実力派パティスリーの多い東京西エリアに昨年10月オープンした「ル・ジャルダン・ブルー」。ケーキの明るいトーン、ムースの軽い口溶け、フルーツとチョコレートを組み合わせるバランスの良さが印象に残り、いずれ是非シェフの話を聞いてみたいと思っていた店の1つだった。



店を訪れてまず目に入るのは、ファサードの爽やかなブルーと店の前いっぱいに並べられた鉢植え。通りには桜並木が見え、これからの季節の美しい景色が思わず目に浮かんだ。店内は白を基調にした色合いが爽やかで、広々とした空間が気持ち良い。




「実家は石川県です。和菓子の消費量1位という場所柄、和菓子には慣れ親しんでいました。学生の頃に進路を決めて、大阪の辻調理師専門学校へ入ったのですが、当時は製菓コースがなく、料理コースの中で菓子を専攻していました。料理というのは素材を凝縮していくものですが、お菓子は形のないところから素材を膨らますもの。お菓子のそういう面が自分には合っているな、と思いました。それに、鳥の内臓を触ったりする日々の仕事を想像すると、お菓子の方が楽しいと感じて(笑)」

自身の方向性を、パティシエの道へと定めた福田シェフ。卒業後は神戸の「アンテノール」に入り、その実力が認められて、2001年にはクープ・ドゥ・モンド ショコラ部門の日本代表に選ばれた。六本木ヒルズクラブの五十嵐宏シェフ、浦和ロイヤルパインズホテルの朝田 晋平シェフとともに戦い、見事、世界第二位という輝かしい栄誉を手にしたことは記憶に新しい。

念願の渡仏を果たしたのは、その後。36歳の時だった。

「アンテノール時代、ベルギーへスタージュに行かせてもらい、すごくショックを受けたんです。『いずれ、自分で必ず来なくちゃいけない!』とその時からずっと思っていました」

今はデパ地下スイーツでお馴染みのアンテノールだが、当時は今のような企業形態ではなかったという。

「アンテノールは、フレッシュ感を活かしたケーキが得意だったんですよ」

福田シェフというとショコラの印象が強いが、もうひとつの得意分野がフルーツものだ。幼い頃は自分で採りに行って食べたというから、そのフレッシュ感のある味の記憶が今にいきているのだろう。

しかし、福田シェフの目指すものはさらに先にあった。もっと個性のあるケーキを作りたい、きっとこのままだと後悔する…、そんな想いに駆り立てられるように、コンクール、そしてフランス行きを決意する。

「フランスで感じたのは、ダイナミックさと感性の豊かさ。行く前は、向こうのケーキは味が濃くてお酒が強い大人のケーキというイメージがあったんです。でも実際は、お酒もそれほど使わないし、子供から大人までおいしく食べられるケーキが多かった。味は濃いというか、素材の味を凝縮させたもの。最初は濃いと感じましたが、だんだんとその味が自分の中に取り込まれていったんでしょうね。今は意識しなくても、その味を好んで作るようになり、自分の味になっています」

感性を活かした表現の仕方、そして味作りの面で大きな影響を受けた福田シェフ。フランスに行く前とでは、基本は同じだが味は全然違うという。

「フランス人は小麦、卵など素材の違いには、それほどこだわってないんじゃないでしょうか。修業先では生クリームはロングライフの1種類しかなかったほど。逆に日本では、色々な種類があって選ぶのが難しいんですよ」



フランスで受けた刺激は素材だけではない。

「向こうで使っていた窯は、朝250℃にしたら後は一度も加熱しないんですよ。出し入れのスピードはもちろん、焼く温度を考えて生地を入れる順番にも頭を使いましたね」

文化の面で、フランスでカルチャーショックを受けるパティシエも多いが、福田シェフはその点では、それほど違いは感じなかったという。異文化といっても基本的には同じ人と人との交わり、福田シェフの目にはそう映った。そして、それと同じ思いをケーキにも馳せる。

「お菓子の素材や技術も基本的には同じもの。素材の種類や細かい技術以前にもっと大切なものがあるんじゃないかと感じたんです」

36歳での渡仏は、平均よりかなり遅い。技術、そして人間としての経験を充分に積んだ上での渡仏は、得るものの種類、そして質も違う。便利さを求めて進化する日本を離れ、フランスで見つけたのは、本質を見極めることだったのかもしれない。


実際には、どんな思いでケーキを作っているのだろう。

「フランスで感じたケーキを表現したいと思って作っていますね。ベースはフランス菓子だけど、上に生クリームを絞ったりして自分なりにアレンジしています。それから、フランスのようにポーションも大きめに、フルーツも落ちるほど乗せたケーキを作りたいんです」

生クリームは、ムースの色をキレイに見せるためには白味の強いものを、風味を活かしたいものには乳風味の強いものを選ぶ。また、ショコラを使ったムースには軽さを出すためにパータボンブを使い、独特の風味が特徴のヴァローナのマンジャリ(クーベルチュールチョコレート)を使うケーキ「マンジャリ」のみ、アングレーズベースでチョコレートの味を際立たせる。日本で培ったフレッシュ感とやさしさ、そしてフランスの感性が見事に融合している。



フランスで受けた大きな影響はもうひとつある。

「修業したのは、パリから30分ほどの所にあるフォンテンブローという町です。シェフはピエール・エルメ氏と一緒に仕事をしていた人物。そう聞くと都会的なイメージを想像しますが、使う素材やクオリティは同じでも、都心とではラインナップが全然違うんですよ。そこでの経験を通して、自分には郊外店のケーキや姿勢の方がしっくりくるような気がしたんです。実は、店をオープンする時も、この場所か代々木上原かで、最後の最後まで迷っていたんです。でも、無理をして都心で勝負するよりも、背伸びせず楽しく作れるここの方が自分に合っているような気がして」

郊外とはいえ、都心からのアクセスも良く、住宅街ということから食べ手のレベルもかなり高い。郊外店という客層には向かないかな、と思ったケーキも、予想外に売れ行きが良いという。




「新しいケーキを作るときは、考えている時間の方が長いですね。ある程度頭の中で決めておくので、試作は少ないです。商品は育っていくもの、微調整をすることで成長していけばいいと思っています。味が良くなる分には喜んでもらえると思うので」

現在アイテム数は、生ケーキ、焼き菓子ともに約30種類を揃える。

「どんなケーキを作って行くかということは、常に考えています。売上げの良い日は『自分のやりたいものを作れば大丈夫だ』と思うんですが、お客様があまり来ない日は『これじゃいけないのかな』と弱気になったりして。今までは店を出すことが目標でしたが、達成した今もまだまだ勉強中。3年先を考えて、お客様とのやり取りの中からつかんでいきたいです」

現在スタッフ数はシェフを含めて12名。今後はヴィエノワズリーや、ボンボンショコラもやっていきたいと夢は広がる。



最後に店名について伺った。

「フランスのノルマンディーにオンフルールというすごくきれいな港町があるんですよ。そこでのんびりしていた時、ふと上を見上げると真っ青な空にカモメが飛んでいた。それで、『あ、ジャルダンブルーだ』とひらめいたんです」


Le Jardin Bleu<青い庭園>。空を庭に見立てたなんと詩的な店名だろう。そのイメージはケーキとぴったり重なった。清々しい青空に想いを馳せた、福田シェフの夢は今日も続く。






住所 東京都多摩市乞田1163
TEL042-339-0691
営業時間10:00〜20:00
定休日火曜(祝・祭日の場合は翌日)
アクセス小田急線 永山駅より徒歩10分
その他イートインスペースあり