ル・スリール・ダンジュ
木村勝司さん 
<経歴>

高校卒業後、フランス料理店「テラズ」の製菓部に勤務し、レピキュリアン、帝国ホテルのベーカリー部で経験を積む。
その後和光ルショワに入り、
03年2月に独立。3月末に「ル・スリール・ダンジュ」をオープン

   



小さい頃から料理には興味があり、将来は寿司か京料理の板前になりたかったんです。高校生の時アルバイトをしていたレストランにそのまま就職し、卒業と同時に東京の系列店の製菓部で働き始めました。その頃から、10年後に店を持つと決めていたので、逆算して常に「今やっておかなければいけないこと」を考えていました。


レピキュリアンにはオープンした頃に入りました。働いた期間は6ヶ月と短かったのですが、金子哲也シェフに学んだことはとても大きかったです。妥協がなく厳しい方なので当時は正直つらかったですが、職人とは何かというものを教わったような気がします。
その厳しさに触れたことで、それまでの漠然とした不安やおぼろげだった夢がはっきりとしたんです。金子さんに出会っていなかったら、いまごろ菓子屋をやってはいなかっただろうなと思うくらいですよ。
ヴィエノワズリを初めてやったのもレピキュリアンです。
今でもちょくちょく遊びに行っていますが、業者さんを紹介してもらったり、優しくしてもらっています。

その後2週間くらいお菓子にやる気を失っていた時期があったのですが、それならパンやヴィエノワズリをやろうと帝国ホテルのベーカリー部に入りました。3日後に山崎隆二さんが新しいシェフに就任され、手取り足取り親切に教えていただきました。クープ・ドゥ・モンドに向けての練習を間近で見ることができたのも貴重な経験です。ただ、ホテルは収入も安定しているし恵まれた環境ではあるのですが、自分の中では「町場の個人店」というイメージがずっとあったので、長く勤めようという気持ちはおこりませんでした。


人との出会いには本当に恵まれていると思うのですが、その後入った和光でもちょうどシェフが堀江新さんに代わった直後でした。教わることは最先端のことばかり、しかも根拠や理由などもはっきり教えてくれるのでとても勉強になりました。店を持ってからも相談にのってもらったり本当に親切にしてもらっています。オープニングスタッフが立て続けに店を辞めてしまった時があったんですが、そのとき自分の店から毎日一人ずつスタッフをまわしてくれたのも堀江さんです。

和光では、ショコラティエのシェフだった川口行彦さんにも同様に「パティシエは科学者でなくてはいけない」と、温度管理の大切さなどを教えてもらいました。とてもレベルの高い店でしたが、それについていけたのも金子さんを見ていたからだと思います。


いろんなシェフについて仕事をしてきましたが、自分が店を持ってみると、そういう先輩方の言っていたことの正しさ、厳しさの裏にある優しさがよくわかるんですね。いま、スタッフに仕事を教えたり、後輩から相談を持ちかけられたときには、金子さんや堀江さんたちに学んだことを自分なりに伝えていくようにしています。

いま、パティシエブームと言われて30代の方々が活躍されていますが、それをブームで終わらせたくない、そのためには自分達のような次の世代ががんばらなければと思っています。ただ、がむしゃらに頑張ってつらくなるようでは元も子もないので、スタッフには時間を決めて集中して頑張ったら、プライベートの時間も大切にするよう言っています。それからコミュニケーションをしっかりとるように、とも。休みたいとき、早く帰りたいときは無理せず言ってほしいし、意見や希望があれば心にためず何でも言ってほしい。うちは男女の区別なく働いてもらっていますが、働く年数も自分で決めて目標をもって臨んでほしいと思います。


今年一年は原価計算をせずに、自分が作りたいもの、満足いくものを精一杯作ろうと思っています。中には原価率70%を超えるケーキもあるんです。それでもお客さんがつかなければ仕方ないけれど、まずはお客さんがついてくれるのが何よりも大切だと思うからです。自分の店だから経営もできなければいけないけれど、徐々にトータルなバランスのとれた職人になれればいいと思っています。作るケーキも、今は自分の知ってることは最大限スタッフに教えたいという気持ちもあって、デコレーションも手を抜きたくはないんです。歳とともにシンプルになっていくのかもしれませんが、金子さんに言われた「四角いものは四角く、丸いものは丸く」という言葉の意味が今はよくわかるんです。

コンフィズリやボンボンも置きたいし、イートインのスペースもいずれ作りたい。この土地で、目の届く範囲でやるということには変わりありませんが、少しずつ大きくしていきたいと思っています。いまの「10年後の夢」はこの場所にケーキ屋、パン屋、ビストロが並んで建っていることですね。現在は目下、焼き菓子の種類を増やすこととパンやヴィエノワズリを充実させることに奮闘中です。




2003年10月21日取材


ル・スリール・ダンジュ

東京都国分寺市西元町2-17-10
042-304-3255


木村さんの秘密