ラ・バゲット 鈴野恭司さん
<経歴>
1964年生まれ。チョコレートと飴を扱っている会社に入社。その後、町のケーキ店に。パンも扱っていたことから、そちらに目覚め、本格的に学ぼうとルノートルへ。10年近く勤めた後、町のパン屋の立ち上げを手伝い、渡仏。フランスの北から南までパンを食べ歩く。95年にサンミッシエルをオープンさせる。レストランからの注文が多かったことから一時宅配専門になる。98年にラ・バゲットと名前を変えて宅配及び店舗も併設。99年12月に店舗のみ現在の場所に移す。


今、1日1500本近くのバゲットを焼いています。正真正銘うちの店の主力商品ですね。 自分で商売をはじめた95年当初からこうしたバゲット中心のスタイルをとったのはなぜか。さかのぼると、ルノートルに10年いたあと、フランスを食べ歩いたときが原点になっていると思う。実はね、この渡仏は、パンを学ぼうと思ったからではないんですよ。正直言うと、パン作りにちょっと飽きていて、そろそろこの仕事は辞めようかとさえ思っていたときなんです。それでもフランスに渡った1年で100数十店のパンを食べ歩いてしまったのだから未練はあったはずなのですが。食べた中でも印象に残っているのは、ポワラーヌのパンです。ほとんどカンパーニュだけで勝負している老舗中の老舗パン屋なんですよ。


さて、帰国してなにか仕事をと思ったのですが、結局自分にはパン以外できることはないと気付きました。では店を出そうと思ったとき、ポワラーヌのことを思い出した。それが、バゲットに特化するという店の形態になったんです。


最初は、新宿から遠く外れた、たった13坪の店でスタートしました。ふつうに小売りをしていたのですが、お客さんにレストランの方が多かった。彼らはランチ前の10時半とかに買いに来るでしょう。バゲットの焼き上がりは大体その頃を目指すのですが、どうしても10分15分遅れる日もある。そうするとみんな、店の前で待っているんです。それを見ているとこっちも慌てちゃって、焼きが甘いまま窯から出しちゃったり。これじゃいけない、だったら焼きあがったらこちらからお届けしますよってことで、宅配をはじめたんです。





宅配の和がだんだんこれが広がってくると、フランス料理のレストラン同士のいろいろな繋がりも見えてきました。その中に入って色々な人とお付き合いすることで、パンだけでない大きな世界が広がったのが何よりの宝。働く原動力とも言っていいほど大事だし、楽しいです。そもそも自分自身、料理にとても興味があるので、食べ手へのプレゼンテーションの場として、99年に開いた靖国通り沿いの店ではイタリアンーティングスペースも設け、カスクルートやピッツァ風のフォッカッチャなど提供しています。





実は今、バゲットにある実験をしている最中。発酵にはイーストだけを使用していたのですが、ほんの少し、天然酵母を入れるようにしたんです。朝に仕込む何回か分だけ、それもわからない程度にです。これによって日持ちが良くなり、少し味が濃くなります。食事に合う軽やかなパンが身上だから、それを捨て去るわけにはいきませんが、こうすることでもっと美味しく、理想のパンに近づくかなと思っているんです。



取材日2002年6月14日

ラ・バゲット
新宿区新宿6-13-3
03-3352-8130

鈴野さんの秘密