りーべるだんふぁんす

成岡 周造 さん  



   




静岡に「りーべるだんふぁんす」をオープンして15年経ちます。長く使うことを考えてレンガや石を使った建物は、10年目くらいにやっと落着いてきました。最初は新しすぎて雰囲気が出なくて。今はいい具合にコケが生えたり、木のテーブルやイスにも使い込んだ感じが出てきました。


大学時代には、東京の大学で法学を学んでいました。当時は、掛け持ちしてバイトをやり、そのバイト代をほとんど食べ物につぎ込んでいましたね。高級スーパーでフォアグラやキャビアなんかを買って来て、10数万円を3,4日で使い切る、なんてことをやってました。作ることは元々好きなんです。
卒業後は八王子の法律事務所に就職、そのあと苦境に立たされていた実家を手伝うために静岡に帰省しました。

実家は主にみやげ物を作っていました。やはり大量生産では質の高いものを作るのは難しいと実感しましたね。自分でも本を見てお菓子を作ってみたりしましたが、今と違って昔はお菓子の本を見ても作れなかった(笑)。今見るとメチャメチャなレシピなんですよ。そんなことはわからないので、なぜ作れないんだろう?と悩みました。昔は教えることをキチンとやろうという人があまりいなかったんだと思います。そこで、父を手伝いながら代官山の「イル・プル・シュール・ラ・セーヌ」の弓田シェフの所にお菓子のことを修業というのか、教えていただくという感じで通っていました。今のケーキもそれがベースになっています。東京と違い素材にやさしい味わいのものを使うことが多いので、インパクトが強すぎて負けてしまうような生地やクリームにはしないようにしています。オープン当初は発酵バターやアーモンドの苦味などを味わったことのない人が多かったので、苦労しましたね。口が慣れればおいしいものですが、慣れないうちは抵抗がある。今はずいぶんお菓子の味がわかる人が増えたと思います。


個人的には味のないものが好きじゃないんです。タルトや焼き菓子など粉を味わうお菓子には、石臼引きの北海道産小麦、他に機械挽きの北海道産小麦を使っています。フランス粉もいいのですが、劣化が早くせっかくの味がおいしいうちに味わってもらえないリスクがあるので使っていません。

地方だと、チョコレートでも時々古いものが入ってくることがあるんですよね。それに、アーモンドやバターなどは時期によって味が変わるので状態をみてちょこちょこと変えるようにしています。今使っている生クリームは自分が1番おいしいと思っているものなのですが、味や品質が安定していないんですよ。それも夏と冬、という季節の違いではなく、先週はものすごくおいしかったのに、今週はだめ、というレベル。おいしくない時は、仕方ないからバターにしてしまいます。このバターで作ったバタームースは本当においしいですよ。原価は普通のバターとは比較にならないほど高いですが。



その生クリームを使ったロールケーキが人気商品なのですが、あえて大量製造はしたくないと思っています。どの商品もそうですが、多く作れば必ず味が落ちてしまう。だから、自分たちが食べていかれる分、といったら変ですが、きちんと作れる分だけを出すように心がけています。うちでは、その日の分のケーキがなくなったら、ショーケースの電気を落としてしまうんです。来てくださった方には申し訳ないのですが、追加して作り余ったものを翌日出すということは絶対にしたくないんです。



この仕事は好きじゃないと無理だな、とつくづく感じますね。損や得を考えていてはちょっとできない。静岡ではケーキだけをやっている店というのは少ないんです。まだまだ難しいというのが現状ですが、ケーキのおいしさをわかる人が増えているのは事実。そして、飾り立てるケーキではなく、シンプルなおいしさのケーキに嗜好は戻ってきている。
15年間でやっと自分の味が定着してきたんじゃないでしょうか。今までやってきた自分のスタイルを崩さずに、これからもケーキを作っていきたいと思います。




りべーるだんふぁんす
静岡県静岡市大岩1-8-19
054-246-2561

成岡さんの秘密