




〜 今回作ったパンたち 〜
クロワッサン(ジャパネスク+スーパーカメリア)
クロワッサン・オ・ザマンド
ベーコン&チーズのクロワッサン
チーズクロワッサン
ウインナークロワッサン
クロワッサン(ジャパネスク100%)
胡桃のデニッシュ
サワーチェリーのデニッシュ
フレッシュフルーツのデニッシュ
パン・オ・レザン(デニッシュ生地)
ショーソン・ナポリタン(折込みパイ生地)
アップルパイ(折込みパイ生地)