クープ・ド・キュール

金子 裕 氏

 フランス料理がスタートでした。80年代後半のことですから、なんといってもフランス料理が格好良かったんですよ。両親が共働きだったので、子供の頃からフライパンは握っていました。高校を出て、とにかくフランスに行ってやると思っていたのですが、周囲に止められました。まず、日本のレストランに入って、渡仏はそれからでもいいじゃないかと。それで、『レカン』の厨房に入れさせてもらったんです。

 途中でパティスリーに配属になったのが運命でした。粉と砂糖とバターと卵という材料が基本になっているお菓子って、たくさんの食材を使う料理よりも狭い分だけ奥が深いような気がしたんです。創作感の強さもあった。専門的にやっていくならこれしかない、と思うようになったんです。

その後、八王子の『ル・フォワイエ』に4年いたあと、フランス、リュクセンブルグに合計2年。ヨーロッパでは、お菓子自体というより店で働く人の姿勢に強く感銘を受けました。リュクセンブルグでいた店がとてもよかった。上を目指そうとしているヤツらが何人かいて、そいつらの意気込みと鋭い感性は半端じゃなかったんです。日本ではなかなかいないと心底思いました。なるべく彼らの近くにいって、いろいろ吸収しようと毎日を過ごしました。僕のお菓子作りのモットーでもある、シンプルな中にひと工夫というのは、ここで学んだところが大きいと思っています。

バターの香りが好きなんです。だから、今お菓子に使っているのはほとんどが発酵バター。ヨーロッパではお菓子には等級の低いバターを使っていることが多い。日本のほうが高いクラスのバターが使えます。それを活かして、タルト生地などはなるべくいい香りを出すように心がけています。寒い時期はタルトがショーケースに多く並びますが、これからどんどん暖かくなるにつれてフルーツをたくさん使うようになりますね。ケースの中も華やかになりますよ。タルトでもヨーロッパっぽくフレッシュのフルーツをそのまま焼いたりします。

業者さんが持ってきてくれる新しい素材なども面白いですが、基本的にはベーシックな素材と季節のフレッシュなフルーツが僕のケーキのベース。それをどう組み合わせたらいいか、どうひと工夫させて完成させようかが楽しい。

昔働いていたところとは違い、小さいからこそ今この店は、お客様の声が直接伝わる楽しさもあります。将来は、最高の状態でお菓子を提供でき、目の前でお客様の美味しい顔が見えるカフェをやりたいですね。

取材日 2001年3月












金子さんの秘密