ラ・フーガス 仁礼 正男 さん

みんなが高校に行くから自分も高校に行こう、みんなが大学に行くから自分も大学に行こう、という感じで流されて生きてきた。大学を卒業するとき、このままだとなんとなくサラリーマンになってしまう、このあたりでしっかり自分のやりたいことを考えようと思ったんです。そうしたら、"作る"ことが好きというのが見えてきた。
最初はね、靴職人になろうと思ったんですよ。イギリスに留学して学びたかったんだけれど、英語もできないから無理かなあというのと、親の反対とで諦めました。次に考えたのが、食べ物を作ること。学生時代からいくつかの飲食店でアルバイトをしていたこともあって、「食」って身近だったんですね。特にお菓子屋でのバイトが楽しかった。それでお菓子かパンかと思って、パン屋に入社したんです。ここで2年。そのあと『ハナ・コウジ』という店に移りました。




この『ハナ・コウジ』で、それまでの2年間が覆されましたね。この店にはパン作りのマニュアルがなかったんです。自分で生地を見ながら発酵させたり焼き時間をみたりする。前の店は全てがマニュアル化されていたのに。ある程度美味しいパンは作れると天狗になっていたのだけれど、自分はマニュアルを取っ払うと何もできないんだなと痛感しましたね。店には、今『シェ・カザマ』をやっている風間さんがいたんです。風間さんには、パンを作る姿勢とかお客さんに対する姿勢とか学びましたが、パンの作り方を教えてもらった記憶はありません。「覚えたきゃ見て覚えろ、技術はぬすめ」みたいな、ある意味古風な雰囲気の店だったんですよ。



風間さんが辞めた後、自分が製造のトップになりました。「風間さんが辞めたから味が落ちた」とか「売り上げが落ちた」と言われるのが嫌だったので、そこからがむしゃらに頑張りました。店長になり、店全体が見られるようになったと感じた時、「あ、これなら自分で店をやっても何とかなるかもしれない」と思えた。それで独立したんです。94年秋のことですね。

その日から今日まで、毎日、「もっと美味しく、もっと美味しく」と思いながらパンを作っています。自分で店を持ってからのほうが、パンや素材について勉強していますね。柔軟に受入れようとする頭を作ると、いろいろな情報や知識がどんどん入ってくるもんなんですよ。
実は、一見するとオープン当時から変わらないように見えかもしれませんが、どのパンをとっても配合とか製法とか、どんどん変わっているんです。現状維持っていうのは後退にしかならないから、そうやって味を進化させていくことはずっとし続けなくてはいけないと思っています。だからね、「ここが終着点」だなんて思うことは絶対にないんですよ。
取材日 2001.10.18

ラ・フーガス
世田谷区梅丘1-21-2
03-3429-0121

仁礼さんの秘密