ジャック

大塚 良成 氏

食べ物を作っている方、みなさんそうなのでしょうが、僕もやはり、「美味しいものを作って喜こばれるのが喜び」ということが、この仕事を始めたきっかけでもあり、今も続けている理由でもあります。といっても、最初はケーキじゃなくて料理人を目指していたんですよ。フランス料理を勉強していた時に、憧れの名店で、デザートの美しさに魅せられた。それまでシュークリームやショートケーキしか知らなかったから、もう、こーりゃすごい、芸術だなって感動しましたよ。そのとき、「よし、この道に進む」ってすっぱり決めました。

それからは色々な方々とのいい縁で、修業をつませていただきました。東京の「オーボンヴュータン」にいたとき、やっぱり一度はフランスで学びたいという思いがつのり、フランス国内30軒くらいのお菓子屋さんに手紙を書いたんです。返事が来たのはわずか2軒。修業にいった「ジャック」はそのうちの1軒ですが、当時、自分の師匠は、もう1軒のお店は知っていたけれど、「ジャック」のことは知らなかった。師匠が知らないお店も面白いなと思ってこちらに決め、渡仏したんです。

「ジャック」のあるアルザスは本当にいいところでしたね。牛乳だって、生クリームだって、すぐそこからバケツで運ばれるんですよ。フルーツもお酒も豊富。素材にはこの上なく恵まれている土地でした。そして、店には、アルザスならではのお菓子と、パリの洗練されたお菓子が共存していたんです。日本にいた時は知らなかったけれど、「ジャック」といえばフランスの名店。もちろん、オーナーシェフはパリの名パティシエたちとの交流があります。アルザスにあっても、タイムラグなく最新のお菓子の情報が入って来るんですよね。そこで「ジャック」の屋号をもらって帰ってこられたのは本当に名誉なことです。

今作っているお菓子は、向こうと全く同じものもありますし、私の創作の菓子もあります。でも、「ジャック」の名に恥ずかしくないような水準のお菓子を作るよう、日々努力しています。実は、先日、フランスに行って来たんです。店のケーキを写真に撮って、「ジャック」のオーナーに見せたら、「とてもきれいだ!がんばっているじゃないか」と言ってもらえました。それは、もう、とても嬉しかったですよ。

僕がお菓子で大事だと思うのは「香り」。「香り」を大事にしたお菓子作りをしようと思うと、おのずと材料は厳選され、鮮度を追求することになるんですよね。福岡は良いフルーツが入りますので、菓子作りにとても恵まれていると思います。僕は福岡出身ですが、子供の頃から天神に出かけるというだけで心がわくわくしていました。それだけ天神にあこがれていましたので、店を出すことができるなら是非このあたりにと昔から思っていました。今の場所に店を出すことができたことをうれしく思っています。

この店はね、間口が広いのが気に入っているんです。ガラス張りだから、バスに乗っていても、「あ、今日はまだケーキが残っている」ってお客さんもわかるんだそうです。創作の喜びは永遠の喜びですからね。そうやって気にかけて、買いに来てくださるお客様のためにもがんばります。
取材日 2000年5月


大塚さんの秘密