Aigre-Douce 
寺井 則彦さん
 
<経歴>

1965年 神奈川県生まれ
調理師学校卒業後、「ルノートル」「ラミデュパン」を経て渡欧。
「トリアノン」「ダム」「ジャック」「ジャン・ミエ」にて研修後、「ル・コルドン・ブルー」パリ校・東京校にて教鞭をとる。
「オテル・ドゥ・ミクニ」のシェフ・パティシエを経て、2004年2月「エーグルドゥース」を開店。
2003年クープドモンドパティスリー部門にて第二位入賞

   


寺井シェフが永年思い描いてきたケーキへのイメージを現実のものとしたステージで、そのメリハリある味作りは初めて食べた人を魅了する。そしてもう一度食べたくなる強烈な力がある。オープニングでエーグルドゥースを紹介してから早2ヶ月、シェフの味作りへの思いを聞いてみた。


エーグルドゥースの印象として、誰もが「フランス」を意識するのではないだろうか。 シックな店内に、華やかで少し大ぶりなケーキ。寺井シェフの作るお菓子には以前からフランスのエスプリを強く感じていたが、自店となりその想いは更に強いものとなった。寺井シェフの考えるフランス菓子について伺うと、前回取材時と同じ「フランコ・ジャポネ」という言葉が返ってきた。

「フランス菓子に対して僕らは外人ですから、目標としては「フランコ・ジャポネ」。日本の素材を使っても、"出来上がったものをフランス人が食べて美味しいと感じるかどうか"が基準です。また、あまり突拍子も無いことをするのもどうかと思うので、お菓子の地方色・歴史的背景・現代のスタイルにあうかを考えますね。」

「お菓子を食べる時の雰囲気は大事。高いワインを家で飲んでも美味しくないでしょう。」シェフの思いは、"食するスタイル"にも及ぶ。修業時代に経験したフランスの生活文化が源であった。

「フランスでは、日曜日の昼にホールのお菓子を買って家族や仲間で切り分けて食べる習慣があります。大きなお菓子を切り分けて、みんなでわいわい言いながら食べる楽しさを知りました。残念ながら日本ではそのような習慣がありませんが、パティシエとしてそんな食べ方をしてくれれば最高に嬉しいですね。」

ミクニ時代にアンルトメ(生のホール状のお菓子)を出したこともあるそうだが、持ち歩き時間や保管温度の面で難しかった。そんな経験からエーグルドゥースのスペシャリテであるケークが生まれたのである。



「焼き菓子だったら、どこへでも持っていける。」生菓子とはまた違った美味しさだが、時間的・温度的な制約が無いのが利点。ケークと言ったら日本人にも馴染み深いお菓子だが、寺井シェフのそれは他店とは違ったとても奥深いものである。

「僕のケークはベースの生地自体が何種類かあって、イチジクだったらイチジクのペーストで生地を作ったりします。その辺は自信ありというか、よそとは違う味が出せる部分だと思います。また、風味や食感を変えるなどしてバリエーションをつけています。色々な種類を作ることで、お客様に選んでもらう楽しさが生まれるので。」

また、その個性的な形状に興味がわいた。大きな天板で焼き上げたものをカットした様にも見えるが、これはオリジナルで発注した型を使っている。「これですよ。」と言って見せてくれた型は、若干上が開いているものの断面は正方形に近い。視覚的な満足感もお菓子の大切な要素であることを大切にしているのであろう。「贈り物であっても、やっぱりみんなで切り分けて食べて欲しい。宅急便で送るお菓子ではなく、持って行って楽しめるようなものにしたい。」という寺井シェフ、ケーク類のラッピングにも気を配っている。





「チョコレートの細工などでお菓子を飾ることはあまりしません。それよりもお菓子自体に手間とコストをかけたい。」という。食材選びは、自分の舌が頼りだそうだ。

「お菓子屋さんは「XXのメーカーの△△が良いらしい」といったように耳や目から情報を得ることが多いのですが、僕はレストランを経験することで味から選ぶようになりました。自分で食べてみて美味しいと思うものを選択する。例えば、いちごのピューレ。さすがに国産は使いませんが、フランスの高級メーカーのピューレを使うんだったら、価格帯を抑えたメーカーのホールのものを自分でミキサーにかけて使う。その方が、金額も安いし美味しいのです。」

また、構成を常に考えているそうだ。

「アプリコットのムースを作る際に、風味を強くしようとピューレの量を増やすと食感が変わってくる。じゃあどうするかと言うと、ドライアプリコットをペースト状にしてピューレに加え、強い味のピューレを作ります。そうすると、風味と食感の両方を良い状態に作り上げることが出来る。メインの味をまわりでどう補足していくか、またどう強調するのか、これは常に考えていますね。」

もともと口数の多い方ではないのであろう。しかし、お菓子へのこだわりのことについて話すシェフは饒舌であり、職人としての強い意志を感じた。端正な顔立ちからも強く真っ直ぐなイメージがあるが、こんな話と共に素敵な笑顔も見せてくれた。

「窓際のショーケースには、フランスのように色々なお菓子を並べたい。近所のおじいちゃん・おばあちゃんが散歩の途中に見てくれて、それからお店に入ってくれることもあるんです。あと、通園途中の幼稚園児。楽しそうにショーケースを覗いているのが厨房の中からも見えると、すごく嬉しいんですよ。」


Aigre-Douce
東京都新宿区下落合3−22−13
03−5988−0330

寺井さんの秘密