その昔、大名の参勤交代や旅人が利用した東海道。当時は神奈川県下にも数多くの旅籠や茶屋が存在したという。 今回お話を伺ったエスプランは旧東海道に面し、江戸時代から「覇王樹(さぼてん)茶屋」として知られた店。庶民的な鶴見の商店街でパッと目を引くヨーロッパ調の外観とは対照的に永年にわたり東海道を見守ってきた歴史ある店なのである。





  「自分のやりたいことを全て盛り込んでみようと、思いきって作ってしまいました」

石造りを思わせる建物、落ち着いたグリーンを基調とした広々とした店内、富士山の溶岩石を使用したスペイン風石窯、そしてパンやケーキを食べられるようにと広めにとったイートインスペース。とにかく全てが充実している、そんな印象を受けた。 塩田シェフが生まれた頃の店名は「エスプラン洋菓子店」、その名の通り洋菓子を売る店だった。母親の実家がベーカリーだったことからパンもやるようになったのだという。

  「学生時代、どうしてもパンを習いたくて、休みを利用してパン屋に住み込みで修業したりしていました。同じ釜の飯というんでしょうか、他人と一緒に生活をするのが楽しくて。それもあってどんどんベーカリーの世界にはまってしまいました。この店をリニューアルオープンする時にも修業時代の仲間たちが手伝ってくれたんですよ」

熱心にパン作りを修業する仲間との充実した日々、話し振りからその様子がうかがえる。

  「大学卒業後は他のベーカリーで修業しました。エスプランに戻ってからもどうしてもベーカリーをやりたくて、今から20年前に本格的にベーカリーをスタートしたんです」





そして昨年、大規模なリニューアルオープンをはたした。

  「前の店のままで終わってしまったら後悔する。自分の人生の中で精一杯やったと思える形にしたかったんです」眠っている可能性を活用したいという思いと、背負うべきリスク、そのジレンマ。それを打破してくれたのが、息子の一言だった。 「パン屋を継ぐ、と言ってくれましてね。実は息子に背中を押されたような気もしているんですよ」





リニューアルに際し、パン作りで一番変わったのは富士山の溶岩石を使った石窯を使うようになったことだろう。

  「この溶岩窯は横浜で初めてなんです。思いきって導入したんですが、最初の2ヶ月間は全然だめでした。火抜けの良くないフランスパンになってしまい、どうしても想い描くパンにならない。毎日試行錯誤の繰り返しでした。あるとき思いきって普通ではやらない高温で焼いてみたところうまくいった。本当に嬉しかったですね。コツをつかんでからはいいパンが焼けるようになりました。次にこの窯を使う人が苦労せずすぐに使いこなせるように、苦労したノウハウを伝えていきたいです」



その後も尊敬する方々に食べてもらい、更にアドバイスを受けたことが自信になったのだという。

  「そのように高温で焼成しますから、普段見慣れたフランスパンより濃く焼きあがります。今までの焼き色の薄いパンに慣れていたお客さまには“焦げている”と感じられてしまうこともあるんですよ。石窯で焼く利点をきちんと口で説明して黒い色への抵抗を徐々になくし、おいしさをわかってもらえればと思います」

店内には石窯らしいカリッとふっくらしたハード系の他、本格的なドイツパン、サンドイッチ、そして惣菜パンなどバラエティ豊か。リニューアル前は惣菜パンの割合が多かったというが。

  「鶴見だからこう、というラインナップにはしたくないんです。ハード系やドイツパンも、会話を通して、またサンドイッチとして食べ方を紹介するなどでおいしさをわかってもらえればいいと思います。ライ麦パンを始めたのはつい最近。国内産の甲斐小麦を自分で石臼挽きにして使うものもあります。少しずつでいいので自分のやりたいパンに移行したいですね」




その塩田さんのパン屋の理想はアンデルセン。

  「夢がありますよね。品揃えなどパンについてももちろんですが、素材や社風など考え方が好きなんです。実はサンドイッチの素材にもいつも注目しているんですよ」 自慢のハバティチーズを使ったサンドイッチもアンデルセンからヒントを得たものだそうだ。 「製品はもちろんですが、大切なのは販売。うちでは必ず朝礼をやっています。掃除のこと、挨拶のこと、自分の考えをきちんとスタッフに伝えてきたい。それがお客様への対応につながっていくと思っています」

今まで自分が経験してたどり着いた考えを若い人にも伝えたい、父親のような厳しさとやさしさが伝わってくる。

  「リニューアルで一番感じたのは、たくさんの人に支えられているということ。人とのつながりからすばらしい職人や技術者に出会うことができ、世界が広がりました。パン屋ですから技術を学ぶのはもちろんですが、技術的なことは真似できるもの。それ以外の社会人としてのあり方を含め、下を育てていきたい。それがベーカリーオーナーとしてのあるべき姿じゃないかと思っています」

店内を見渡すと年配の方から主婦、若者まで幅広い。秋口までには自分の姿勢が見えるような店にしたいと話す塩田さん。新旧のお客さん、その両方が満足できるような夢のあるパン屋が先祖代々の土地で形になる日は近い。


お店で人気のコーヒーあんパンは
生クリームとコーヒー風味餡の2層になっています。






住所横浜市鶴見区鶴見中央4-1-7
TEL045-501-2147
営業時間7:00〜19:00
定休日日曜日
アクセス 京急鶴見駅より徒歩1分、
JR鶴見駅より徒歩5分
URLhttp://www.esplan.co.jp