カノン 永島利秋さん    



この店のオープンは平成11年1月です。出身は神奈川ですが、東京、神戸、甲府といろいろな所で仕事してきました。最後にいたのは甲府の富士屋ホテル。本当はね、次はある大手の会社の製菓長として動くことが決まっていたんです。それが、妻の、「あなた、それでいいんですか」という一言で考え直しちゃって。そうだよな、自分のやりたいことをできる店を持とうかな、そして妻の出身地甲府で店を構えました。


昔自分の下で働いていた人たちが、東京をはじめ各地で活躍しているので、ここを出すとき正直プレッシャーもありましたよ。でも自分は自分、まわりを気にしないでやろうと今も思っています。


この土地で面白いなあと思ったのは、フルーツについて。桃とかブドウとか、近くにいい素材があるから、それを使ったおいしいケーキができると思うじゃないですか。でもね、実際作ってもそんなに売れないんですよ。夏、ゼリーを数種類作ると、桃とブドウが一番売れない。地元の人はみんなフレッシュなフルーツで存分にその美味しさを味わっているからということがわかりました。だからショーケースの「桃」とか「ブドウ」の文字には目がいかないんだろうなと思います。

目指すケーキは、食後に2,3個食べられるもの。軽さ、甘さ、考えますよね。作るときには、そのまま食べて不味いものは入れないというポリシーを持っています。例えばメレンゲ。メレンゲってそのまま食べても別に美味しくないじゃないですか。ムースに入れるのも、軽くするためだけの役割でしょう? 美味しくないと思うから、僕はムースにもほとんど使わない。他にも軽くする方法ってあると思うんです。お酒も、日本人はリキュール自体を楽しむ人ってほとんどいないですよね? だからほとんど入れていません。

シュークリーム プリン シフォンロール


売れるのは焼き菓子より生菓子です。中でもシュークリーム、プリン、ロールケーキなど、親しみやすいものが人気。でもね、それらは追加では作らないんです。売り切れたら終わり。どんどん出せば売れるのはわかるんだけど、ほら、自分としては他のお菓子も食べてもらいたいという思いがあるから。焼き菓子やジェノワーズには清里でとれる産みたての卵を使っていますが、フンワリ仕上がりとてもいいですね。

酸味やカカオ分の多いチョコレートを使ったり、ガレットブルトンヌに塩を入れたこともあるのですが、それらはまだこの地域では受入れられないのかなという感じがありました。なぜ店を東京でやらないの、という人もいますが、ここで地域の人に愛されるお菓子作りができればと思っています。

東京と違って、スタッフも自宅から通ってくる人が多いですね。一人暮らしをしている人より甘えが出てしまうこともあるようですが、しっかり自分のやりたいことを見極め、手を抜かないで仕事することが結果的に自分のため。有名店で修業という経歴より、自分がどう努力し、なにを学んできたかが大事だと思います。

取材日2002.10.13


カノン
山梨県甲府市下石田2-29-4
055-221-7122

永島さんの秘密