ラ・ブランジェリー・ピュール

梶原 利之 氏

親は共働きだったんですが、母親が休みの日などにパンやケーキを家で作ってくれました。小学生の頃から自分も一緒に作っていたんです。なんと当時から、パン屋さんになりたいと思っていたんです。

料理も好きで、自分で作るときには「ミスマッチ」を楽しんでいましたね。例えば納豆炒飯はよく作ったもののひとつ。「ミスマッチ」を楽しむ感覚は今でもあって、「絶対にあわない」と思われているものも、実は試すと「案外あうじゃない」ってこと、あると思うんです。パンに和食というのもその例なんじゃないかな。「合わない」という固定観念があるからそう思ってしまうだけで、まっさらな気持ちで食べたら絶対合います。

東京製菓学校のパン課を出た後、どこか大手で基本は叩き込んでもらおうと、紀ノ国屋のベーカリーに就職しました。あそこは品揃えが特殊です。外国人お客様が多いから、いろいろな国のパンを揃えているんですよね。いかにも穀物の塊という、フィンランドのパンなんかが印象的。初めて見たときはびっくりしましたが、じっくり噛むと美味しいパンなんですよ。自家製酵母も覚えました。自分で店をやるときには自家製酵母で作った噛むほど美味しいパンを作りたいと、ここにいた3年間でイメージが湧きましたね。

その後は、個人店を数箇所まわり、1998年にここをオープン。最初は、ハード系ばかりを5,60種類置いていましたが、「あんぱんないの?」「クリームパンないの?」という声に、地元を中心にみんなに喜んでもらえる店にするには、やりたいパンも続けつつ、ニーズにあわせたパンも作らなくちゃいけないと思ったんです。あんぱんやクリームパンが導入部分となって、ハード系のパンにも挑戦してくれるかもしれないし。
香りのいいグリーンレーズンから起こした酵母を使ったものや、まわりが堅く焼きあがるリンゴから起こした酵母を使ったものなど、いつかは食べてもらいたいけれど、きっかけはなんでもいいと思っているんです。「看板娘に会いたいから毎日買いに来たんだ」っていうのもあり。とにかく、まずはなにか店のパンを食べてもらいたいな。

作るのと同じくらい、販売にも力を入れています。販売員には、自分で店のいろいろなパンを食べた印象を、ストレートに伝えられるようになって欲しい。「今日はビーフシチューなんだけど」っていうお客さんに「それならこれが合います」って言えるようにね。
そしてそういうコミュニケーションが自然にうまれるような店にしたいですね。せっかく専門個人店なのだから、機械的でないサービスをしたいです。
なにかクレームが来たときは、お客さんの声を聞くチャンス。マイナスをプラスに変えられる機会です。それに、何も言われないより意見を言ってもらえるというのは嬉しいことだと思っています。

今、朝は4時から働いています。店の上に住んでいるんです。職人としての環境は最高ですが、逃げられない辛さというのはありますね。でも、パンが好きだから苦しくはない。何年か先には、料理との相性、食べ方が提案できるような、軽食を出すカフェを併設した店をやれたらいいですね。

取材日 2001年12月










ラ・ブランジェリー・ピュール
東京都目黒区五本木3-25-16
TEL:03-3715-7150

梶原さんの秘密