今年の2月、あちこちからピエール・エルメのニューショップの噂が聞こえてきた。場所は青山、ファッション性の高さでも知られるエルメらしい立地だ。最初のホテルニューオータニ、そして幕張のイクスピアリに次いで、今回はどんなコンセプトで展開するのだろうかと期待が高まる。パリが拠点のピエール・エルメだが、日本での躍進の背景にはある人物の存在がある。エルメ氏の片腕、リシャール・ルデュ氏だ。今回は、実際に日本でのエルメの味を作ってきたルデュ氏にお話を伺った。




「出身はクレモンフェラン、フランスの真ん中にあります。最初は、旅行がしたくてレストランに入ったんです。実は、調理師、パティシエ、ショコラティエ、ブーランジェの国家資格を持っているんですよ。田舎ではパティシエとしてデセールを担当したり、ブティックでケーキを作ったりもしました。パティシエの仕事は調理よりも細かいですよね、でもとても面白くて。その後、料理人としてパリ、サンテティエンナをまわりました。」

サンテティエンナのレストランとは、3つ星レストランで知られる「ピエール・ガルニエール」のこと。そこでスーシェフを努めたというから、その力量がうかがえる。

「そしてパリに戻り、今度はパティシエとしてフォションに入りました。ピエール・エルメに出会ったのはそのときです。当時シェフだったエルメとはその時からの付き合いで、一緒に色々な仕事をしてきました。本の出版やプロモーション、そして日本の一号店であるホテルニューオータニのショップの立ち上げもそうですね」

フォションを出た後も、エルメ氏がシェフ・パティシエを務めるラデュレでスーシェフになるなど、パートナーとして活躍してきた。日本のショップはオープン以来一任され、今年で約7年になるという。

「田舎のレストランで仕事をしていたときは、自分でマーケットに行き素材を選んでいました。良さそうな素材が見つかると、次はどんな料理にしようか考える。楽しかったですよ、それにとても勉強になりました」

数ある素材の中から、その日状態の良い物を選んで仕入れる。パリでは主に業者から仕入れるというから、このときにケーキにとらわれない素材を見極め、おいしさを引き出す目を養ったと言える。

「今もパリへ帰ったときには、ピエール・エルメと一緒によくマーケットに行きますよ。彼はアイデアが豊富で、ケーキ以外にも、肉や魚料理など思いつくと何でも作ってみる。だからマーケットに行く時は結構大変!日本に来たときには、神戸牛や米、それにマヨネーズなんかも買って帰るんですよ」

今までにない素材を取り入れ、組み合わせて、魔法のように新しい味を生み出す。料理からこの世界に入ったルデュ氏、エルメ氏とは根底にある素材への捉え方に通じるところがあるのかもしれない。

「パリとは毎日連絡を取っています。それに1〜2ヶ月に一度はパリに帰って、エルメ氏と一緒に新商品の試作やレシピ作り、それから新しい組み合わせを考えています」

エルメ氏の考え方やケーキへの想いを理解しているルデュ氏だからこそ、日本で氏のケーキを再現することが可能なのかもしれない。


ルデュさんにとってのエルメの魅力を伺ってみた。

「そうですね、素材の組み合わせに楽しさがあるところですね。彼のいたフォションでは、ショーケースがとてもきれいで、楽しさがあふれていました」

ただおいしいだけではない、エルメのケーキには美しさ、そして楽しさがある。また、ファッション性というのも、エルメのケーキにとって欠かせない要素だ。最近面白いのが、形やテクスチャーを変えての提案。例えばマカロン生地にフランボワーズとライチ、そしてバラを組み合わせたイスパハン。味のベースはそのままに、コンフィチュール、パートドフリュイ、焼き菓子そしてグラスに入れたエモーションなどで展開している。同じ味とはいえ、食感そして素材のバランスの違いから、それぞれが完成された全く違うものとして昇華している。

「ファッション界では、モノグラムデザインを色々なパターンにアレンジして展開する。それと同じイメージなんです」

ファッションに欠かせない流行と新鮮さ、時間の流れも大切な要素だ。パリで発表された新作は、ほぼ同時に日本でも展開されると言う。



フランスで生まれ育ち、パティシエとして日本での生活も長いルデュ氏。その目に日本のスイーツはどう映るのだろうか。

「日本のレベルは上がり、フランスは逆に下がっているように感じます。昔パリには、クロワッサンだけを販売するブティックや色々なパティスリーがあって、街を歩いているとすごく楽しかった思い出があります」

日本語も堪能で、今ではすっかり日本になじんでいるルデュ氏。しかし、最初からそうではなかった。

「最初の2年間は辛かったですね。どこへ行っても表示が日本語でしか書いていないし、日本語が全然わからなくて・・・。その後、一度フランスへ戻ったのですが、また日本へ戻ってくることになったんです。今度は言葉が少しずつわかるようになり、そこから日本の文化が見えてきた。日本の文化は表面からは分かりにくい、でも言葉を通してわかるようになり面白かったですね。ただ、あのサムライから今への変化はイメージできませんが」

旅行好きがきっかけで、この道を選んだルデュ氏。ケーキだけに留まらない新しいものへの好奇心は、エルメ氏のケーキと重なる。そのルデュ氏の目下の好奇心は中国、時間を見つけ年に1,2度は北京を訪れるそうだ。
「この店舗のコンセプトは、『ラグジュアリー コンビニエンス』。コンビニだったら24時間働かなくちゃいけない(笑)!」

店舗は、ケーキやマカロンが美しいショーケースに加えて、焼き菓子やショコラなどの種類が豊富。2Fのバー・ショコラではゆっくりとショコラを楽しめるようになっている。営業時間も9時までと遅く、利便性の高さはまさに「ラグジュアリー コンビニエンス」といえる。





日本での生活をいかして、和の味を提案することもあるというルデュ氏。ジャンル、そして国を超えて創作を続けるピエール・エルメ、そしてリシャール・ルデュの世界はこれからも広がり続けるだろう。






ピエール・エルメ・パリ
住所 東京都港区神宮前5-51-8 ラ・ポルト青山
TEL03-5485-7766
営業時間11:00〜21:00
定休日無休
アクセス東京メトロ表参道駅B2出口より徒歩5分