ブレドール

安部茂憲・橋本宗茂
オーナー橋本氏…葉山ボンジュールで工場長まで勤めた後2年半前にブレドールをオープンさせる。

店長安部氏…調理学校卒業後、そのまま助手をしていたが現場に出たくて葉山ボンジュールへ。そこで橋本氏と出会う。ブレドール創立スタッフ。2年前スイスで3週間の研修も。


「釜から出たての美味しさはその場でしか味わえない。パンの焼き立ての美味しさを1度食べてもらいたい」これを実践すべくイートインスペースでは朝、焼き立てパンの食べ放題が実施されている。オープンの8時前からそれを目当てにお客さんが店の前に並ぶ。パン屋が多い葉山に2年半前店を出したのは、同じく葉山にある老舗パン屋「ボンジュール」で工場長まで勤めた橋本氏である。

「ボンジュール」で働いていた時代からコンビを組んでいた橋本氏と若い安部氏を中心に、「ボンジュール」とはひと味もふた味も違った品揃えと提供の仕方で、「ブレドール」はオープンした。対面式でお客さんと直に接し、イートインでは和の焼きものの器でパンを提供したり、遊び心のきいた形のパンがあったりと、若手や消費者であるお客さんの意見を積極的に取り入れている橋本さんの柔軟性がところどころに表れている店である。

「ブレドール」では天然酵母や国産小麦を使ったパンも提供している。流行りとも言えるこれらの素材について、「口に入れるものだから安全性は前提であり、『うちのパンは体にいい自家製酵母や小麦を使っています』とうたうことはしていない」と安部氏がいえば、「その前提の上で食べて美味しいというのが一番。美味しさは十人十色で、食べた人すべてに美味しいといわせる事はできないが、10人いたら3人は『ブレドールのパンじゃないとダメ!』という人がいてほしい」と橋本氏が続ける。

探求し続けた結果、現在使っている粉は何と10種近く。これらを商品によってブレンドして使っている。また、美味しいけれど高級だからと手を出す職人が少ないフランスのエシュレバターを使用しているパンもある。こうした素材を使ってはいるが、特別高級なパンではなく、ごくごく普通の食事パンを中心とした商品構成だ。食パンやぶどうパン、ハード系のパン、ちょっとしたデニッシュ…。にもかかわらず、ちょっとした手土産にとこれらのパンを買って行く人が多いというのはすごいことではないだろうか。なぜなら「ブレドール」は「フォション」や「ダロワイヨ」といった数少ない手土産要素があるブランドパン屋ではない。つまり手土産になりにくいパンという商品にもかかわらず、ブランドとしてではなく、味として、わざわざ買って人にも食べさせたくなるパンということだからである。

美味しいパンの背景は素材だけではない。
仕事の後や休みの日はサーフィンをしているという安部氏は、正直いって一見朝5時から働いている職人には見えない若者である。安部氏を前に店長という肩書きを知って驚いてしまう人も多いと思う。「自分の感性が1番だとは思っていない」という橋本氏は安部氏をはじめ年の離れた若い人の感性を大切にして、一緒になって意見をぶつけ合い、新しいものを生み出していく。そんな、老舗ではなかなかできなかったことがこのお店では行われている。生み出された商品は活きがよくて魅力的だ。力のある味がするのは気のせいではない。スタッフのパワーの証である。
オープン当初は4人だった製造スタッフも現在は6人。このチームワークが生み出す味はただものではないのである。
取材日 1999年


ブレドールの秘密