アトリエ・ド・マヌビッシュ

山本 和弘 氏

1970年、まだ自分が小学生の頃です。日本で万博が開催され、見に行ったことがありました。そのとき、『ベルギー館』で今まで口にしたことがない食べものをいくつか食べたんです。衝撃でしたね。今思うと、それが最初に『食』関係の仕事に就くきっかけとなったのかもしれません。もう少し大きくなってから、「世界のどこででもできる仕事をやりたい」と思いはじめました。食べものを作る仕事は、まさにそれに当てはまると思ったんですよね。そこからこの仕事を始めました。

最初はお菓子から。そしてレストラン、それからパンという順番で携わってきました。パンは、『ビゴ』で教わって、その後軽井沢の『浅野屋』でハード系のものを専門に修業。レストランを始めるにあたって、パンを大切にしたいという思いがありました。自家製のパンを出すレストラン『マヌビッシュ』を始めたのは1996年です。店の片隅でパンを売ったりもしていましたね。そのうち、自分でもどんどんパンにはまっていったんです。よく言われることですが、パンは本当に生きもの。同じようにやっても、日々違う。これがもう、面白くて。

パンを作るのにレストランの厨房では手狭だと真剣に思っていた頃、幸い、信頼でき安心して任せられるシェフが育っていました。それで、料理のことは彼にほぼ託して、1999年、パンの店『アトリエ・ド・マヌビッシュ』を近くにオープンさせたんです。

レストランにはしょっちゅう顔を出しますが、現在自分がフライパンを握ることはありません。僕自身はパン作りに専念している状況ですね。パン屋のほうでも、ちょっとしたお惣菜を売っているんですよ。売っているパンは20種類ほどで、その多くは食事パンです。だから、それにあわせてお惣菜も楽しんでもらえたらいいなあと。食事に合って、毎日食べても飽きない。そんなパンが好きですし、そういうパンを作っていきたい。お店では角食やバタールなんかが一番よく出ます。お客さんに思いが通じた結果だったら嬉しいですね。

下町の人は、山の手の人より普段の食にお金をかけているようにも思います。美味しいものをしっかり分かる人が多いですよ。お客様とのコミュニケーションも積極的にとっています。「ちょっとしたパーティーで、大皿に並べたいから」とお惣菜の注文なども入ります。そして受け取りに来て、パンも買っていってくださる。一緒に楽しんでいるんだと思うと嬉しいですよね。

食事は気心の知れた人と、というのがベースだと思っています。だから、レストランの方では暖かみのある雰囲気を出し、小さいお子様を連れたお客様も大歓迎なんです。パンももちろん食べ放題。今後はゴミの問題をはじめ、環境問題なども考えながらレストランもパン屋も経営していきたいなんて思っています。
取材日 2001年1月


山本さんの秘密