ベルグフェルド 山田 明 氏

1945年東京生まれ。脱サラ後、神戸の「フロインドリーブ」で修業。その後現在の地に「ベルグフェルド」をオープンさせ、オーナーシェフとなる。


鎌倉駅から歩くとかなりある。行きやすい場所とは決して言えないこの店だが、取材中、本当にお客さんは絶えなかった。店主の山田氏は残念ながら留守であったが、代わりにチェックのエプロン姿で店頭で働く樗木さんが私たちスタッフの質問に対応してくださった。
 
脱サラして23年。神戸フロインドリーブで4年修行した後、サラリーマン時代住んでいたここ鎌倉に店を出した山田氏である。今年20年目を迎える「ベルグフェルド」の味は昔のままだ。リボン型のクロワッサンや薄い円形のお菓子ダッチなどにフロインドリーブでの修業時代をかいま見ることができる。
店に並ぶのはオーソドックスなドイツパンやドイツ菓子が中心だが、1階のパン工場の他に3階にケーキ工場があり、シュークリームやモンブランなどの生ケーキもある。平日と土、日では焼くパンの種類がちょっと変わり、土、日には菓子パンの種類が増える。が、あくまで主食になるパンを中心に、という姿勢を貫く山田氏である。
さて、脱サラして始めたパン屋はなぜドイツパンだったのか。なぜ主食パンにこだわるのか。その山田氏の心を樗木さんが語ってくださった。

まだサラリーマンをして鎌倉に住んでいた頃。近くに住む外国人夫婦の家に招待された山田氏がその時口にしたのがドイツパン、その美味しさに感動し、もしパン屋をやるならドイツパンと思ったそうだ。そして実際パン屋を始めた頃、山田氏には小さいお子さんがいた。成長していく子供達でも安心して口にできるものを。そう思った氏はサワー種を使ったパン作りを始める。なんといっても一日の食事の上で一番多くの量を占めるのが主食である。一番体内に多く入ってくる主食が安全なものでなければという信念から主食パンにこだわりを持っているのである。
 
文化人も多く、食レベルの高い鎌倉の地では、日本人に入り込みにくいと思われがちなドイツパンもすんなり受け入れられた。ここのパンはライ麦を使っていても通常のドイツパンより酸味が少ない。ドイツパン初心者でも抵抗なく口に入る。粉は最上級のもの、バターにはカルピスバターを使い、ナッツ入りのパンには惜しげもなくナッツが入れられ、フルーツ入りのタルトには旬のフルーツがふんだんに使われる。パンもお菓子も贅沢なのだが「ざっくり」したドイツをイメージさせる食感が、どことなく素朴さを感じさせるのも確かなのである。
 
グレーがかったサワー種をチーフの富田氏がまぜている。開店当初からつないでいる酵母だ。ここには様々な思いが込められているのだろう。朝4時半から働いている職人さんたちはみんなにこやかであった。
昨年の1月から隣にカフェを併設した。焼きたてのパン、できたてのケーキを食べて「美味しい」と顔をほころばせるお客さんの顔がみたかったという山田氏の心がまたひとつ形になって現れた。
「ベルグフェルド」、ドイツ語で山や丘を表す「ベルグ」と畑や田んぼを表す「フェルド」。
そう、その名の通りこのお店は「山田」氏の心が形になったお店なのである。

取材日 1998年



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