メゾン・ド・プティ・フール

西野 之朗 氏




子供のときから、食べることは好きでした。おふくろの料理の本を見て、高校のときに作ったチーズケーキを「美味しい美味しい」と褒められたのが、「よし、料理の道へ行くぞ」と決めたきっかけ。単純な理由なんです。最初は料理のシェフ希望だったんですが、結局お菓子にひかれてしまったというのは、やはりチーズケーキが原点かもしれません。

オーボンヴュータンで修業後、フランスへ。オーボンヴュータンでもフランスでも焼き菓子は充実していましたが、その頃の自分は、ごくごく普通に、華やかな生菓子のほうに目が行っていました。戻って来て、焼き菓子の卸を始めましたが、それも店を出すようなお金がなかったから。焼き菓子を専門でやろうなんて思っていなかったんです。いずれ店を出したときは生菓子もと思っていました。 それが、1990年にいざ店を出すぞというときに、いままでのシステムを一からかえるのはあまりに大変だと気付いたんです。だから、結局焼き菓子専門になってしまいました。

卸のときより種類もぐっと増えましたけれどもね。 専門で腰をすえてやりはじめると、「そういえばオーボンヴュータンにはこんなお菓子があったな」とか「フランスであんなお菓子を見たな」とか蘇ってきたんです。そんな中で店としての方向性がしっかり見えてきた感じですね。「焼き菓子だったらここへ」といってもらえるような店にして行きたいと。 焼き菓子っていうのは、仕込みの時点でほとんど勝負がついているんです。空気の抱き込み方で、焼きあがって食べたときの食感が全く違う。生菓子だと、デコレーションや焼きあがった生地とクリームの味の積み重ねの中でその後の修正が少しはきくのかもしれませんが、焼きっぱなしのお菓子はそうはいかない。だから仕込みのとき、絶対に手は抜けません。

粉やバターの味も、生菓子よりダイレクトに伝わりやすいですね。今、ほとんど国産の粉を使っています。バターは普通の無塩がメイン。でも、ヴィエノワズリには外麦と発酵バターを使っているんです。こうすると力強さが出る。ヴィエノワズリはそういう味のほうが美味しいと思うんです。 そのほかの素材も、特別高級なものは使っていません。だって、高級素材で値段の高い美味しいものを作るのは当たり前でしょう? そうじゃなくて、手に入る普通の素材を使って、その素材の頂点の所を極めるような味作りをするのが自分達職人の仕事だと思っているんです。

うちの店は、贈答用のお菓子を購入される方がとても多いのですが、もっとデイリーに食べてもらえるものを充実させたいですね。店を出たらぱくっと口にできるようなもの。そのために、例えばタルトの種類を増やしつつ小さいサイズを作ってみるとか、そういう工夫をしてみたい。

それから、タルトの仕上げをその場でやるとか、動きのある店をもう一軒できたらいいなあという夢はあります。 ここで修業した若いのが、最近やはり焼き菓子専門の店を出したんですよ。見た目華やかな生菓子を置かないというのは、勇気のいることだとは思う。でも、焼き菓子、ショコラティエといった専門店がこれからもっと出てきたら面白いんじゃないかと思うんですよ。今の時代、目指していくお客さんは絶対いると思います。

取材日 2001年11月















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西野さんの秘密