クッペ

池田 和彦 氏


親はサラリーマンです。自分は警察学校を「あわないな」って一ヶ月でやめました。ふらふらしていたとき、ある先輩に、「東南アジアで船を造る仕事と、京都でパン屋をやる仕事どちらがいいか」と言われたことがあったんです。京都のパン屋の仕事はね、その後東京に戻って10年働いたらフランスに修業に行かせてもらえるという話が付いていた。凱旋門、エッフェル塔…。そんな想像を一瞬のうちにして、迷うことなく「京都のパン屋!」と答えました。それが、パン屋になったきっかけです。結局京都に5年、その後三重で2年。フランスに行くことはなく、東京に戻ってこの店を始めました。今年17年になります。

今から7,8年前に転機がありましたね。3人の人を使って仕事をしていたのですが、みんな辞めてしまい1人になっちゃったことがあったんですよ。今までと同じ生産量のためには、同じ製法では間に合わなくなった。いろいろ研究を重ねた結果、高温で短く焼く、皮のしっかりした食パン、プルマンが生まれたんです。よそは40分焼くというプルマンですが、実はうちは25分なんですよ。現在にいたるまで人気商品です。一日5,6回焼きますが、プルマンのふたをあけるときは今も楽しみな瞬間。自分にしてみれば、本当に毎回違う焼き上がりなんです。「よく出来た」というときは心から嬉しいですよ。もしもある日、全てのパンにおいて納得のいく「よく出来た」という焼き上がりだったら、もうこの仕事やめてもいいです。それくらい、心から納得の出来ってないものなんですよ。ちなみに7,8年前のこの時期にはパンの値上げも余儀なくしました。でもね、そこでついて来てくださるお客様がいたのは嬉しかったし、励みにもなりました。

自分にとって美味しいパンとは、『美味しそうなパン』なんです。ふっくらと、色艶がよくて並んでいる商品なのに思わず手が出てしまいそうなパン。素材については、悪いものは決して使いませんが、特別なものを使っているわけでもありません。菓子パンも結構種類がありますよ。あんぱんやクリームパンのフィリングには少しこだわりがあります。まずその量。あんやクリームが好きでお客さんがそのパンを選ばれるわけですから、昔からたっぷり入れています。カスタードクリームは絶対自家製。一度市販のものを使いましたが、どうしても自分で納得できませんでした。あんこは和菓子用のもの。東京はこしあんが多いですが、自分は関西でパン屋をスタートしたせいかつぶあんが好き。今、店では両方置いているのですが、関西では圧倒的につぶあんが多いんですよ。

今は夜の11時からパン作りをはじめています。最初に焼き上げるのがメロンパン。確かに、開店の時間にはもう焼きたて感はないでしょう、でも、自分がベストだと思うメロンパンは、この時間に焼いたものなんです。全て焼きたてにこだわるのではなく、美味しいパンを作っていきたい。『上食』ではなく、『常食』。いつ食べても飽きないパンを目指しています。将来は対面販売で、たった8種類くらい、自分の本当に気に入っているパンだけしか置かないような店をやりたいですね。でもこの土地を離れてしまうと、地元で買いに来てくださってるお客様に申し訳ない。この店を改装して、置くパンはプルマン、メロンパン、あんぱん、コロネ…。なんて時々考えているんですよ。
取材日 2001年1月

クッペ
横浜市保土ヶ谷区境木本町1−35
TEL:045−721−2388


池田さんの秘密