メゾン グラス アンジュ

松尾 文人さん
子供の頃からものを作るのが好きだったこと、実家が鹿児島でお菓子屋をしていることもあって、高校を卒業したあとは特に抵抗もなく製菓学校に行きました。なのですが、学校で勉強している間に、どんなお菓子を作っていきたいのか、どんな店で働きたいのかが自分自身でよく分からなかったんですね。それで、そのままとどまって、講師をすることにしました。

自分が先生として生徒たちに色々と教えるわけですが、そんな中で、 「フランスではこうですよ」 という言葉がしばしば出てきますよね。でも、僕自身はフランスに行って学んだことがない。だから、本当にフランスではそうなのかなあと自信が持てないこともありました。それで、一度フランスに行って、自分の目で確かめてみたいと思っていたんです。講師を5年勤めた後、渡仏を決意しました。


せっかくフランスで働くなら忙しくても勢いのある店で、と希望していたところ、『ジェラール・ミュロ』に決まりました。働きながらフランスを食べ歩いて思ったのは、日本のショートケーキ、シュークリーム、モンブランのように、フランスにも多くの人に好かれる定番はあるんだということ。

「フランスにはシュークリームやショートケーキはありません」 と僕が授業で教えていた内容は間違っていなかったけれど、実際には、フランスの人々もいつも最先端のお菓子を食べている訳ではなく、多くの人が日本の定番ケーキに当たるエクレアやタルトを食べていると知りました。それに、一部の超有名店をのぞくと、最先端の新作のお菓子というもの自体も多くなくて、スタンダードな季節の定番でショーケースの中が成り立っているというのも分かりました。




他に強く感じたことは、フランスの人は、デコレーション一つにしても、ちょっとした、本当に簡単なアレンジでお菓子を生き生き見せるセンスを持っているということ。テクニックというのとも違うんです。多分、人を喜ばせるということが上手いんだと思う。

2年いて帰国しました。日本の『ジェラール・ミュロ』にいたり、フランチャイズ展開しているお菓子屋さんの商品開発を手伝ったりして、2002年2月にここをオープン。ご存知のようにこのあたりはお菓子屋さんの激戦区ですが、自分が住んでいたのである程度の土地感があったことと、ちゃんとやれば需要のある地域なのかなと思ったことも大きいですね。


お菓子は家族みんなで楽しめるようなものを目指しています。お酒はほとんど使わないですね。ショートケーキに代表される、ふつうのお菓子を大切にしたい。パリにいた頃していた食べ歩きも今はしていません。むやみに食べるという特殊なシチュエーションって、楽しくないし、ちょっと違うかなって。それより、お客様と同じように、家族で食べる場を大事にしています。

今は忙しくて手が回りませんが、いずれお菓子教室も開けたらと思っています。フランス体験と自分の店を持ったことで、以前とはまた違った視点からも教えられるかな、とも思うんですよ。


取材日 2002.9.13

メゾン グラス アンジュ
横浜市青葉区青葉台2-26-1スクエアハイツ1−C
045-988-5527

松尾さんの秘密