京王線高幡不動駅前に店を構えて今年で12年。「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」の藤生義治シェフは、日本に本格フランス菓子を根付かせてきた先駆者のひとりである。パリやウィーンなど、ヨーロッパでの修業時代に学んだ味を再現することに魂を注いできた。伝統的な生菓子や焼き菓子、ヴィエノワズリなどが店内を賑やかに彩るさまは、ヨーロッパのパティスリーそのものの雰囲気である。



前回の取材時には「生菓子、焼き菓子だけではなくもっともっと充実させていきたい」と抱負を語っていた藤生さん。早速「フジウ」の今について伺ってみた。



「お菓子作りに対する意欲やフランス菓子への想いなど、基本的なところは同じですね。フランスや日本で長年培ってきたことをできるだけ紹介できればと思っています」


最近藤生さんはコンフィズリーに力を入れている。コンフィズリーとは砂糖菓子の総称。コンポート、ボンボン、ヌガー、プラリネ、キャラメル、パート・ド・フリュイなどが含まれ、ヨーロッパでは古くから親しまれているお菓子である。



「ひとくちにコンフィズリーといってもさまざまな種類があるんですが、私が作っているのは気軽に食べてもらいたいもの。お茶の時間にというよりももっと気軽な感覚で、ちょっとした合間にぽんと口に放り込むような感じかな」


早速藤生さんは店内に並べてあるキャニスターの中からあるコンフィズリーを一粒つかんで口の中へと放り込んだ。次第に藤生さんの頬がほころんでいく。


「これはボンボンフィユテという、いわゆるキャンディです。アーモンド入りとヘーゼルナッツ入りの2種類あって、こちらはアーモンドのボンボン。舐めるのではなくて噛んでみて」


べっ甲色にキラキラと輝くボンボンは眺めているだけでも楽しい。藤生さんに勧められるまま口に運んだ。いわゆるキャンディとは違う初めての食感。コリコリとしている飴のような部分、サクッとしたパイのような部分、そして甘い蜜の香り、それらが一体となって味の調和をなし、それを追いかけるようにアーモンドの香りがふっと喉を通り抜ける。生菓子や焼き菓子にはない、どこか懐かしさを感じさせる甘い香り。藤生さんもそんなところに惹かれているのかもしれない。

それにしても、どうしたらこんなに印象深い食感が生まれるのだろう。


「飴を150度以上の高温に煮詰めて伸ばし、プラリネを包んで折りたたんでいきます。そうするとほろっと崩れるような食感になるんです」


飴を伸ばして折りたたむことで空気が入った状態で層ができるため、特有のもろい食感が生まれるそうだ。伸ばし方や折る回数、また入れるプラリネの量などによっても風味が左右されてしまう。わずか2cm四方の小さな世界の中に、職人の技が凝縮されているのだ。


「でも、何よりも大切なのは鮮度ですよ」 藤生さんは強調する。


「できたてって、本当においしい。それが、コンフィズリーを自分で作るようになって一番強く感じていることなんです。だからできるだけこまめに作るように気をつけています」


「フジウ」に並んでいるボンボンやキャラメル、パート・ド・フリュイなどのコンフィズリーも、新しいものと時間が経ったものとでは全く味が違うという。



鮮度にこだわるのはコンフィズリーに限ったことではない。例えばナッツ類。焼き菓子などに頻繁に登場するアーモンドパウダーなどは鮮度が命だからと、自家製にこだわる。専用の機械(ブロワイユーズ)を使ってアーモンドを挽き、できたパウダーを3〜4日のうちに使い切るようにしている。これらの新鮮なパウダーで作ったお菓子は驚くほど風味が強い。これが本来のナッツの味、そして香りだったのかと驚いてしまう。


「焼き菓子も新しいほうが断然おいしいんです。無理に日持ちさせたくないから、基本的にエージレスを使っていません」




こまめに仕込んだり自家製のアーモンドパウダーを使用するなどということは、毎日多くの仕事を抱えている職人にとってかなり手間のかかることだと思われる。しかし、藤生さんにとっては特別なことではないらしい。こうした価値観はヨーロッパでの修業時代に端を発している。


「私が修業していたころは当たり前のことだったんですよ。コンフィズリーも丁寧に店で作っていたし、ブロワイユーズも持っていた。ところが、今のフランスでは自家製が少なくなっていると聞いています。ボンボンなんかはどんどん工場化しているみたいだからなあ」


遠くを見つめながらちょっと寂しそうな表情を浮かべていた藤生さん。藤生さんの頭の中には、手間暇かけて丁寧にお菓子を作り上げていた古き良き職人の姿が鮮明に記憶されている。今は貴重だからこそ、自分が伝道師としてその良さを伝えていこう、そんなメッセージが「フジウ」のお菓子には託されているのかもしれない。


(藤生シェフ?)


パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ
住所 東京都日野市高幡17−8スピカビル1F
TEL042-591-0121
FAX042-594-3332
営業時間8:00〜20:00
(イートインスペースは19:30ラストオーダー)
定休日無休