コヌレ広尾

加賀 和子 氏

お菓子は好きだったけれど、10年くらいずっとOLをやっていました。昔、ケーキを作るアルバイトをやっていたことがあるんですが、その時の知り合いがデザートを作る人を探しているって声をかけてくれたんです。やってみようかなとデザート作りを始めたお店が飯倉の『キャンティ』でした。みなさんに比べてずいぶん遅いスタートでしょう。

色々なことを教えていただきながらそのまま10年働きました。景気の好かった時代の景気のいいお店だからこそギスギスせずにいられたのかもしれませんね。それからフランスに1年半。もうすぐ40という時で、これが最後のチャンスかなあと思いきって日本を後にしましたね。イタリア菓子をやりながら、いつでもどこかフランスを意識するところがありました。だから一度はフランスを見てみたいという気持ちがあったんです。イタリアにも寄ってきましたが、どちらも生活にお菓子が入り込んでいるなあってつくづく感じて帰ってきました。

戻ってからは引き続き『キャンティ』で2年間働き、その後『キャンティ』スタッフがオープンさせた『アッピア』というレストランで1年デザートを担当しました。バブルが崩壊して時代が変わっても『キャンティ』や『アッピア』はお客様の要望に応えていこうとするレストラン。デザートもまたしかりです。「こんなデザート作って」という要望に色々応えてきました。

その後『アッピア』も近い、ここ広尾にお店を持ちました。スタッフはみんな女性です。レストランで出すデザートと違って、ケーキはケースの中でも何時間かとどまるし、お客さんが家に持ち帰ってからも口に運ぶまでは数時間経ってしまうこともあります。そういう意味で、レストランそのままの出来立て感を出すことは難しい。ですが、ゼリーやティラミスなど予約をいただいて大皿で作っておくこともやっています。中には「このお皿にヨロシクね」って自分でお皿を持ってこられる方もいます。取りにこられる時間、口に入れる時間が分かっていると出来立て感のあるお菓子も可能なんですよね。お客さんはちょっと年配の方が多いかな。

この店のスタッフは元気な女性ばかりです。少ない人数でやっていますから、「最近はちょっと売れていないな」「今月は調子がいいな」なんてことも、言わなくても分かってくれます。お店では"まかない当番"もあるんですよ。みんなでまかない飯を食べるケーキ屋って珍しいでしょう。年に2,3回はスタッフ全員がちゃんと正装して高級フレンチやイタリアンを食べにも行きます。美味しいものを食べることは作り手として必ず役に立ちますから。

今後、作ってみたいと思っているお菓子があるんです。それは『キャンティ』時代に学んだお菓子。今はレストランでも出されず、眠っているお菓子です。それはそれは素晴らしい、あのレストランでしかなかったお菓子がいくつもあるんですよ。せっかくそれを学んだのだから、いずれそれらを出していきたいなあと思っています。
取材日 2000年9月


加賀さんの秘密