イマージュ

花口 庄太郎 氏
調理師学校卒業後、神戸の「アンリシャルパンティエ」で13年間。97年11月、出身地である広島に「イマージュ」をオープンさせる。


休日に洋菓子店に取材に行ったことは何度もある。店にずらりと人が並んでいるお店も渋滞ができてしまうような店もあった。しかし、こんなにバースデーケーキが出ているお店は今までなかった。ほんの1時間たらずに、一体何人が「Happy birthday」の文字がプレートに書かれた丸いケーキを購入していっただろう。予約していた人、当日飛び込みの人。オープンしてわずか1年半というのに、なんて地元の人に信頼され、愛されているお店なのだろうと感じずにはいられなかった。

花口氏が最初に目指していたのはコック。関西の調理師学校に通い、幅広く料理を学ぶうちに、肉や魚を使った料理より素材のアレンジ次第で様々な味や顔になるお菓子というものに興味を持ったのが洋菓子界に進んだきっかけという。加えて「店を持ちたい、洋菓子店ならレストランより店を持ちやすいのでは」という思いもそれに拍車をかけた。卒業後は地元の広島に帰らず、神戸の「アンリシャルパンティエ」に就職した。

自分のお店を持つまでに何軒かの店で修業するパティシエが多い中で、学校を卒業してからここ「イマージュ」をオープンさせる一昨年までに、在籍したお店は最初に就職した神戸の「アンリシャルパンティエ」一軒。13年間のうち最初の5年は現場でお客様に提供するケーキを作っていたが、後の8年は商品開発や企画をする部門に所属し、お菓子を作るだけではなく、他のお菓子屋さんを足でまわったり、外に出ることが多かったという。プライベートではなく外に出ることが多いという経験は、数軒のお店を何年かごとに動いて修業した人には、あるようでいてなかなかない経験かもしれない。

そんな経験から、自然に商品作りや味作りの勘は磨かれたのだろうか。
生まれた土地とはいえ、修業した地とは違う広島という地で店をオープンするにあたっても、特別地域に合わせた味を作るという苦労はしていないという。「軽さ」や「甘さ」、「デコレーション」や「素材」、そのどれもにつっぱったこだわりは持っていない。「自分が美味しいと思うものだけを作っています」と、強く言うようなこともない。笑顔で口にしたのは「あんまり肩肘張ると、僕が疲れちゃうからね」というナチュラルな一言だった。

ややあっさりめに作られたケーキは、組み立てられた味のバランス、デコレーションされたフルーツとケーキ本体との調和、食感とどれも見事だ。きっとこういうのを「センス」と言うのだろう。35%〜42%のクリーム、発酵、有塩、無塩のバターをそれぞれうまく使いこなし旬の素材を盛り込んでいく。技とセンスである。そんな味にひかれる人々は男女年齢を問わない。「子供から大人まで美味しく楽しめるお菓子を作りたい」という氏の意志に沿って、ファミリーでやってくる人、若いカップル、男性1人と客層も、おそらくは食べている人も様々だ。

「オープンしてここまで、スムーズにやってこられた。これからも期待を裏切らないようにやっていきたい。まだまだこれからです。気になっている素材などを使って商品も増やしていきたい」という氏がこれから取り組みたいものの一つに、パンがある。現在クロワッサンとブリオッシュ生地をつかった数種類のパンがお店に並んでいるが、パンをもっと研究し、ゆくゆくはバゲットなども作っていきたいそうだ。
並外れたセンスと信頼とで、地元の人が毎朝パンを買うお店になる日も遠くはないかもしれない。ひっきりなしに訪れる人々を見ながら、なんだか近くに住む人がうらやましくなってしまった。
取材日 1999年


花口さんの秘密