デフェール 

安食 雄二 氏

ケーキといえば、駅前の大手の店のしか知らなかったです。だから、初めて練馬の『ら・利す帆ん』のケーキを食べたときは、そのデコレーションの美しさや美味しさにびっくりした。そこで住み込みで4年働きました。住み込みは、それまで遊びほうけの生活をしていた身には辛かったですねえ。

サーフィンをやっていたので、休みにはよく神奈川方面に行っていたのですが、あるとき『鴫立亭』のケーキを食べてまたびっくりしました! さらにフランス菓子らしい、繊細で美しいデコレーションと小ぶりで甘いその味に憧れ、結局ここでも住み込みで2年働かせてもらいました。

振り返ると、『ら・利す帆ん』ではとにかく数をこなしましたから、スピードを叩き込まれましたね。『鴫立亭』ではプロ意識とか、仕事に対する姿勢を身につけた。そしてその後のホテルでは、皿盛りをやったり、隣のベーカリーでパンを教えてもらったりと、さらにお菓子の幅広い部分を学んだ気がします。

ホテルという環境は、コンクールに出やすい環境でもあり、これが僕にとっては大きかったですね。一番嬉しかったのは、『マンダリンナポレオン』という世界大会で優勝したことです。世界大会で日本人が優勝することは珍しいことではありませんが、多くの場合、細工ものが評価され、味でヨーロッパの出場者を越えたり、審査員を唸らせることは難しいんです。でも、この時は味が評価された。ヨーロッパ中からそうそうたるメンバーが審査員として集っていたのですが、自分が美味しいと思ったものを、彼らヨーロッパの人々が美味しいと言ってくれたことは本当に大きな自信につながりました。

その後、パンなども学んで、今に至ります。実家が工務店で、兄は設計士、弟は大工。だから、この店の設計と工事は彼らと相談しながらすすめました。開店以来、店のケーキは本当によく食べていますよ。出来立ての、状態のいいときじゃ意味がないです。店に売れ残った、一番状態の悪いときを食べて味をチェックしないと。

でもね、素材も技術も大切ですが、それ以上に大切なのは気持ち。スタッフにもよく言うんです。「技術以前に、ハートのあるお菓子、魂のこもったお菓子を作ろう」って。気持ちは、ショーケースのガラス越しに絶対お客様にも伝わるから。僕が最初にデコレーションケーキを作ったのは、『ら・利す帆ん』に入りたての頃。遊びほうけていた学生時代、しょっちゅう泣かせていた母親の誕生日にです。

まだクリームの絞りも上手にできなくて、見た目だってお世辞にも美しいとは言えないケーキでした。でも、それを「おめでとう」って言ってあげたら、母親はぼろぼろぼろぼろ涙を流して喜んだ。本当に嬉しかったんだと思う。そしてお菓子を作ることって、これだなあ、こういうことだなあと今でも思うんです。"気持ち"なんです。心を入れて作ったお菓子、お客様を喜ばせるのはこれしかありません。このポリシーを持って、この店にどんどん磨きをかけていかれればと思っています。

取材日 2001年11月














デフェール
横浜市青葉区美しが丘1-5-3
TEL:045-901-3911

安食さんの秘密