ブランジェ浅野屋四谷店

平 和生 氏


1970年、東京生まれ。
高校卒業後、麹町「ブローニューキムラヤ」で
修業したのち、1991年現店へ



近隣のオフィスに勤めるOLに絶大なる支持を得る浅野屋は、1933年麹町に酒販店として開業しましたが、麹町という外国の人が多い土地柄に影響されいつしかパン製造を開始、そして1972年に現在の土地でパン屋として新たなるスタートを切りました。
今日では、本格的なハード系食事パンや昔懐かしい菓子パンなどを求めるお客さんで、店はいつもいっぱいです。

浅野屋といえば、なんといっても店の奥にど〜んと設えてある石窯で有名。四谷本店、軽井沢店、どちらにも置いてある大型石窯ですが、四谷店には1987年に日本初の「スペイン製円形レンガ室石窯」として設置されました。耐火レンガ、穴あきレンガが約3000個、約30トンが使用され、約400年耐久すると言われてます。残念ながら四谷店では消防法の関係で、薪が使えずガスを使い火を起こしていますが、火の波長が長いなどの効果は変わらず、石窯ならではの遠赤外線効果が得られます。そうして石窯で焼かれたパンは芯から火が通るので、皮が薄くボリュームのあるのが特徴です。

この石窯を使い、毎日美味しいパンを焼いてくれているのがシェフの平さん。料理など作ることが好きで、なにかを作る仕事をしたいと考えていたところ、知人にパン屋さんを紹介されたのがきっかけとなり、この業界に入ったそう。そして仕事を始めるとこれが思いのほか楽しく、すっかりはまってしまったとか。
平さんのパン作りは、焼きあがった最終的な状態のパンを思い描き、それを基にパン作りの工程や温度管理を設定していくそうです。工程を積み重ねて作った結果のパンでなく、「こういうパンを作る」という観念から逆に工程を辿り・・・、という逆算的発想が、焼き上がりの美しい浅野屋のパンを生む秘密なのかもしれません。

このような工程の積み上げにより生まれた浅野屋のパン、その中でも人気の高いパン・ド・カンパーニュなどヨーロッパの伝統的パンは、ヨーロッパ古来の製法、つまりフランス産小麦と、生ぶどうと干しぶどうを混合したものから起こす自家製酵母、それと塩だけで作られています。そして自慢の石窯で焼き上げたパンは、粉本来の味を存分に味わうことのできる、滋味深いものとして通の人をも満足させています。
ちなみに浅野屋の自家製酵母は約一ヶ月で使い切るようにしているとか。というのは、工場内ではイーストも使っているため、そのイーストが自家製酵母に混入し風味が変わってしまうからだそうです。そのため一日に多く作ることができないので、「どうしてもあのもちっとしたカンパーニュが食べたい!」というときは予約をした方が無難です。

さて、軽井沢店と四谷店と味に違いはあるのでしょうか?平さんに尋ねてみると・・・「確かに軽井沢店の方が美味しいとよく言われるのですが。まぁ、石窯の燃料の違いと(軽井沢店は薪、四谷はガス)、あとは気圧が違うので焼き上がりが違うという話もあります。それと水も違います。軽井沢店は軽井沢の水ですが、東京は軽井沢の水を使いませんので。」
この違い、ちょっと気になりますね。軽井沢店のパンを宅配して、味の違いを確かめてみるのも面白いかもしれません。

浅野屋では、店内にライ麦パンの食べ方や、パンの保存の方法などを説明したプリントを置いたり、2階にレストランを設けるなどして、食生活をトータルで考えその一部としてのパンを提案しています。そのままパンだけ食べても美味しいものもいっぱいありますが、スタッフの方にアドバイスをしてもらい、献立に合わせたパンを選んでみるのも手、思いがけない美味しさに出会えるかもしれませんね。
取材日 1998年



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