パティシエ イナムラ ショウゾウ

稲村 省三 氏

ホテル西洋には14年いました。あのホテルに来る人は、舌の肥えた人ばかり。お菓子一つとっても、世界のレベルに達していなければ受入れてもらえない。求められるものは非常に高いです。長くいる中で、下を育てていくこともしました。理想の上司像ってとても難しい。自分が海外に出ている間、理想の上司ってどういうのかいろいろ考えて、自分なりの像はありました。でも、それを実現しようと思っても、必ずしも相手にとって理想の上司かは分からないですよね。自分は、"責任""時間"ということに特に重きを置いていました。特に"時間"については取りかえせないこと。その時にやっておくべきこと、やるべきことはしっかりやって欲しいと思ったので、かなり厳しく言ったこともあったかもしれません。

海外にいたときには、店に4人に1人は女性の職人がいました。例えばクリームパティシエールを10キロ炊くとき、混ぜるのは大変だけど、女性もやるんです。でも、まだサラサラして混ぜるのが楽な最初は女性がやって、途中で重くなってきたら男性が代わる。こういうことが、ごく自然に行われていました。今、日本でもどんどん増えていますよね、女性パティシエが。見ていると、女性も男性も、やるヤツはやる。目的もしっかり持っている。そういう意味では全く同じです。確かに、体力の差など、一緒にやっていく難しさはあると思います。あとは、環境や女性としての宿命を、まわりの男性がどこまで理解できるかですね。そんな中、もう数人、目標とできるようなヒロインが出て来ているでしょう、もっとこういう人たちが出てくるといいなと思いますし、出てくると思いますよ。

それから、これからは、日本独特のいい素材、たとえば和栗とか美味しい桃とか、そういうものを使った日本独特の"洋菓子"が確立されていくんじゃないかと思う。1年だけのブームで終わっちゃうようなお菓子はおかしいと思うな。それから、発酵菓子も注目されて行くと思いますね。原点に戻る感じというか。素材の良さだけを残したシンプルなもの、これを今風にアレンジしたお菓子というものが。

この店はまだオープンしたばかり。目下の店の目標はスタッフみんなのレベルアップですね。お菓子作りに使っている素材は、ホテル西洋にいたときと同じものも多いですが、特にフルーツは、まだまだこれから自分で流通経路を確立していかなければと思っています。全国には、僕らパティシエがこだわってお菓子を作っているのと同じように、こだわってフルーツを作っている人たちがいる。そんな人たちを見つけて、旬を大切にした美味しいフルーツを使っていきたいですね。

店をこの場所に出したのは、以前住んでいていいなと思っていたから。東京の色々な場所にヨーロッパから帰って住んだけれども、上野ってパリに似ていると思ったんです。美術館がたくさんあって、森があって。文化がある街です。外国人の方も意外とたくさん住んでいらっしゃるんですよ。下町の方は、いい食生活をしてます。味もちゃんと分かる人が多い。店にはパウンドケーキの試食を出しているんです。自信のないお菓子じゃないわけだから、是非味わって「美味しい!」と納得していただいて買っていただければと思っています。
取材日 2001年1月

パティシエ イナムラ ショウゾウ
東京都台東区上野桜木2−19−8
TEL:03-3827-8584


稲村さんの秘密