セ・ラ・セゾン

清水 康生 氏

 長くいたキハチからの独立は、数年前、40才を前にしたときに、今後10年をどう生きていこうかと考えたときに出した結論です。
大学時代、親戚の和食店で調理場に入ってアルバイトをしたことがあります。もともと好きだった料理の道へ進もうと決意したのは、それがきっかけです。そしてそのとき既に「将来は自分の店を持とう」という気持ちがあったことを、40才を前にして思い出したんです。

 キハチ時代は、本当に多くのことを学びました。レストランだから、食料庫をのぞけばおもしろい食材や香辛料が揃っている。それを使ってケーキを試作したりもしました。どんどん店舗が拡大するにつれ、最初自分ひとりだったパティシエも増えていきました。ショップの展開も始まりました。大きくなるキハチの姿をずっと見られたことは嬉しいことです。そして、拡大につれて料理人やパティシエだけでない多くの人に出会えたことも、今、僕の財産です。

 ムッシュ(熊谷喜八さんのこと)は海外などにもよく行く方でしたから、そこで食べたものの話をしてくれることがありました。それをヒントに店でも何か作ってみないかということも。スイカのゼリーなどがその例です。僕自身は食べたこともない、見たこともないものだけれど、自分なりに作り上げたイメージでベストの配合を生み出していき、完成しましたね。

黒ごまのプリンは、最初いたずらで作っていたんですよ。そのあと、ある本の撮影で、少し変わったものを出そうということになり、それを作りました。僕としてはかなりお気に入りだったんですが、ショーケースに並べるととてもお菓子とは言えないくすんだ色だし、定番メニューとして多くの人が常に買うものになるという自信はなかった。だから、3年ほどはそのままになっていたんです。あるとき、「夏は黒い食べ物が売れる」という話を聞き、ふとそのごまのプリンを思い出したんです。そして8月限定で出してみた。これが評判になり9月も引き続き出すことに。さらに引き続き・・・と言っている間に定番になったんです。

新しく自分の店を持っても、面白い和の食材には興味があります。今考えているのは、「香りの移る」もの。桜餅が桜の葉をはがしてもお餅にほのかに香りが残ったり、ささの香りがお饅頭にうつったり、竹の香りが羊羹にうつったり。和菓子だと色々ありますよね。ああいうイメージで何か洋菓子も作れないかと考えているんです。

僕のお菓子はかしこまらず、パクパク食べるお菓子だと思っています。高級住宅地ほど気取りすぎず、少し下町感もあるこの街で、まずはしっかりお客様に信頼されるお店つくりをしていきたいですね。
取材日 2001年3月

セ・ラ・セゾン
神奈川県相模原市中央6−13−1
TEL:042-769-7355


清水さんの秘密