自然派パン工房 Kazy

山本 榮一 氏
(奥様の和子さんと一緒に)

「40才定年論」という本をね、ちょうど40才のとき、サラリーマンをしていた頃読んだんですよ。タイトル通りの本なんですが、妙に納得しましてね。なにか、会社をやめて他の仕事をしたいと思いました。でも、その「なにか」がなかなか見つからない。10年以上「なにか」を求めて考えながらサラリーマンを続けていました。

結局、行き着いた結論は、エコロジーであり、ヘルシーであり、女性がターゲットである商売。そこに、パン屋が浮かび上がってきたんです。以前から遊びでパスタを作ったり、うどんを打ったりしていたけれど、本格的にパンをやったことなんてありません。本を何十冊も読み漁りました。と同時に、天然酵母でパンを焼き、パン教室も開いているという、ピッコリーノの伊藤先生のことを知りました。話を聞いてみると、伊藤先生も最初からパン屋だったわけではなく、サラリーマンをしていたことがあるんですよね。そこから始まり、とにかくパンに対する考え方に近いものを感じて、女房とふたり、ここでお世話になることにしたんです。2年間、通いました。会社をやめたのは55才のときですが、1年早く女房にひとりで店をはじめていてもらいました。

さて店をやるぞ、ということになれば、まず店となる場所を探すわけですが、自由が丘など見ると、とにかく家賃が高いんです。とてもやっていかれそうにない。それで、結局自宅の1階を改装して、ほんの3,4坪の小さい店をはじめることにしたんです。オーブン1台とミキサーだけ。最低限の機械しか入れていませんし、タバコやさんみたいに窓からお買い物をする形式ですから、このスペースでもできてしまいます。でも、買い物の楽しみって、お客さんからしてみれば店の人とのやりとりの中にその楽しさの何割かはあると思いませんか。自分はそう思います。だから、トレーを持ってパンを選んで、あとはただレジでお金を払うだけ、なんていうのは絶対嫌でした。対面式の店をやりたかった。本当に小さい店ですが、店の前のベンチに座っておしゃべりしていく近所の方もいれば、犬の散歩の途中によって、ベンチで買ったパンをかじりながら一休みする人もいる。そういうの、とても嬉しいものです。

うちのパン屋は、生産量も半端なく少ないですよ。今日だって、角食なんて2本しか焼いていませんから。山食が6本。自分の店だから、こういう経営だって許されちゃうわけです。とはいえ、パン屋はやっぱり商売。美味しいパンを作ることだけでなく、営業センスも大事だとは常々思っています。
取材日 2001年3月

自然派パン工房 Kazy
東京都世田谷区奥沢7-15-1
TEL:03-3703-4936


山本さんの秘密