アントレ

高木康裕 氏


 僕はこの店の2代目にあたります。子供の頃から「菓子屋になれ」と言われていたかというと、その逆。「この店はお父さんとお母さんの店なんだから、おまえは菓子屋になることはないんだよ」ってずっと言われ続けていました。実際、僕の通っていた高校は大学までエスカレーター式に行かれるようなところだったんです。菓子屋になる前提なんてなかったんですね。

 子供の頃から厨房に入って生地をさわって遊んだりはしていましたよ。自分で作るってやっぱり楽しいわけですよね。なのに「菓子屋にならなくていい」と言われれば、逆に「やらせてよ」という気持ちになっちゃったわけです。それで、高校のとき「製菓専門学校に行く」って親に言いました。親父は「厳しい世界だぞ。でもやると決めたらしっかりやれ」って。そして、にやって笑った。あれ、もしかしたら僕、はめられたのかもしれないなって思ったけど、それは未だにわかりませんね。

 専門学校を出たあと、フランスで1年、帰国してから2店のお店で修業して24才のときこの店に戻ってきました。先輩達からは、「もっとほかで修業してから戻ったほうがいい」ってしきりに言われましたが、自分としては、かえって他の店で修業していたほうがお菓子に対して甘えが出てしまうのではないか、という気持ちもあって戻るほうをとりました。
 戻った当初、親父とはもちろんしょっちゅうぶつかりましたよ。それも些細なことで。例えば、卵の割り方とか洗い物の順序とかそんなのです。普通だったら、上のやっていることが違うと思ってもなかなか口に出せないものですよね、だから、めんと向かっていえるのは親子でやっている醍醐味といえるかもしれないです。
 お菓子に対しては親も僕も"手間を惜しまない"という意見で一致しています。手間や時間をかけたからってお菓子の値段に跳ね返すことはないです。そんなことで儲けるより、お客様には頻繁に店に足を運んで欲しいですから。値段は高くはしません。

 今の僕がお菓子作りで念頭に置いているのは"フルーツとの競演"です。フランスでは、生地そのものを食べることが多い。だから焼きっぱなしのお菓子なんかが人気ですよね。でも日本人はフルーツが好き。季節の本当に美味しいフルーツをうまくクリームや生地と調和させながら相乗効果を持たせるよう、味のバランスを工夫しています。
フルーツをはじめ、魅せられちゃう素材ってあるんですよ。例えば雷峰というイチゴ。中まで真っ赤で、酸味も甘味も強くて。美味しい分、値段も安くはないんですが、この時期イチゴを使ったものは全部これにしています。あとはバニラ。日本には殆ど入ってこないメキシコ産です。実はバニラってメキシコが原産なんですよ。タヒチ産とマダガスカル産を足して2で割ったような香りで、ちょっと他ではないと思います。
でもね、こういう珍しいものをうたい文句にしようとは思わないんです。そんなことよりも作り手が気持ちを込めて作ったお菓子。食べたとき、お客様にもその気持が味の中に伝わるような、そんなお菓子を作っていきたいと思います。
取材日 2001年3月

アントレ
千葉県船橋市海神6-8-2
TEL:047-434-8353


高木さんの秘密